サステナブルなイノベーションでバンコクの居住者をコネクトするThe Great Good Place
タイの首都バンコクは色彩に富んだ、活気ある大都市だ。世界で最も訪問者の多い街のひとつであり、素晴らしい食と文化、旅行者にも優しい水上マーケット、黄金に輝く宮殿の数々や楽しいショッピング、活気あるナイトライフを提供している。だが、他の大都市の生活と同様、そこに暮らす人々は社会的孤立や緑地不足など、都市生活にまつわる困難に直面してもいる。
タイを拠点とする不動産デベロッパー MQDC (Magnolia Quality Development Corporation) は、住宅購入を検討する人は単なる複合建造物以上のものを求めていると認識しており、広さ6万9千平米の総合施設である WHIZDOM 101 を生み出した。このベンチャーは、社会学者レイ・オルデンバーグが1989 年に発表した著書から「The Great Good Place」(邦題: サードプレイス ―― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」) と名付けられている。この本でオルデンバーグ氏は、健やかに暮らすためには、家庭生活と職場、コミュニティを構築する社交のための第三の場所となる「サードプレイス」の間のバランスが重要だと結論づけている。WHIZDOM 101 は、大都市に存在するサステナブルなスマート シティであり、居住者がより健康的で充実した生活、そしてイノベーションとテクノロジーを通じた、より能率的な生活を送れるようデザインされている。
米国、アジアの不動産プロジェクトで 26 年以上の経験を持つ MQDC のプレジデント、クーン・サッタ・ルーンチャイパイブーン氏は「通常はプロジェクトをスタートさせる前に 1 年から 2 年かけ、プロジェクト周辺の人々がどういった利益を得られるのかを調査します」と話す。「我々がニュー ジェネレーションと呼んでいる人たちにインタビューを行い、余暇をどう過ごしているのかなどを調査します」。
サードプレイス
2017 Autodesk AEC Excellence Award のサステナブル デザイン部門賞を受賞した WHIZDOM 101 プロジェクトは、都市部に住む専門職の若年層を対象としており、健康や環境、社会的責任などの価値を重視している。2018 年半ばにオープン予定のこの施設には、テナントやレストランがずらりと並び、ジョギング用トラック、自転車専用通路、図書館、緑地も含まれる。戸外は樹木や植物を戦略的に活用することで、また戸内はパッシブ システムと、室内環境や照明、二酸化炭素レベルからリアルタイムなエネルギー消費、デリバリーや公共料金の支払いまで単一のプラットフォームで管理する、インテリジェントなアクティブ システムの両方を使用することで、それぞれの微気候を向上させている。
居住者は、アプリを使用して冷暖房やデリバリー、公共料金支払を管理可能。どこの駐車場に空きがあるかは出発前に、ガソリンを無駄にせず確認できる。
サードプレイスのニーズを満たすため、戸外の空間は友人とのリラックスやショッピング、自然を楽しむ場所だと強調されたデザインになっている。MQDC の緑地空間は人間以外も考慮に入れてデザインされ、野鳥や動物を呼び寄せる完全体としての健全なエコシステムを包含している
「スマート シティという言葉には、さまざまな意味があります」と、ルーンチャイパイブーン氏。「私たちにとっては、コミュニティのため、つまりそこで生活する人々のためのスマート シティであり、それをスマート コミュニティと呼んでいます」。この施設のスマートな機能である Pavegen はエネルギーとデータを収集できるフロア タイルで、その上を歩く人々の運動エネルギーを低電圧電力に変換。その電力を備蓄して、後で使用できるので、LED 照明やウェイファインディング (誘導用標識)、携帯電話の充電などに利用可能だ。
コア バリューとしての「サステノベーション」
