Test for JP
西川精機
今年で創業60年
業務内容の変化とかは?
ずいぶん業態の変化はありました。最初、先代が墨田区で会社を起こしたときには、お話をいただいたものの部品。当時、精工舎という会社があり、いまのSEIKOなんですけど、そこのごくごく一部の部品をやらしていただいた。ベンチレースという卓上旋盤で作る小さい部品、それを仕事としていただきながら生計を立て始めたのが、この会社のスタートです。
その後いろいろなお客様から話をいただくようになって、当然部品の範疇で、墨田区で進めていた中で、治具という工場の中で使う専用工具ですね、これの仕事をいただけるようになって、そこで全体的に治具を作る仕事が増えてきたものですから、ご当地の江戸川区に移転してきた。江戸川区に来てからは、もともとは旋盤加工だけだった会社だったんですけど、それに板金加工と溶接、あとは機械加工においてはベンチレースのような小さい加工機ではなくて、5軸マシンのような大ぶりな機械を導入してきたという流れです。
5年くらい前までは、国内のメッキ業へは海外進出?が激しくて、この先どうするかを模索してきている。メッキの治具に関しては、12年前の、富士通のスーパーコンピューターの京に使っている治具なんですけど、富嶽に関してはいまだに同じマシンが使われているということなので、性能の高いものを作ると怖い(笑)。メッキの治工具をやりながら、新しい仕事を模索するというところで、医学研究用の機械を作られているメーカーさんと、最初は協力会社として入ってたんですが、最終的にはその会社を引き継ぐことになって、一部の部品からメッキ治具のような器具までを作れるようになり、いまはその装置を手掛けさせていただいてきている。部品から始まって、いまは特注の装置まで手がけるようになっている。業態は劇的に変化しています。当初から金属加工を軸にしている。鋳物以外の金属加工は、だいたい自分たちのテリトリーでノウハウがある。
超小型モビリティやボーリングの投球機、アーティストの仕事をしたりなど、そういうものにも取り組むようなきっかけは?
ボーリング投球機は、障害をお持ちの方をフォローアップしている理学療法士の先生と、車椅子を設計されているエンジニアさんから、うまれつき身体が不自由でボーリングをやったことのないお子さんの、ボーリングをやってみたいという話を聞いて、何とかボーリングを楽しませたいということで、試行錯誤されていたそうです。時を同じくして、たまたま私が障害をお持ちの方のために、ボーリングランプを作ろうという、江戸川区の補助金をもらって開発してたので、そのチームがインターネットでたまたま我々のホームページを見つけて、協力することになった。それを作ったときに、トライ&エラーを行い、PDCAを回して一番いいものをピックアップして合流させたのがいまのボーリング投球装置なんですけど、そういうようなプロジェクトとしてうまく機能して、製品ができて、それをお子さんが初めて使ったときの喜んでいる姿
我々はB2Bで工場の一部の部品しか作っていなかったものが、ユーザーと直に接して、その方が喜んでいただけるアイテムを作れたときに、こういう仕事は嬉しいし、やりたいなと思うようになりました。
町工場の状況は?
惨憺たるものです。東京都の異業種交流会(下町ボブスレーや探査装置など)で30社ぐらいが参加。異口同音に、売り上げは下がっている。ものづくりにおいては、どの会社も売り上げは下がっている。どんなことをしたら、自分の持っているノウハウで新しいフィールドを見つけられるのか。そこには貪欲。今まで縁がなかったような大学の研究に資するような装置や部品も。能動的に動くメーカーであり続けなければいけないと思っている。
アーチェリーの開発は、もともとは講習会に参加された。アーチェリーには興味を持っていた?
簡単に言えば、弓矢というものは興味をそそる。アーチェリーをやっている人から出てくる言葉は、狩猟本能があれば弓矢に興味が湧かないわけがないでしょうと。もともと僕らはものづくりで、もともと機構には鋭敏に反応してしまう。アーチェリーを器具でなく機械や道具として見ているので、最高の器具であれば、最高の打ち方をすれば外れるわけがないと思う。私がアーチェリーを始めたときに、他国のメーカーしかなくて、それは悔しいなと思いながら、自分で作れないかと、いわば職業病ですが、こうすれば作れるんじゃ無いかと、いろいろやりはじめたのがスタート。それに、トライ&エラーをしている姿を人に見てもらっているうちに、人が協力してくれるチームになってくる。アーチェリーの協会もそうですが、初めは遠巻きに見ていても、本気でやっている姿を見ると協力してくださる。今回のジェネレーティブデザインも同じ。
私やうちの写真は、階段の手すりが鉄パイプで作られていたら、どんな溶接をされているか覗き込んで見てしまう。はじめ、切削で作られているアーチェリーメーカーの器具を手にしたんですけど、フライス加工を行ったときの工具が当たった跡が残っているので、こういうふうに当てているんだ、うちもこういうことはやれるなということは思いました。
ビジネスとしては?
