自動運転車の事故には法令とミラーだけでなく政策で対応
- 自動運転車の市場参入が進む中、この技術を日常生活にどのように組み込むかを米国運輸省が評価中。
- メーカーは、自動運転車が他のドライバーや歩行者、自転車、公共交通機関とどのように道路を共有するかに取り組む必要がある。
- 政府は、路上テストやコンピュータービジョンのテストだけでなく、自律走行車の安全性をテストするためのデータポイントを開発する必要がある。
無人運転車の未来は、世界が先を急ぐユートピアのようなものだ。希望に満ちた大衆にとっての自動運転車は、より多くの人々を効率的に移動させ、人的ミスが引き起こす危険を減らす可能性を提供するものだ。だが、馬の不要な馬車と呼ばれた自動車同様の重要な革命として歓迎されるこのテクノロジーは、ロジスティクスの問題や新たなリスクを生み出してもいる。自動運転車の夢がいつ、どのように実現され、安全性の確保に何が必要なのかは、まだ不確かなのだ。
人口密度の高い州で自動運転車の本格展開の意欲が高まる一方で、アリゾナ州で起こった死亡事故は、自動運転車の路上テストの勢いを失速させることとなった。だが自動運転車の検証ができなければ、その進展も起こりえない。問題が生じた場合に、責められるべきなのは誰なのか?
オバマ政権中に米国の運輸長官を務めたアンソニー・フォックス氏は、安全性に関して「自動運転車の法律を巡っては多数の課題があり、そこには法的責任、サイバーセキュリティ、プライバシーの問題が含まれます」と話している。こうした問題へ、このテクノロジーが広く普及する前に対処するのは市民と連邦政府、州政府、自動車業界の責任だ。
人間が果たす役割
今後20年のうちに、ある程度の自律性を持った大量生産による自動車が普及すると予測している人が多い。運輸長官としての任期中、フォックス氏とそのチームは、マシンが操縦する自動車と人間が操縦する自動車の両方が混在して車道を走る移行期間を見込んでいた。
アメリカ合衆国運輸省 (USDOT) の運輸省道路交通安全局 (NHTSA) は、運転操作の全ての側面を人間が完全に制御するレベル0から、完全マシン制御の自動車のレベル5まで、自律性の標準レベルを定めた。「ある人がレベル3の車に乗車中で、その自動車が特定の操作を独自に制御可能である場合、その操作を人間に任せる必要が生じた場合の心づもりを、車はどう人間に伝えるべきでしょうか?」と、フォックス氏。「こうした相互作用は、どう機能するのでしょう? 重要な領域になると思っていますが、まだ私たちはそれを学んでいる過程なのです」。
前途有望な選択肢の手がかりとなるのが、自動運転車が他の車両、自転車、インフラ、歩行者とコミュニケーションを行う手法にある。こういった自動運転技術が路上における衝突が少なくなる未来を示唆している一方で、人間の言葉を介さない運転時の合図も考慮する必要がある。自動運転車両が手動運転車両と並んで走ることを考えればなおさらだ。例えば、すれ違うドライバーが読者に手を振った場合、それは「お先にどうぞ」という合図かもしれない。自転車に乗って交差点に進入する際、ドライバーとアイコンタクトを交わすことで、進入前に読者の存在に気付いていることを確認することもあるだろう。だが自動運転車と遭遇した場合に、自動運転車が読者の存在に気付いており、道を譲ろうとうなずいたことを、どのように把握できるのだろうか?
法律事務所Venable LLPで政策部門シニアアドバイザーを務めるチャン・リュウ氏は、これこそが自動車メーカーが現在取り組んでいることだと話す。彼が重点的に取り組んでいるのは、自動運転車に関する政策と規制だ。「この業界が、その解明へ熱心に取り組んでいるシナリオや疑問には、実に多くの種類があります」と、リュウ氏。「例えば、さまざまな色のライトや、「お先にどうぞ」というメッセージの路上への投影などを試している企業があります。でも、そうした対策は目の不自由な歩行者には意味がありません。彼らに必要なのは、聴覚に訴えるシグナルです」。
政府と自動運転車
米国民は自動車運転免許の取得に際して、政府が管理する運転免許試験と視力検査により運転免許資格を有していることを証明する必要がある。このプロセスは、自動運転車には意味を成さない。フォックス氏がUSDOTへ在籍当時の政府は、このような基準に合格した車種の場合は、同一タイプの車種の購入者は再認可が不要だと規定した。
「ここで重要なのは、政府は規制面でテクノロジーに先行しようとしているのではない、という点です」と、リュウ氏。「適切な対処がどういうものなのかは、私たちには分からないのです。テクノロジーは急速に変化し続けており、政府の規制がそれについて行けるはずはありません。ですから、この問題へ迅速に取りかかる最良の方法は、そのテクノロジーがどう発展していくのかに注視し、規制をかける前に、もう少し成熟するのを見守ることです」。
フォックス氏のもとで、USDOTのチーフスタッフを務めたダン・カッツ氏は「政府で重点的に取り組んだことのひとつは、新興のテクノロジーの時勢に取り残されないようにすることでした」と話す。現在、カッツ氏は Virgin Hyperloop Oneで、グローバル公共政策部門と北米プロジェクト部門のトップを務めている。「反対の立場となった現在、重要なことは政府と連携してどう取り組むべきかに重点を置き、政府は取り残されることを望んでいないと理解することです。政府の多くは、私たちの取り組みを理解し、テクノロジーに追いつくのではなく、発展の一部となりたいという意欲を持っています」。
自動運転車の路上テストが安全なことを証明するためにも、政府はそれらの自動車を測定できる性能測定基準を開発する必要があると、リュウ氏は話す。それは例えば、時速Ykmで走行中の自動車は、Xm以内で停止可能になっている必要がある、ということだ。
「運輸省道路交通安全局はデータ主導の機関です。その行動全てはデータに基づいたものです」と、リュウ氏。「重要なのは、フル自動運転車の規制にどう取り組むべきかを完全に理解するために十分なデータを、私たちは持っていないということです」。
自動化された未来で法的責任はどう変化するか
自動運転車の規制における役割について、州政府と連邦政府の間にはある程度の緊張があるが、その方針はよりクリアになりつつある。「人間が運転していなければ、その自動車自身が運転しているということになります。これは全くの未解決問題であり、それに対するアプローチは州によって異なっています」と語るフォックス氏は、業界が対処すべき重要課題はサイバーセキュリティとプライバシーだと考えている。
リュウ氏によると、製造者の法的責任にさほど変化は生じないという。メーカーは、現時点でも車両の不具合に対して法的責任を負っているからだ。「車両に何らかの問題があり、それが例えばタカタ製エアバッグのリコール問題のように死亡につながった場合、タカタには亡くなられた方々に対する責任が生じます。つまり、その点は大きくは変わらないということです。部品メーカーや自動車メーカーには、死亡に対する責任があるからです」と、リュウ氏は述べる。
米国が自動運転車両技術をどのようなペースで進展させるのかにかかわらず、それ以外の国がペースダウンすることはないだろう。中国は自動運転車への取り組みを加速させており、国外の自動車メーカーを招聘してまで国内でテストを行っている。
カッツ氏は、立法的な妥協点があると話す。「政府は、個々の偶発的な事故に過剰反応せず、イノベーションをシャットダウンするようなことはないと保証する必要が出てくるでしょう」と、カッツ氏。「それと同時に全ての事故を十分に調査し、業界がその業務実践を向上させ、確実に安全が最優先されるようにする必要があります」。
本記事は2018年6月に掲載された原稿をアップデートしたものです。