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VRのビジネス活用を成功させるには? その4つのポイントを紹介

VR ビジネス

コンピューター グラフィクス(CG)を全面的に導入した世界初の映画「トロン」が発表された 80 年代前半には、バーチャル リアリティ (VR) という言葉は、まだ広く知られていなかった。当時小学生だった私には、CG に関わる仕事をすることが将来の夢になったが、その時点で CG に触れられるのはゲームや映画の中だけであり、そのバーチャルな世界に入り込むには、頭の中でひたすら想像するしかなかった。

いまやデータさえあれば、VR によって行ったことのない場所や行くことのできない場所、これから建設・製造されるものの内部や失われた過去の建造物などの世界や環境へ没入可能になった。この「没入 (イマーシブ)」という言葉も、VR によって一般化したと言える。

ここ数年、VR は様々な分野で急速に使われるようになった。過去に何度かあった VR ブームとは異なり、以下の点が相互に影響し合って、現在も発展が進んでいる。

  • 2014 年、スマートフォンを Google Cardboard と組み合わせ、画像や動画をベースにした立体視の VR を手軽に体験できるようになった
  • 2016 年、3D のデータをベースにして開発する立体視の VR コンテンツ向けのヘッドマウントディスプレイ(以後HMD)の性能や精度が格段に上がり、同時に価格が大幅に下がった
  • ハードウェア (GPU、CPU、バッテリー、液晶パネル、HMD) の性能が向上し続けている
  • VR コンテンツを簡単に作成できるソフトが増加し続けている
  • VR がエンタメ以外のビジネス用途にも使えるという認識が増加し続けている
  • VR だけでなく、AR (拡張現実) や MR (複合現実) というジャンルも増え (xR と総称されることもある)、様々な用途で利用できるようになった

こうした状況の中で、これからVR をビジネス活用しようと考えている方も多くなっているが、ビジネスとして成功させるために検討しておくべき、4 つのポイントを紹介しておこう。

1.VR を使う目的を明確に!

ショールーム、建造物や製造物から不動産の内覧やデザイン、プレゼンテーション、また業界・業種を問わず研修や教育、さらに旅行や観光向けの情報まで。従来は VR の利用にメリットがあるとは認識されていなかったような分野にまで、その活用は広がっている。

だが、そのプロジェクトの目的の達成には、VR の活用が最良の選択だろうか? VR を使うこと自体が目的になってしまうと、そのための辻褄合わせが発生したり、それ以外に効果的な手法があるのに無理に VRで 実現しようとして無駄な苦労をしたり、ということが起こり得る。重要なのは、目的を実現する手段として VR を使い、「三方良し」のビジネス モデルを作り上げるということだ。

実例を挙げると、フリーダムアーキテクツデザインでは注文住宅のクライアントとの意思疎通や満足度向上のため、設計段階から VR を活用。またスターバックスコーヒーの店舗設計では、社内各部署や店舗で働くパートナーとのコミュニケーションのために VR が活用されている。VR や AR を使う目的を明確にし、その最適な解決策として利用することで、ビジネスをより良いものへ発展させることが国内外のトレンドだと言えるだろう。

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設計プランの季節や時間に応じた日商の変化を Revit Live 上で確認 [提供: フリーダムアーキテクツデザイン]

2.VR のプラットフォームやコンテンツ作りを理解する

VR と一言で言っても、その種類は実に様々だ。上記の目的を達成するために選択する、プラットフォームとコンテンツについても、よく理解しておく必要がある。

まず、機材のプラットフォームは、①スマホなどのモバイルデバイスを使うもの (GearVR、Daydream、各種VRゴーグル、段ボール製ゴーグルなど、最も普及しているVRデバイス)、②高性能 GPU を搭載したハードウェアと HMD を組み合わせて使うもの (Oculus Rift、HTC Vive、Windows Mixed Realityなど) の 2 種類に大別される。また今年になって、③スマホやPC無しに HMD 単体で動作するタイプ(Oculus One、Vive Focus、IDEALENSなど) が新たに登場してきている。

コンテンツ面では、以下のように大別できる:

a) 画像や動画を表示するもの
360°や180°の動画や画像。視点を中心に全天球や半球のドーム型に動画や画像を投影して体験するもの。その動画や画像は、現実の世界を専用のカメラで録画・撮影したものを使う場合と、CGのデータを事前にレンダリング(動画や画像に落とし込む)したものを使う場合がある。

