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マイアミの多目的複合ビルがサステナブルな都市開発でコミュニティを構築

サステナブル 都市

グローバル分析企業 INRIX による 2018 年度の過密都市調査で、マイアミは米国内 5 位、世界でも 10 位にリストされた。年間で平均 64 時間も渋滞に巻き込まれている不名誉なマイアミ住民は、この交通問題を解決できる交通網に配慮した都市開発と、願わくば新たなコミュニティの感覚を求めている。

マイアミの高級住宅地、ココナッツ・グローヴ地区で行われている新開発プロジェクト Grove Central は、移動の少ない、もしくは車不要の暮らしと、気候変動や生活費高騰など、より重大な問題に対処する選択肢を住民に提供するようデザインされている。デベロッパーの TerraGrass River Property、高級不動産を専門とする設計事務所 Touzet Studio は、集合住宅や商用スペースを包んだユニークな多目的複合ビルで、交通網を考慮に入れたサステナブルなデザインとエネルギー効率、ハリケーンなどの自然災害に対するレジリエンスの実現を目指している。このビルは 2021 年に竣工予定だ。

Touzet Studio プリンシパルのジャクリーン・ゴンザレス=トゥゼ氏は、「車無しで生活できる新しいマイアミ」を目にするのを楽しみにしていると話す。このコンセプトは 5 年前までは珍しいものだったが、ライドシェア技術、通勤時間の短縮や車に頼らない暮らしの需要が拡大することで、現在はずっと一般的なものになった。

開発デザイン チームは、この複合ビルでの車を持たないライフスタイルを 2 つの方策で奨励している。まずは、スーパーマーケットや銀行、スポーツクラブ、薬局などの周辺施設だ。この開発プロジェクトには屋上の「ソーシャル ハブ」も含まれており、カフェやカクテル バー、屋上ラウンジ、屋外の映画上映設備とイベント設備、コワーキング スペースなど、コミュニティを育むエリアが提供される。

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Grove Central ビルの公共スペース [提供: Touzet]

もうひとつの方策は、車無しでマイアミ周辺の各所へ移動できるアクセス性だ。このビルはマイアミ市内を走る高架鉄道 LRT の Grove Central 駅に直結しており、高架駅から地階にあるマイアミ市の公共スペース Underline へ下車できる。ニューヨークの High Line のスタイルを踏襲したデザインで、そこから住居エリアにも直接歩いていくことが可能。「ココナッツ・グローヴ地区はマイアミでも最も歴史ある住宅地のひとつで、とても人気の高い地区として知られています」と、トゥゼ氏。「また、繁華街である 27 番街にもシャトルバスで接続しています」。

Grove Central ではさまざまな交通手段を利用できるが、Touzet Studio は、そのユーザー エクスペリエンスをさまざまな視点から大局的に理解したいと考えた。デザイン チームは Autodesk Revit を使用して現地の環境と建物をモデリングし、LRT や自転車、Underline からの徒歩経路を綿密に演出した。

自動車の使用を減らすことは、温室効果ガスの排出量削減につながる。開発デザイン チームは、ビル自体のデザインにもサステナビリティを追求した。この複合ビルは太陽光エネルギーに対応可能で、ガレージ屋上にパネルを配置できる。ビルの基本的なエネルギー消費量を低減するため、エネルギー効率に優れたファサードが採用。ガラス張りの開口部を 30% に抑え、太陽光熱利得を低減 (することで冷房に必要なエネルギーを低減) しつつ、自然光を十分に取り込め、視界を確保した設計となっている。

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Grove Central は市中心部につながる交通網に直結する予定だ [提供: Touzet]

「このビルはコンクリート ブロックとガラスで構成されており、ガラスよりも壁の割合が大きいので建設費も抑えられています」と、トゥゼ氏。「ガラスの使用を抑えつつも印象的なファサードになるよう、壁面にはカラー パターンを採り入れ、ビルの外観と、取り囲む商用スペースの (透明というよりもソリッドな) 外観とのつながりを演出しています」。

デザイン チームは Revit モデルを使い、「ビルと現地の環境のモデルを機械・電気のエンジニアやエネルギー モデリングのコンサルタントと共有することで、学際的な相互交流の機会と分析を促進しました」と、トゥゼ氏は話す。

気候変動により自然災害が発生する頻度は高まっており、それはマイアミへのハリケーン到来回数の増大につながっている。天気予報サイト AccuWeather は、マイアミを「米国で最もハリケーンの被害を受けやすい都市」に選出。この不吉な予報を受け、Terra と Grass River、Touzet は複合ビル設計におけるレジリエンスを重要視した。「停電時には太陽光エネルギーとバッテリーにより電力供給される ATM やスーパーマーケット、薬局などのサービスや設備を提供することで、Grove Central は (自然災害後に) 近隣地域が一日も早く元の生活に戻れるよう支援するハブとなるべくデザインされています」と、トゥゼ氏。

こうした機能は段階的に追加予定だ。ビルへソーラーパネルがすぐに設置されるわけではないものの、対応の可能なデザインを採用。現地へハリケーン対応型バッテリーを組み込むのは後日になるが、必須インフラのデザインにはそれが考慮されている。こうしたバッテリーにより、マイアミの電力網に問題が生じた場合、住居エリアと生活に不可欠な商用スペースに電力を供給可能。「災害時にも運行を継続できるよう、電車への送電にも十分な容量を持つバッテリーの設置も検討しています」と、トゥゼ氏。

Grove Central で採用されている、こうしたサステナビリティとレジリエンスを考慮した措置は、手の届きやすい価格の開発プロジェクトであれば、より大きな効果を持つようになる。このプロジェクトの隠された原動力は「気候変動と闘いながら、良心的な価格にとどめること」ことだったと、トゥゼ氏は話す。

デベロッパーは、「マイクロユニット」と「コリビング」という、2 種類のユニットを提供することで家賃を抑えている。マイクロユニットは、46.5 平米のワンベッドルーム、69.7 平米 2 ベッドルームのユニットとして提供される予定だ (マイアミでは、これでもマイクロ = 狭小だ) 。コリビング モデルは「ドミトリー スタイルのユニットで、ベッドルームとバスルームは個別にに提供されますが、ダイニング、キッチン、リビングルームは 4-6 人の共有スペースとなります」と、トゥゼ氏。

交通網を考慮に入れたデザインは、マイアミでは比較的新しいものだが、郡政府と一般市民は協力的だとトゥゼ氏は話している。「人々はアクションを求めています。交通問題に懸念を持ち、多くの人が都心へ移り住むことを望んでいます。交通網を考慮に入れた開発はビジネス コミュニティにも好評を得ています。ツーリズムや、ミレニアル世代を雇用する企業による投資を呼び寄せるからです」。

マイアミ中心部の都市開発におけるこの新しい波は、未来に目を向けたものだ。気候変動の現実に順応しつつ、その影響を緩和して、人々の暮らしにとって手頃でサステナブルな空間を生み出そうとしている。

著者プロフィール

タズ・カトリは LEED 認定を受けた建築士。自身の Blooming Rock ブログやその他の刊行物で建築に関する著述も行っています。

Profile Photo of Taz Khatri - JP