H2GOが水素貯蔵で解決する世界のエネルギー貧困問題
- クリーンテクノロジーのスタートアップH2GOは、まだ電気が不足している地球上の広大な地域へ、電力の安定供給を行うことを使命としている。
- 水素分子の貯蔵と放出を自律的に行う画期的なエンジニアリングシステムによって、水素の採用における最も高いハードルを突破。
- 設立者兼CEOのエナス・アボ=ハメッド氏は、博士号取得時の研究プロジェクトを、革新的なテクノロジーへと転換。
低コストでの安定した電力供給は、現代文明の重要な柱となっている。電気は繁栄には不可欠なものであり、人間はそれを壮大なスケールで消費している。だが、誰もが平等に利用できている訳ではない。
人類が昨年消費した電力は22,000テラWhを超える。これは1990年の2倍の使用量に相当するが、そのうちアフリカが占める割合は3%、ラテンアメリカも6%に過ぎない。それ以外はアジア、北米、欧州の先進国が消費している。
科学者であり起業家でもあるエナス・アボ=ハメッド氏がH2GO Powerを設立したのは、このように大きく広がる電力の不平等がきっかけだった。同社は、世界のエネルギー貧困を緩和し、送電網を利用できない約10億人の人々に、安定したワットやボルト、アンペア、オームを供給することを使命としている。
H2GOの取り組み
同社の重要な革新技術が、安全で効率的な水素貯蔵システムである「人工スマートスポンジ」だ。これは特殊な反応をもたらす内部構造を持ったスマートリアクターで構成されたもので、水素を貯蔵し、それを必要に応じて放出できる。
その化合物は、水素を液体または固体の形で貯蔵することが可能だ。H2GOの貯蔵システムに気体の水素分子が注入されると、それをスポンジのスマートフレームワークが化学結合によって捕捉する。外部システムに水素が必要な場合は、決められた温度で加熱することで、必要な量の水素が放出される。
この水素貯蔵システムはケンブリッジ大学が開発したもので、アボ=ハメッド氏の博士論文の研究プロジェクトとして始まった。この研究による発見はその後5年で、発電可能な水素のリアクター (反応装置) から遠隔地への輸送を実現するプラグ&プレイの発電機まで、革新的な製品を次々と生み出している。
H2GOは、水素発電機のエネルギー利用を最適化するAIシステムも開発している。ハードウェアの性能向上によるものにせよ、ソフトウェアを使用したコスト構造の最適化によるものにせよ、市場での製品の置き換えにはコスト削減が非常に重要だ。
なぜ水素なのか? 「水素は分子として非常に洗練されたものです」と、アボ=ハメッド氏。「そもそも炭素が含まれていないので、燃焼や電気化学的変換でエネルギーを取り出す際に、有害な副産物を発生させずに電力が得られます。十分な支援を得て、急速に規模を拡大できれば、水素を利用した発電で、ネットゼロ目標の達成に間に合うようエネルギーシステムを脱炭素化し、より持続可能な地球を実現できるかもしれません」。
H2GO水素貯蔵のメリット
動力源としての水素の長所は、その構造内に大量のエネルギーが内在している点だ。これはバッテリー容量の制約の緩和に役立つもので、特に電気自動車や風力/太陽光発電の普及に伴い、長時間の移動や発電の間欠性を克服するための持続可能な方法として注目されている。
大型の、もしくは高性能の機械を動かすには、リチウムなど採鉱でしか手に入らないレアメタルが必要となる。バッテリーの需要は世界規模だが、リチウムが豊富な産地はオーストラリア、ボリビア、チリなどの国にある。つまり、二酸化炭素集約型の原材料を世界各地の製造拠点へ大量に運搬するということだ。
また時間的な制約のあるバッテリーは、持続可能な電源としての適性を欠く。長時間の発電や蓄電は (今のところ) 不可能だからだ。実用段階のバッテリーでは4-6時間分の充電が可能だが、真の意味での「クリーン」なエネルギー供給網には数百時間分の蓄電が必要になるだろう。
こうした制約は、バッテリー駆動による飛行でも問題になる。例えばドローンは商業施設や一般市民の利用が増えているが、バッテリー寿命が短く、飛行時間に制約がある。
バッテリー電源への依存は、自然災害への対応や遠隔地への緊急医療品の輸送の有効性を制限する。それが、H2GOが自家発電の最初の応用例にドローンを選んだ理由だ。
H2GOの水素貯蔵がフライトに動力を供給
水素にはエネルギーが内包されている。そのエネルギーを放出し、利用する際には課題が生じる。水素は引火性が高く、発電に必要な量を封じ込めるための圧縮には危険が伴うからだ。1937年の飛行船ヒンデンブルグ号の爆発事故の映像を見たことがあれば、その危険性を理解できるだろう。
だがH2GOの技術は、小型の飛行体を確実かつ安全に、しかも長時間動かすようなスケールアップが可能だ。
同社の革新的な3Dプリント製水素リアクターは、オートデスクのFusion 360、CFD、3ds Maxなどのデザインツールでドローン用にスケールアップされている。リアクターモジュールは小さなサイズで大容量のエネルギーを蓄え、電力供給に十分な堅牢性を備え、飛行に対応できるほど軽量でなくてはならないため、さまざまな材料、構造、形状を、安全性と性能の厳しい許容値の範囲で検証する必要があった。
「3ds Maxは高性能な環境の要求に対応できる、複雑なデザインの検討に適していました」と、アボ=ハメッド氏。「設計を生産用に洗練させる際にはFusion 360が役立ちました」。
さらにアボ=ハメッド氏は、リアクター内部の最適な材料流動性を見出し、ドローンの稼働中に水素を抽出して動力を得るための熱伝達率の補正にCFDが極めて重要な役割を果たしたと付け加える。「こうしたツールが、製品目標の実現に役立ちました」。
新風を巻き起こす
アボ=ハメッド氏の持続可能なイノベーションは勢いを増している。MIT Technology Reviewは、彼女を「未来を変える」イノベーターのひとりに選出。2018 年、世界経済フォーラムは彼女を並外れた若手科学者に選出し、グローバル フューチャー カウンシルの年次総会に招待している。
世界が産業の脱炭素化を期待する中、これまでのエネルギーの生成、貯蔵、使用、輸送手段は置き換えられる必要がある。H2GOは、この移行で中心的な役割を果たすことを目指している。
「水素のバリューチェーンは、エネルギー生成に使用されていた従来の燃料とは異なります」と、アボ=ハメッド氏。「炭素排出量を削減してネットゼロの方向に進みたいのであれば、大規模な水素ソリューションに真剣に取り組む必要があります」。