視点の変更には、異なる視点の動画や画像が必要になる。例えば不動産をさまざまな視点から内覧するコンテンツを作るには、その場所の数だけ動画や画像を撮影・レンダリングする必要がある。

b) 3Dのデータをその場で計算して表示するもの
設計やデザイン段階で作成された 3D CADや BIM、その他の 3D CG のデータを高性能な GPU が搭載された PC で処理し、HMD を装着することで、その処理されたデータ内に自分が入り込めるものだ。視点の決まった動画や画像とは異なり、データの中を自由に移動して様々な角度からデータを確認できるのが最大の特徴であり、強みでもある。

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3.VR コンテンツの制作が、ビジネスにおいて現実的か?

現実の世界を専用カメラで録画した、動画や画像をベースとする VR コンテンツの場合は、撮影さえ行ってしまえば、アプリケーションの作成まで簡単に行える InstaVR のようなサービスを使って、比較的簡単に完成させることができる。だが、3D データをベースに VR コンテンツを作成する場合は、超えるべきハードルが数多く存在し、時間も手間も掛かる場合が多い。3D データがなければ、その準備から始めることになる。

まず知っておくべきことは、3D CADや BIM、3D ツールから直接 VR に出力できるわけではないということだ。Autodesk VREDInfraWorksAlias など、ツール内で VR を直接確認できるものもあるが、その数はまだ少ないため、データを VR で表示可能なツールに持っていく必要がある。

VR コンテンツを表示するソフトの多くは、リアルタイムで3D CGを処理する技術の結晶であるゲームエンジンを利用している。そこで表示するには、3D CADやBIM、3D ツールで使われるデータのファイルを変換するだけでは不十分で、アニメーションやマテリアルなどの変換が必要となることが多い。オブジェクトの数が多い 3D CAD や BIM のデータであれば、その変換に手間が掛かる上、変換後のデータの「重さ」が問題になることも多い。その処理が追いつかない状態では VR 酔いの症状が出やすくなってしまう。そんな時の軽量化最適化の救世主となるのが、Revit Live や UE4 Datasmith、PiXYZ だ。

見聞きする感覚は前述の VR 機材で簡単に実現できても、例えば VR 空間内のものに手で触れる感覚を実現するための、完成度の高いデバイスはまだ発展途上だ。

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4.社内のリソースが利用でき、簡単に素早くできるかどうか?

設計やデザインの分野でも、3D の移行には時間がかかっている。移行にメリットがあっても、そのコスト(国内における公開 BIM データの準備、現場レベルのワークフロー改革、人材教育、必要機材のコスト増など)がハードルとなるのだ。

だが、海外における BIM の浸透率の高さや、3D データならではの様々な恩恵が VR や AR によって再評価されつつある。そこで重要なのは、活用可能な 3Dデータや人材、インフラが社内のリソースにあるかどうかという点だ。それが存在していれば、VRコンテンツを早く、うまく、安く、作り出すことができる。例えば、しっかりとした、かつ軽量な BIM データを作り上げることができ、そのデータを活用して CG コンテンツに流用できるワークフローを構築できれば、社内での VR 化も可能だ。

そして今、VR の波は AR の波とも重なり、MR の波へと進んでいる。HTC Vive (VR)が HTC Vive Proになり、深度センサーが付いたことで MR にもなるのは、その波に乗ったからであろう。この波に乗り遅れることのないよう、2D の呪縛から解き放たれて新たな 3Dの世界に足を踏み入れて進み、ビジネスに VR や AR、MRを活用して成功させていただきたい。

著者プロフィール

梅澤 孝司は 3D CG、VR、AR コンサルタントで、ゲーム向けのミドルウェア製品や建築・製造業界向けの VR に精通するエンジニア。2000 年より Softimage におけるテクニカルアーティストやプログラマ向けの製品、Softimage の UI のローカライズを担当。主にゲーム業界向けのサポートや講演を行う。2008 年 にオートデスクに入社し、2018 年 1 月退職まで、ゲーム向けのミドルウェア製品や建築・製造業界向けの VR の技術担当。普段は古代史と自然が好きな、冗談の通じない健康オタク。

Profile Photo of Takashi Umezawa - JP