ルーンチャイバイプーン氏によれば、MQDC のコア バリューのひとつは、イノベーティブなテクノロジーを用いて全てのプロジェクトをサステナブルなものにすることにある。このサステナブルなイノベーションというアプローチを、MQDC は「サステノベーション」と名付けた。「デベロッパーとして世界にプラス、マイナスのどちらの影響も生み出すことになることを十分に認識しています」と、ルーンチャイバイプーン氏。「だからこそ、どのプロジェクトも環境や社会、人々に与える影響が最小限になるよう心がけています」。
環境への最終的な影響を抑えるため、MQDC は建設材料をより少なく使用し、エコフレンドリーな建築資材と手法を選択している。例えば WHIZDOM 101 の分譲マンションは、ERV (エネルギー回収式換気装置) と呼ばれる換気システムを採用。この ERV は居住者が眠っている間に二酸化炭素を室内から排出し、屋外の新鮮な空気を取り込む。「睡眠中により多くの酸素を取り込むことで休息度が高まり、目覚めが良くなります」と、ルーンチャイバイプーン氏。
マンション棟は自然な空気の循環と採光を可能にし、日光による暑さを和らげてエネルギー効率を向上させるよう配置されている。ルーンチャイバイプーン氏は「自然光と自然風を取り込めるようマンション棟を配置できれば、居住者のエアコンへの依存度が下がり、エネルギー消費が減ります」とも述べている。
グリーン BIM
LEED ゴールド認証取得に向け、MQDC はエネルギーを削減できるエコフレンドリーな手法を採り入れている。「エネルギーを 30% 削減する必要があります」と、ルーンチャイバイプーン氏。「水の消費も 40% の削減を目指すことが必要で、それを現地で水を収集、再利用することで実現します。また CO2 排出量を年間 15,000 トン (約 30%) 削減する目標を掲げており、これは 1/10 のサイズのプロジェクトに匹敵します」。
MQDC は、デザインと建設を最新化するテクノロジーに相当の投資を行ってきており、地元デザイナーやコンサルタント、施工会社、サプライヤーと連携して、従来のプロセスを再構成している。その分かりやすい例を挙げよう。6 年前のプロジェクト開始時、関係者一同は BIMを活用する準備が整っていないため、このプロセスの採用で、さらに時間とコストがかかるのではないかという懸念を抱いていた。「MQDC に来る前に、20 年に渡って BIM を使用してきました」と、ルーンチャイバイプーン氏。「私は、初日から BIM を 100% 使うわけではないと伝えました。チームには手始めに、BIM を使う幾つかのプロジェクトに参加するよう要請しました。彼らなら BIM の利点をあっという間に理解すると目論んだのですが、それは正しいことが判明しました」。
チームは BIM テクノロジーを徐々に採り入れ、まず建築家と構造工学技術者が Revit でデザインの開発と調整を行うようになった。この成功が建設前段階での施工会社とサプライヤーとの連携にも拡大し、変更の指示や材料コストの削減に寄与した。
「建設業界では、世界各地の建設現場で 15%から 30% の廃棄物が生成されています」と、ルーンチャイバイプーン氏。「開発に BIM プロセスを採用することで最大 15% の廃棄物を削減でき (英文 PDF)、それが大量のエネルギーと材料の節約につながります」。
建設プロセスの各手順は写真に収められて BIM 360 モデルに実装され、配管や電気、壁など、あらゆるパーツのあらゆる位置が明確にされた。プロジェクト完了時、BIM は竣工モデルとして資産管理者へと引き渡され、2D の製図に代わり、現場の管理に 3D モデルが使用される。
未来のスマート コミュニティ
MQDC は将来を見据え、複数の世代に対応するプロジェクトを研究中だ。ルーンチャイバイプーン氏は、MQDC では生活の質を向上させる多目的なコミュニティの構築が拡大傾向にあると話す。
スマート コミュニティは人々に、屋外で過ごし、自然や仲間と関わりを持つための、より多くの機会を与えてくれる。社会的交流は都市の活気に欠かせないものであり、サステノベーションはタイ国内に「とびきり居心地よい場所」を生み出す準備を整えるものだ。