AIが建設業界で実現するタスク合理化と、見識と安全性の向上とは
- プロジェクトを安全かつ効率的に、予定通り完了させるのに不可欠なデータへのリアルタイムなアクセスを提供することで、AIは建設計画における、業界最大の課題の解決に役立つ。
- AIと機械学習を活用することで、あらゆる規模のチームが、現場の安全性と品質リスクの予測、正確な入札と見積の提供、管理プロセスの削減、メンテナンス要件の予測を実行できる。
- オートデスクでBIM 360エンタープライズ製品部門のディレクターを務めるパット・キーニーは、近いうちに建設業界内でAIと機械学習が一般化すると考えている。
人間のように動作するようプログラムされた機械がこれまで以上に主流となり、それがビジネスのあり方を大きく変えようとしている。AIは、既に小売、医療、製造などの業界に浸透しており、建設業界もそうなりつつある。建設におけるAI活用には、コンピュータープログラムを使用して過去のデータから知見を得る機械学習や、人間の言語を模倣するモデルを作成する自然言語処理 (NLP) などの技術が含まれる。どちらもマイニングされたデータを使用し、特定のタスクを完了するための出力を生成するアルゴリズムを作成して、建設をより効率的で、より良質なものにすることができる。
AIによる建設プロジェクト計画へのアプローチ
オートデスクでBIM 360エンタープライズ製品部門のディレクターを務めるパット・キーニーは、近い将来AIと機械学習が建設と建設技術のあらゆる側面に登場するようになると考えている。「建設業界には、既に豊富な知識が存在しています」と、キーニー。「問題は、それが30年、40年もの経験を持った現場監督たちの頭の中に閉じ込められていることです。そうした知識をキャプチャし、建設業界に興味を持つ、若く聡明な大卒の人材へ譲り渡せる支援アプリの形にできれば、彼らの効率を高めるのにも役立ちます。それにより業界を次世代に対応させ、労働力不足にも対処できるのです」。
建設業界は世界的にもデジタル化が遅れている産業のひとつだが、企業各社で、AIがこの業界最大の課題の解決策となり得ると考えられるようになってきた。AIの合理化能力と現場での危険最小化の可能性は他に類を見ないもので、大幅な時間節約と相当のオーバーヘッド削減に貢献する。既に多くの組織で、AIが建設計画のプロジェクト管理、予算見積、スケジュール管理、現場管理などに活用されている。
誰も浪費しようとは考えていないものの、有能なチームを編成しても、現実にはほとんどの大型プロジェクトが予算オーバーとなっている。これらは大抵、当初の対象範囲の変更、信頼性を欠く時間の見積もり、コミュニケーションの不一致、設計上の欠陥、管理上の不具合、不測の事態など予期せぬ原因によるものだ。変動要素と関係者の多さにより、ヒューマンエラーの発生する余地が大きいのだ。大規模なプロジェクトにおいて、適切なデータインサイトなしに正確なコストと時間の見積を行うことは、事実上不可能と言える。
この実現のため、一部の企業はコスト超過の予測などに人工ニューラルネットワーク (ANN) を活用し始めている。ANNはAIのサブ分野で、人間の脳をモデルとするものだ。建設においては、ANNは過去のデータを用いて、プロジェクトの規模、契約形態、管理者の能力などの観点から、将来のプロジェクトの現実的なスケジュールを想定する。また、遠隔地からの実際のトレーニング教材へのアクセスをスタッフに提供し、リアルタイムなスキルアップを可能にする。これにより新しいリソースの導入時間が短縮され、大規模なチームが効率的に連携し、プロジェクトデリバリーを迅速化して、予算要件を満たすことが可能になった。
BIMがお助け役に
社員や管理職の定年退職や離職によって、レガシーな情報が失われてしまうことは多い。AIは、クラウドにアップロードされたデータを活用する新世代の労働者の、コラボレーションのリソースとなり得る。BIM (ビルディング インフォメーション モデリング) データは、建築におけるAI活用のために有効な方法で整理されており、機械のアクセス可能な情報が構造化されているほど、そのインテリジェンスも向上する。またAIは干渉の検出やモデルの徹底的な分析、潜在的な失敗領域の認識により、BIMを強化することができる。
BIMは、既にAECプロジェクトのコストと時間管理に大きな影響を及ぼしている。大型建設プロジェクトの規模を考慮すると、AIを活用したBIMは、企業が数億円規模のコスト削減を実現できる可能性を秘めている。過去のプロジェクトのデータセットを利用するAIは、スケジュールの効率化や潜在的な安全性のリスクを提案する力を備えている。
建設におけるAI活用のメリット
建設業界は、AIや機械学習の恩恵をさまざまな形で享受できる。この技術を活用できる主な分野を紹介しよう。
1. 設計と入札プロセスの支援: 機械学習は、入札書類や商品価格などのデータを分析することで、C&Iチームがより正確な見積を作成する支援を行う。デロイトの最近の予測によると、これによりタイムラインからの逸脱を最大20%、エンジニアリング時間を最大30%削減できるポテンシャルがある。
2. 現場における安全・品質リスクの予測: AIはリアルタイムに知見を提供することで、現場のリスクが脅威として顕在化する前に予測を行うことに役立つ。例えば、モデルは暴風雨などの建設で起こり得る危険を予測できる (Innovyze Info360は洪水予測と関連リスクの最小化に予測型運用デジタルツインの力を利用している)。コンピュータービジョンを導入することで、AIが画像や映像データを解析し、作業員、機械、物体のインタラクションをリアルタイムで追跡し、あらゆる現場で安全に関する潜在的な問題を監督者に警告できる。
