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スマート シティの未来のかたち

スマート シティ イメージ

スマート シティの概念を、先進国の多くが独自に構築しようとしている。だが、その明確で普遍的な定義は、いまだに存在していない。

スマート シティは、Smart Cities Council によると「全ての都市機能にデジタル テクノロジーが組み込まれた都市」を指す。またフロスト&サリバンは、ガバナンス、ビル、医療、可動性、インフラ、テクノロジー、エネルギー、市民の 8 つの構成要素 (英文リンク) から構成される (それぞれの言葉の前に接頭辞として「スマート」が付けられる) としている。

だが優先事項は都市ごとに異なるため、米国運輸省 (DOT) は少し変わった試みを行っている。この問いに、コンテストを開催することで答えようとしているのだ。

2015 年 12 月 7 日、アンソニー・フォックス米国運輸省長官が Smart City Challenge を発表した。その内容は、対象となる米国内の中都市が スマート シティの定義を行い、データやテクノロジー、クリエイティビティを用いて人々と商品の流れを変化させる、完全一体型の都市を作る計画の提案を奨励するものだ。優勝した都市には、そのアイデアを実現する資金として 5,000 万ドルが提供される (4,000 万ドルが連邦政府、1,000 万ドルがマイクロソフト共同創業者、ポール・アレン氏のヴァルカン・キャピタルによる資金援助) 。

スマート シティ 交通

Smart City Challenge は都市間で競われるコンペではあるが、DOT は各市長にコンペ後の連携を働き掛けることで、大義のためのコラボレーションと知識共有の促進を狙っている。その理由は、課題と解決策は都市ごとに異なることが多く、ある都市では機能しなくても、別の都市では役立つ可能性があるからだ。例えばポートランドは自転車専用道路を整備できても、オースティンでは実現不可能かもしれない。同様に、オースティンがタクシーや電車、自転車のシェアリングまでの移動を一括払いできるシステムを生み出せたとしても、カンザスは解決策に苦労するかもしれない。

このチャレンジで競い合うファイナリスト (勝者は2016 年 6 月に発表) は、テキサス州オースティン、オハイオ州コロンバス、コロラド州デンバー、ミズーリ州カンザスシティ、ペンシルベニア州ピッツバーグ、オレゴン州ポートランド、カリフォルニア州サンフランシスコの 7 都市だ。

ホワイトハウス任命のもと米国運輸省でフォックス氏の上級顧問を務め、Smart City Challenge の主任建築家でもあるマーク・ダウド氏は「各都市が互いに連携し、強みを持ち寄り、弱みを特定していく中で、それぞれのアプローチに共通した特徴が次第に分かってくるでしょう」と話す。「しかし現時点では個性も、課題へのアプローチも街ごとにそれぞれ異なっていて、とてもエキサイティングです」。

Smart City Challenge の重要な要素に、テクノロジーとイノベーションの活用がある。運輸に関連するテクノロジー (オープン データ、自動運転車両、電気自動車両、シェアリング エコノミーなど) を切り離されたアイデアとして考えるのではなく、DOT チャレンジは次のような問いを投げ掛ける。本当の意味でスマートな都市となるには、その全てをどう一体化させればよいのだろうか?

スマート シティ グーグル 自動運転車
2014年4月、幹線道路280号線を南へ走る Google の自動運転車レクサス RX450h。Googleカーを駆動するソフトウェアは Google Chauffeur と呼ばれ、現在Googleによる試験段階にある。

この問いに答えるためにも、DOT にとってこのコンペは、官民連携でなければならなかった。

「政府が何かを完全に理解していると自認しているときは、テクノロジーとイノベーションに関しては良い結果を出せないことが多いものです。テクノロジーとイノベーションは、非常に移り変わりが早いものですからね」と、ダウド氏。「しかし、パートナーとして民間のテクノロジー企業と連携することで、政府の視点からすれば、テクノロジーに関する企業のノウハウを、より多く都市へ注入できます」。

ダウド氏によると、民間セクターがコンペに関与すれば、その都市の成功を実現するべく、より多くの投資が行われる。「彼らは、都市が直面する問題の解決に使用されるテクノロジーが確実に問題を機能するよう努める上で、実際のパートナーとなります」。

各都市が提案書に磨きをかけるにつれて、ファイナリストたちは、3D ビジュアライズ機能を使用して大型インフラ プロジェクトを計画するデザイン ソフトウェア Autodesk InfraWorks 360 などのテクノロジーを利用するようになった。こうしテクノロジーを使用することで、エンジニアは複数のソースからのデータを統合し、コンセプト モデル、橋、道路、下水溝デザインなど、費用をかけて施工する前に正確なモデルを作成できる。このソフトウェアにより、コンセプトを視覚的に描写し、言葉で説明する必要なく、そのコンセプトが実際にうまくいくかどうかを把握可能だ。

「このソフトウェアは、たとえ Smart City Challenge で勝てなかったとしても、ファイナリストがそれぞれの構想を実現するためのパートナーや資金提供元を探す際に、ビジネス プラン作成の便利なツールになるでしょう」と、ダウド氏は話す。

スマート シティ バイク レーン

このコンペは、運輸省長官の「Beyond Traffic レポート」に由来するものだが、このレポートは 2045 年までに約 7,000 万人の人口増が予想され、米国が直面するであろう移動手段の課題を考察するものとなっている。(ノースカロライナ州シャーロットで) かつて市長を務めた者として、フォックス氏は、現場に近い地方自治体が交通の問題を一番良く理解しているだろうと考えている。

「彼らは、移動手段の側面から生まれる、解決が必要な問題と課題に非常に精通しています」と、ダウド氏。

DOT のチャレンジの最大の関心事は、十分なサービスを受けていないコミュニティを支援することだ。

「デジタル格差により、利用できるかもしれない様々なテクノロジーが、実際には活用できていないことも多いのです」と、ダウド氏。「だからこそ、都市をスマートで人々に利益をもたらすものにするには、スマート シティの設計と構築のプロセスに人々が参加し、こういった人々が実際に都市をスマートなものにするための一部となる方法を模索することが重要だと思います」。

著者プロフィール

ローザ・チュウは在住するサンフランシスコで、より多くの情報へアクセス可能となるよう取り組んでいるテクニカル ライター/ジャーナリスト。

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