EVのユーザーエクスペリエンスを向上するアウディの新たな充電ステーション
- アウディは省スペースで分解、カスタマイズ可能な充電ハブを創造。展示会のブースを模したこのステーションは現場での組立が可能だ。
- モジュール部品のプレファブリケーションにより数カ月の工期短縮が可能であり、アウディはこのステーションをわずか4週間で建設できた。
- 利用者は1階で車のバッテリーを充電しながら、2階のラウンジでくつろげる。食料品配達のデジタルサービスの利用や、サステナブルな洗車の利用、Audi e-tron GTの試乗も可能だ。
EV普及における障壁のひとつが、充電インフラの不足だ。都市での生活者には自宅での充電が不可能な場合もある。アウディが思い描いたのは、EVオーナーが充電している間に1週間分の買い物をしたり、ラウンジでくつろいだり、Audi e-tron GTに試乗したりできる場所だ。このビジョンが、ドイツ南東部の都市ニュルンベルクに設置されたバリアフリーのアウディ充電ステーションで実現されている。
このステーションは幹線道路から数分の場所に設置されており、地下鉄の駅もすぐそばだ。地上階には屋根付きの充電ポイントが6基、上階には200平米のラウンジと隣接するテラスが設けられている。ラウンジの利用や新車の試乗より散歩で足を動かしたいという利用者のため、隣接した公園もある。ステーションのコンシェルジュ、ドミニク・ブーア氏は「EVを充電中のお客様の待ち時間を有意義なものにすることを目指しています。時間を無駄にするのでなく、獲得していると感じていただきたいのです」と話している。
自動車用バッテリーをリサイクルして出力を増大
ニュルンベルクのステーションでは1日当たり平均80台の車両を充電可能であり、その車両はアウディ製かどうかは問わない。モデルにより異なるが、EVの満充電には20-30分が必要となる。6基の充電ポイントの最大キャパシティは320kWであり、電力は1階のファサード内部に隠された充電キューブから供給される。このサステナブルな蓄電システムを提供するキューブには、解体されたアウディのテストカーから回収したリチウムイオン電池が使われている。リサイクルされたバッテリーが直流電力のバッファに使用されることで、ステーションの総出力は4倍に向上している。
2.45MWhのバッファストレージと屋上のソーラーパネルによって、このステーションを200kWの低圧送電網へ接続するだけで継続的にストレージモジュールを充填できる。この精巧なインフラは、高電圧供給ケーブルや高価なトランスも必要としない。「こうしたステーションの構築に必要なのは、舗装された場所だけです」と、ブーア氏。「モジュラーなデザインが、場所の選択に最大限の柔軟性を与えてくれます」。
プレファブリケーションで時間、お金、ストレスの問題を解消
アウディがステーションに展示会ブースのようなプレファブリケーションを選択したのは、冬季の建設が必要だったことも一因だ。このプロジェクトを請け負った建築事務所Designligaのマネージングパートナー、フィリップ・ハイチュ氏は「積雪は工事を不必要に長引かせます」と話す。「工場でのプレファブリケーションは天候の影響を受けず、現地では部品を組み立てるだけなので、時間と手間を大幅に省くことができました」。
窓や造作など6つの木製のモジュールそれぞれのプレファブリケーションを工場で実施。それらがクレーンで吊り上げられ、バッテリーが隠された立方体の上に配置された。モジュールの設置が完了した後は、配管とケーブル敷設を行うだけだ。
ステーションはAutodesk AutoCADを使用して3Dで設計され、プランニングからプレファブリケーション、施工までの全プロセスはわずか3カ月、組立は4週間もかからなかった。 「プレファブリケーションでなければ、冬の天候状態からして少なくとも4-5カ月はかかっていたでしょう」とハイチュ氏はこう話す。
可変モジュールという原理が、このコンセプトをさまざまな面に適応可能とした。「それによってプランニングや導入のリードタイムを短縮できます」と、アウディ充電ステーションのプロジェクトマネージャー、ラルフ・ホルミヒ氏は話す。ニュルンベルクのステーションは2023年末までの期間限定プロジェクトだが、アウディは既にヨーロッパに他のステーションの設置も計画している。チューリッヒにはオープン済みで、近日中にさらに多くが開設予定だ。これは都市のライフスタイルへEVを融合するための障壁の除去に大きな前進をもたらす、シンプルで実現しやすいソリューションと言える。