3. 管理プロセスの削減: AIは、手書き認識アルゴリズムと自然言語処理を使用し、作業指示書やその他の書類を確認することで、事務処理の軽減と自動化に貢献できる可能性がある。この種の技術には、建設コストを最大で15%削減できるポテンシャルがある。
4. メンテナンスとサプライチェーン予測の構築: センサーをシステムに追加して運用に関するデータを監視・収集することで需要予測や予知保全を行い、プロセスや機械、設備の健全性を分析できる。このような分析を駆使した取り組みは、チームやオペレーターのミスを減らすのに役立ち、実際に故障が発生する前に予測できる。こうした取り組みには、運用コストの最大20%削減を実現できるポテンシャルがある。
建設プロジェクトにおけるAI導入の課題への対応
製造業とは異なり建設環境は常に変化しているため、新たな技術の導入に際しては慎重な検証が必要であり、そうでないと大惨事や命に関わる結果を招きかねない。 安全性に対する懸念は、AIを業界全体に導入する上での大きな障害のひとつだ。その他の要因としては、インターネット接続速度の遅さ、参入コストの高さ、建設分野におけるAI専門家不足、セキュリティの課題などが挙げられる。
建設プロジェクトでは、AIはセンサーやアクチュエーターなどの機器や機械からのリアルタイムな情報に依存することが多い。そういった意味で、建設現場がつながることのメリットは明らかだが、現場では通信やインターネット接続が、時として不安定であったり、存在しなかったりする。安定した信頼性の高い接続を必要とするロボットや現場監視システムなどの機械にとっては、これは課題となる。
建設へのAI導入を成功させるは、専門家がAI分野の研究者や他の業界専門家と協力し、業界のニーズを満たす新たなイノベーションを考案する必要であり、そのプロセスには時間もコストもかかる。
AIはまだ新しく、未検証な部分も多い技術であるため、その利用には安全面での懸念がある。特に、危険が満ちている複雑な建設現場では、AIが人間による監視で恩恵を受ける箇所を理解することが重要だ。AIが特定のプロセスの制御を完全に掌握する場合には、ある程度の安全上のリスクが存在する。例えば、建設で最も多い事故である転倒を考えてみよう。AIは助けにはなるが、手作業でタスクを完了するようプログラムされた組み込みシステムが誤動作すると、その結果は高コストで危険なものとなり得る。オートデスクのシニア プロダクト マネージャーであるマヌ・ヴェヌゴパルは「建築プロジェクトの品質の向上だけではありません」と語る。「現場の安全性の問題、安全上の欠陥の確実な特定も重要です」。
企業はAI技術の採用、導入の前にこうした問題に取り組む必要があるが、その一方で解決策の実行可能性を着実に増してきている。既に4G通信技術が接続性の問題を大幅に解決しているが、5Gはさらに高い信頼性と優れたシステム容量を提供する。現在の人材不足へ対応するには、政府が科学、技術、エンジニアリング教育への支出を増やすことでスタートできる。さらに、政府によってAIガバナンスのための規制が制定されることで、安全性の懸念に対処できるようになるだろう。そしてブロックチェーンのような技術が、全体の透明性を高めるのに役立つ。結局のところ、建設においてAIが実現しうる時間とコストの削減が、その形勢を一変させるポテンシャルを持っているのだ。
建設におけるAIが実現する、よりスマートで持続可能な未来
建設はデジタル革命に乗り遅れた最後の主要産業であるかもしれないが、現場は紙からデジタルワークフローへと移行し始めている。この上ないタイミングだ。AIによりステークホルダーは新たなデータを掘り起こし、飛躍的な効率化を図ることができる。
「機械学習は、広義のAIの範疇にある技術です」と、キーニー。「例えば、ある顧客には建設現場で1,000もの品質問題があったとします。それに目を通したいとは誰も思わないし、毎日行うことは不可能です」。だが機械学習モデルならデータの一覧を見て、有意義な知見を数秒で提供できる。
また、業界全体においてリスクマネジメントが不十分であるという、誰もが認識しているが口にしない、無視できない問題もある。オートデスク データ サイエンス マネージャーのシュバム・ゴエルによると、2017年には米国だけで971件もの建設業の死亡事故が発生しているが、建設業にAIを導入することで、この数字を大幅に削減できる可能性がある。「現場で大きな問題が起こる前にリスクを理解できれば、怪我や死亡事故をある程度防いで、現場の安全を維持できます」と、ゴエルは話す。
現在、世界人口の約55%が都市部に居住しており、2050年には70%に達すると予想されている。その間に人口は25%増加すると予測されており、インフラ投資へのニーズは決定的だ。シンガポールのようなスマートシティでは、デジタルヘルスケア システム、環境の清浄度や人混みのサイズなどを監視するセンサーなど、日常生活においてAIを活用したソリューションが既に一般化している。国連の17のSDGsのひとつに「住み続けられるまちづくりを」があるが、この目標は都市空間の管理、構築手法の変革なくしては達成不可能だ。
建設におけるAIは、よりスマートでクリーン、そして持続可能な未来への道を切り開いている。機械学習やロボットが完全に人間に取って代わることはないにしても、この技術は業界を大きく変える可能性を秘めている。「次の世代が、建設業界はエキサイティングだと考えてくれることを心から願っています」と、ヴェヌゴパル。「私の娘が10年後に、建設業界は刺激的な業界だと感じてほしいと考えています。業界を変革し、仕事の進め方を変え、よりよい場所にするのは、これは素晴らしい機会なのです」。
本記事は2019年5月に掲載された原稿をアップデートしたものです。