はじめは作りたいという思いから始まっている。最初に思ったのは、アーチェリーは僕のライフワークとして、最高の一本をロングスパンで作ってみたいということしかなかった。そこでうちの写真にそういう話をしたところ、作れるという話になって、まずは初号機を作りました。今から考えると、そのハンドルは弓具としていかがなものかというものですけど、他国のメーカーの技術を模倣したりした中で作ったもので、弓としての形は整っていたものの、道具としては使えないレベル。それを作ったときに、もっと多くの人に触ってもらいたいという思いが湧いてきたのが、事業化を考えたスタートでした。もともと大手メーカーがやっていたのは知っていたので、そのメーカーが撤退するまでは事業として成り立っていた。日本のトップアスリートも使っていた。それがなくなった理由はマーケットで、大手企業が手を出してはいけないような小さな池、水溜りのようなマーケットでしたが、僕らのような中小企業にとっては、湖どころか海なんです。そこに船を漕ぎ出せるだけのマーケットがある。日本には、洋弓のアーチェリーのマーケットは、国内には数万人ですが、海外では数百万人が楽しんでいる。我々にとってはブルーオーシャンどころではなく、宇宙規模の大きさの市場がある。そこに気づいたときに、そこにチャレンジできるなと思いました。ただ、一過性で大量に費用と人件費をかけるのでなく、できるところからこつこつやって、ミニマムスタートで始められると思ったので、事業として進めたいと。
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日本の車が欧米で信頼を獲得してマーケットを持っている理由は、日本のものづくりが世界のトップになれる素質を持っていた。日本製品というだけで、海外の展示会でも注目される。メイドインジャパンのブランド力は、計り知れないものがある。それを形にしていくのは、大きなチャレンジですが、非常にやりがいがある仕事だと思っています。
SH-02とGDのプロジェクトの関係は?
設計方法がまるっきり違いますが、SH-02で実績のある数値データをGDに入力している。我々の設計思想はそこに注ぎ込んでいます。
関係を持ち始めたのは?
数年ほど前から業態変化を模索する中で、産学連携に重点を置いて動いている時期がありました。いまも、そのおかげでいろいろな話をいただいています。階段ロボットや研究のシーズを披露いただいたセミナーでご挨拶したのがスタート。
ハンドルにGDを使うというアイデアはどこから?
入江 西川精機さんに、大学で必要な部品をお願いしている間に、アーチェリーを作られているというのを楽しげに語られて(笑)、実際にできたものを拝見して、これはすごいなと思っていました。アーチェリーで、より当たるような性能を追求されていて、加工精度などいろんなところを工夫されていて、その中で綺麗な形になっていて、当たりそうな感じはしていた。
入江 GDという機能で新しい形ができる。トポロジー最適化で、部材の中から応力に合わせて余分な部分を削っていく手法も面白くて、それで軽量化はできる。GDは、さらにその先を行く。ソフトウェア自体が形を生成していく、生物的な形が出来上がる。学生は新しいものをどんどん使いこなすので、宇宙エレベーターに取り組んでいる学生がGDを使って部材を設計しているのも見て、とても面白いなと。授業でも取り入れたりはしたんですけど、アーチェリーの場合、西川精機さんで作られているのは綺麗な形になっているけど、それをもっと違う形で、もう少し軽量化する、どのくらい肉を落とせるかもわからない。そこで、西川精機さんに紹介したら、興味を持っていただいた。
入江 普通の町工場とは違う取り組みをすごく楽しまれているので、GDも興味を持っていただけるのではないかと思った。
ハンドルは世界的には重量を増す方向にあるが、今回は軽量化?
