建設業界におけるAIの可能性と導入のポイント

ー効率化とリスク軽減のためのアプローチー

AIが変える建設業界の未来

AIはここ数年で身近な存在となり、さまざまな業界に大きな変革をもたらしています。日本の建設業界でも、建設・土木を問わず幅広い業務にAIを活用する動きが広がっています。この動きを加速させているのが、建設業界が直面する深刻な人材不足です。

日本では高齢化にともなう労働人口の減少に加え、時間外労働の上限規制の適用により、人手の確保がますます困難になっています。実際に、建設業で正社員の人手不足を感じている企業の割合は69.6%にものぼることがわかっています(株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)」)。

人材不足は納期の遅延を招き、その結果として予算超過を引き起こします。さらに、原材料費の高騰やエネルギーコストの上昇、円安の進行などにより、建設コストは上昇の一途をたどっています。

深刻な人手不足と建設コストの高騰による収益の悪化により、建設業者の倒産件数は年々増加しています。日本における建設業の倒産件数は、2023年1,671件であり、前年の1,204件から38.8%も増加しているのです(株式会社帝国データバンク「倒産集計 2023年 (1月~12月)」)。

こうした建設業界の課題に対して、AIの活用が有効だと考えられています。建設業界では、AIの導入により、建設プロジェクトの総建設費を10~15% 削減できる可能性があるといわれています(Deloitte「建設およびインフラにおける AI の時代」)。

そして、AI を活用することで、建設業界は2035年までに利益を71%向上させる可能性があるという、インパクトの大きな予測が示されています。(Accenture Report「人工知能は、2035 年までに 16 の業種で企業の収益性を平均 38% 向上させる可能性がある」)。

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建設業界におけるAI活用のメリット

建設業界において、AIが先述のような大幅なコストの削減や利益の向上をもたらすのはなぜでしょうか。

まず、「大幅な業務の効率化」があげられます。多くのプロセスに手作業を要するというのが建設業の特徴ですが、AIを導入することで、スケジュールの更新、コストの入力、情報提供依頼書の作成など、日常的なワークフローを自動化でき、技術者が技術者としての仕事に集中できるようになります。 

細かなところでは、建設プロジェクトで撮影される数千枚の「写真の自動タグ付け」もAIで可能になります。AIが建設図面上の「シンボルの自動検出」をしてくれることで、見積作成時にシンボルを手作業で選択して数える必要もなくなるのです。

次に、「リスクの早期発見と予防」があげられます。AIと機械学習を用いることで、建設プロジェクトにおけるリスクの予測やその影響の評価が可能になり、プロジェクトをより効率的に遂行できます。

また、AIツールを活用することで、適切な情報をより早い段階で入手でき、問題をプロジェクトの初期段階で特定できるようになります。これにより、後工程で問題に気付くことによる高コストな手戻りが防げます。

そのほか、近年、欠かせなくなったサステナビリティ向上の取り組みにもAIが役立ちます。サステナビリティに関する意思決定はコンセプトデザインの段階で行う必要がありますが、AIを用いればコンセプトデザインの作成と同時に、エネルギー解析やエンボディド・カーボン(建物の建設で発生するCO2)の算出が可能になります。

詳細はこちら:建設における AI:成功と価値実現へのステップ

AIの真価を引き出す「共通データ環境(CDE)」

こうしたAI導入によるメリットを十分に享受するためには、「共通データ環境(CDE)の導入」が欠かせません。CDEとは、社内外のプロジェクトメンバー全員で効率的に情報を共有できるように、あらゆる情報を集めたデジタルハブのことです。特に、建設、設計、プロジェクト管理のように、データが分散することの多い建設業界で重要と考えられています。

CDEはAI導入の最初の一歩といえます。なぜCDEが重要になるのか。その理由を「データの一元化」と「データの標準化」の2つの観点から詳しくみてみましょう。

  1. CDEによる「データの一元化」の重要性
    データを一元管理することで、複数の情報源を検索する手間が省け、重要なデータが失われるリスクも軽減される。
    チームメンバーが統一されたデータソースを使用することで、データの冗長性や不整合が軽減される。
    クラウドベースのCDEにより、役員室から現場まですべてのチームメンバーが必要なデータに素早くアクセスできるようになる。
  2. CDEによる「データの標準化」の重要性
    ・データの保存方法や形式が標準化されることで、構造化された一貫性のあるデータが集積される。
    ・データが標準化されると、さまざまなソフトウェアやシステムがシームレスに連携できるようになる。
    ・ 標準化されたデータ入力プロトコルにより、エラーが減少し、データの信頼性が向上する。

こうした「データの一元化」と「データの標準化」のメリットは、日常業務や意思決定をサポートしてプロジェクトを成功に導くとともに、AIシステムの向上にもつながります。AIシステムの精度は、トレーニングデータの質に依存するからです。CDEによって、一貫性のある高品質なデータが集積されれば、AIがそのデータを学習・解析し、建設業界における効率性、安全性、サステナビリティはより高い、新たなレベルに到達するでしょう。

詳細はこちら:建設における AI:成功と価値実現へのステップ

未来の建設業界をつくるAIの可能性

日本の建設業界は今後、これまで以上に多くのことを、より少ない労力で成し遂げなければなりません。そのために、AIによる業務の効率化とリスク管理はもはや欠かせない要素といえるでしょう。

そして、AIの力を最大限に引き出すためには、データのサイロ化や建設工程間の断絶の解消が不可欠です。そのために、設計から計画、建設、引き渡し、運用までのあらゆる情報とプロジェクトメンバーとをつなぐCDEを構築しておくことが必要なのです。

AIは便利なツールであるだけではなく、未来の建設業界を形づくる大きな可能性を秘めています。この力を最大限に活用することで、建設業界は生産性の向上とともに、より安全で持続可能な未来を築くことができるでしょう。

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https://construction.autodesk.co.jp/resources/all/ai-in-construction-the-essential-role-of-data-for-seamless-ai-integration-jpn

Maiko Wakayama