建築家としての探求: イラクで難民用のサステナブル住宅を供給
ホームとは何だろう? シンプルな問いだが、その答えは簡単なものではない。特に、祖国における暴行や政情不安、経済的不安定により、その意味するものが引っくり返されてしまった難民にとっては。
彼らにとって、ホームは近郊の家やダウンタウンのロフト、ビーチのコテージではない。都市や街、国ですらない。頭上の屋根、足許の土が奪われた難民にとって、ホームは場所という意味を持たなくなった。それは心の状態であり、過去の記憶、未来の希望だ。
建築家のパトリシア・アンドラシク氏は、難民から剥奪されたホームの感覚を何かで置き換えることはできないと理解している。だがサステナブル住宅の供給によって、彼らが人生を築くことのできる時間と場所に落ち着くことができることを信じている。これは本来のホームではないにしても、ホームには違いない。
ワシントン DC のアメリカ・カトリック大学建築計画学部で准教授、サステナビリティ アウトリーチの長を務めるアンドラシク氏は、「住宅は、人生における基本的な構成要素です」と述べている。「人間の存在における、根源的な要素なのです」。
住宅は住民を厄介な天候から保護するだけでなく、単なるシェルター以上の存在になっている。健康を維持して伝染病の蔓延を防ぎ、休息や睡眠、安定 (労働者が雇用を継続するために必要) を容易なものとする。プライバシーを生み出し (カップルが関係を構築し、家族を養うために必要)、犯罪から保護して、プライドと尊厳 (心理的な幸福の基礎) を生み出す。
「誰もが住宅を必要とします」と、アンドラシク氏。「布のテントでは不十分なのです」。
残念ながら、大抵の避難民にはテントしか与えられない。これは、シリア騒乱による難民や中央イラクから退去された人たちの大量流入を経験している、イラク北部の安定したクルド人自治区は特に顕著だ。
「強制退去により 11 万 4 千人以上 がイラク北部に住んでおり、その大半はコンテナやテントに1年以上も住んでいます」と、アンドラシク氏。「この地域をすぐに去って自宅へ戻る人もいますが、相当の人たちがここに留まります。彼らを収容するには、2 千戸以上の新しい家が必要です」。
2015 年秋のローマ教皇フランシスコによる米連邦議会の訪問後、アンドラシク氏はそうした家を提供するプランを温め始めた。
ローマ教皇は、議会での演説で「わたしたちは、必要な自由を手にしています」と述べた。「より健全で、より人間的、社会的で、より統合された、もう一つの形の発展のために役立つ技術を活用するための。私は今後、米国の優秀な学術研究機関が、素晴らしい貢献をすると確信しています」。
アメリカ・カトリック大学の教授として、アンドラシク氏は教皇のメッセージを行動喚起として受け取った。難民の家庭に生まれた彼女は、常に建築を、70 年代にソビエト圏から逃れてきた彼女の両親のような人たちの生活を向上させるツールだと考えてきた。「建築によって人々を助けようという気持ちは、私の新年に由来するものです」と、アンドラシク氏。「科学と人道的な進歩の融合に有意義な貢献ができる研究を行うことは、その統合の証明となります」。
続いてアンドラシク氏はクルド人自治区で 、“RESTive” (restorative environmentally sustainable) と名付けた難民用の恒久的な住宅を 3 段階で開発するプロジェクトを構想。自身の大学とアルビル大司教区からのシードファンディングを受け、第一段階として今年夏にイラクを訪問して、放棄された病院の住宅への改装、一時的な難民キャンプのより恒久的な施設への変更、新規建設に最適な未開の土地の 3 箇所で、建設の実現可能性の評価を行う予定だ。
「最も費用を抑えられ、効率が良く、一部の難民に仕事を提供できるのがどのオプションなのかを見極める予定です」と語るアンドラシク氏は、手動の機材と個人のインタビューにより、各場所の分析を行うことにしている。
次に Autodesk FormIt 360、Flow Design、Revit など建築物のパフォーマンスを分析するツールを活用して、分析から環境面での洞察を導き出す。ソーラーの可能性と自然放射の能力、さらには材料のコストと入手可能性を検討することで、それが場所の選択、最終的には建物のデザインへとつながる。
この第 2 段階で、アンドラシク氏は選択した場所に適した、複数家族向けの住宅構造をデザインする。「重要な目的はサステナブル住宅ですが、サステナブルとはロジカルなデザインという意味であり、環境面でも気候面でも、そして地域の人たちの文化的な生態にも、とても自然に、流動的に統合されます」。
建設のコストも非常に重要だ。そのため、新たな構造のラピッド 3D プリントも検討している。既に中国の企業が粘土やセメント、その他の材料をインクのように使用してプレファブリケーションによる構造を工場で印刷できる巨大な 3D プリンター (英文記事) を開発。素材と機器のコストを考えれば、従来の建設に比べてわずかなコストで実現できる。
「建設に必要な労働力が得られない、もしくは安定して供給されないことも考えられます」と、アンドラシク氏。「3D プリントはコントロールされた環境で作業を行え、この建設技術の教育と人材の活用を同時に行えるオプションです」。
このプロジェクトが完結する第 3 段階となる建設は、2017 年の末までに実行が予定されており、アンドラシク氏は難民のための構造物以上のものを作りたいと希望している。それ以上に彼女が重視しているのは、新たな機会を生み出すことだ。「私の最終的な目的は、とてもシンプルです。それは構築された環境で家族が快適に感じ、幸せでサステナブルな生活を送れるということです。たとえ、どんな場所にいたとしても」。