西川 要求は二分化しています。トップアーチャーになると、高いポンド数、強い力が必要なので、その強い力を制御しようという身体の筋肉の問題があって、重心的に軽いと手がブレてしまうので、重量は重くないと討てないという方が多いです。ただ、日本でアーチェリーをやるには敷居が高く、実験的にトライされた場合、皆さん重たいと言われる。トップアーチャーのような筋力がないと、重たくて辞めてしまう人が多いのが現実。軽くて性能が高いものが作れれば、重量が必要な場合は、そこに足していく方が合理的。なので、最初に先生に話したときには、とにかく軽いものを作りたいと。剛性を保って、軽量化。人間では絶対に想像できない形状。そこにGDの凄さがある。
入江 実際にGDを使って計算したのは学生。上下が対象でない形。上が大きいのには、理由がある。ハンドルが中心からずれているので、上下の力学的な特性が変わってくる。それが形として出てきた。西川精機さんが作られているハンドルでも、上下はそれほと異なる形になっていなかった。
西川 米国の弓具で、肉抜きをしたせいで強度がなくなったところを保管するために、アーチを出して補完しているものがある。GDには、それがない。それがなくても強度が保てているのは、属人的な考え方ではたどりつかなかった、肉を抜いて細くしたから、アーチをつけてバイパスすることで力を逃すという、いかにも人間ぽい考え方。その必要がなかったのにはびっくりしました。
これまでの設計でもシミュレーションは使っていましたが、事前に予知をしてという部分は弱くて、その代わりに実際に作ってみて力がどのように働いているかは現物を見て、実験で歪みや反りをチェックする。GDで開発した今回のハンドルも、振動測定上のデータでは、世界のどのメーカーと比較しても、非常に高いレベルにある。我々のSH-02のデータは、世界でトップメーカーと比較しても、一番振動数が少なかった。GDのデザインは、左右の振動はSH-02より若干多いものの、上下の振動はSH-02よりも少ない。すぐに作って実験できる風土が、中小企業の強さ。その面白い事例だと思う。初めてのトライでこれだけのデータを出せるのは、素晴らしいことだと思う。矢に与える影響が少ない。
3D CADの段階で何度も打ち合わせを繰り返していますし、3Dプリンターで
学生
僕はCAMで製造につなぐところを担当していたんですが、これまでは自分の作りたいものを作っていたんですが、一緒に使うものを作ることを体験させてもらったので、剛性をしっかり出すためのプロセスを組まなければいけないので、実際に使うものを作るためにいろいろ考えなければいけないというところを体験できた。
切削の苦労は?
社員 まずうちの工具が適正なのかというところから、本当にこの形状が加工できるのかっていう。どういうふうにしたら、どこまで加工できるのか、事故なく加工するところを事前にチェックするのが、一番苦労したところ。
座標を出してもらって、CAM処理の条件を調整したりということはしています。出てきたCAMデータがうちの機械に合わなかったので、それを変換する作業は行った。それはもともと、この機械を動かすときにはこうするというのがあるので、それをトレースして、挿入してという感じ。そこは、そんなに苦労したところではない。
バランスが良かった。春田さんがCAMのFusionでのオペレーションをやった。春田さんは、実際にものを作った経験はあまりない。西川精機さんは切削の経験が豊富なので、GDで出てきた形状がけずれるかどうかというのを経験で判断していただいて、春田さんの方でオペレーションをいたというのがバランスが取れていた。
最初の印象は? ぞっとしました(笑)。普段作っているものとは全然違うので。ちゃんと研究してからじゃないと、加工するのが危ないなというイメージ。ちゃんとデータを出していただいたので、事故なく終わったので良かった。この形状を見て、どれくらい時間がかかるのかがわからないくらい複雑だったのと、平らな面が少ないのと細いので、不安がありました。
社長 普通の切削であれば何回もチャレンジするのが普通。ソフトウェアがそれだけ直感的に正確にやってくれる。属人ところな部分を、ソフトウェアがフォローしてくれている。CAMの部分も含めて、実質的に一回の切削でちゃんとした成果が出るのは驚きです。失敗リスクの投資を抑えるという部分でも価値ですね。
今後の予定は?
今回出た数値を、どのように可変していくのか。レギュレーションを調べなくてもいけない。これだけ向こう側が透けて見える弓具は存在しなかったので、レギュレーション上のチェック。今回出てきた数値のデータからも改善点が見つかったので、そういうものを進化の過程で取り込んでいく。さらに何グラムか軽量化するとか、もっと剛性を上げるなどの目標も作れる。次のステージでは、リカーブボウだけでなく、コンパウンドボウもGDでやったらどうなるかも考えてみようと思っている。
軽量化の実数?
1531(ハンドルだけ)を744にできた。
軽い弓具はたくさんありますが、精度が良くない。精度があって強度もあり、射ち心地も軽やかな感じで、スッと飛んでいく。矢を発射する器具としては、ずいぶん洗練されている感じがします。
商品としては?
相当なハードルがある。うちの機械で作ると、良いものができるけどコストが高くなる。それを払拭するだけの加工方法、もしくは製造方法まで踏み込まないといけなくなる。鋳造とか。次のハードルは製造方法を確立させる。
入江 このままの形状で作るのは難しいかもしれないが、デザイン性はこれを踏襲しながら、加工性に適した形に調整することもできるかもしれない。
社長 素材もある。マグネシウムも検討。
最初に機械で何回か射って実験はしてみたんですが、実際に自分で射つときには、本当にこれで引いて大丈夫なの?とは思いました(笑)