ロンドンの公共空間を描き変えるクールなスケートパーク計画
イアン・ボーデン氏がスケートボードを始めた 1970 年代にあったスケートパークは、その大半が閉鎖されるか見捨てられた存在となった。タイルの縁取りが付いたプールやコンクリート製のボウルなど、そこにあるのは過ぎ去った時代の面影だらけだ。
こうした施設は、その対価を支払う余裕のある層に向けた次世代のスキー リゾートやゴルフ コースとしてデベロッパーから一時的な注目を集める。だがスケートボードを都市景観に組み込もうという当初の取り組みは、その特殊性と高額な保険料により進行が妨げられてしまった。
現在、ロンドンのクイーン エリザベス オリンピック パークに、建築によって周辺景観へ実際に変化を加える、新しいタイプのスケートパーク計画が生まれている (同様のスケートパークは、米国のオレゴン州ポートランドやワシントン州シアトル、オーストラリアのメルボルン、スウェーデンのマルメにも出現している)。
これはユニヴァーシティ カレッジ ロンドンの建築、都市文化学教授になった「Skateboarding and the City: A Complete History」の著者、ボーデン氏の記述によるものだ。
「都市部のスケートボーディング向け用地として、より豊かで多様なバリエーションが出現し始めています」と、ボーデン氏。「スケートボーディング用にデザインされたものではない、ストリートの縁石を使用するものから、何億円という予算規模の特設スタジアムまで、さまざまなものがあります」。
スケートボーダーやデザイナー、プランナー、政策立案者、私設財団で構成された、多様性を持つ集団が導き出した折衷案的な都市空間の再解釈が、スケートボードの新たな語り口を生み出しつつある。公的・私的な空間のアダプティブユースが近隣に活気あるカルチャーをもたらし、荒廃したコミュニティを再生することが可能なのだ。
2020 年東京オリンピックの予選となる、ロンドン開催の SLS (Street League Skateboarding) ワールドツアー初戦を前に、これは明るい展開だとボーデン氏は述べている。
英カッパー・ボックス・アリーナで開催されるプロ競技会に並行して、スミソニアン協会のレメルソン発明および革新研究センター (Lemelson Center for the Study of Invention and Innovation) がクイーン エリザベス オリンピック パークで第 7 回 Innoskate フェスティバルを開催。これは競技会の関連イベントで、形式ばらないパネル ディスカッションやスケートボード教室、公開スケーティングが行われる。そのハイライトが、スケートボーディングとスケートパークに関連するデザイン、アート、イノベーションに参加者を取り込む、デザイン スタジオ (Design Studio) プログラムだった。
Crystal Palace の最終デザイン [提供: Iain Borden]
Crystal Palace に集う地元の学生たち [提供: Iain Borden]
スケートボーダーのウィングス・チャン [提供: Iain Borden]
このフェスティバルは、スケートボーディングとイースト ロンドンのコミュニティのつながりの強化も目的としている、とボーデン氏。イースト ロンドンには、ウィックサイドとマーシュゲート・テラス エリア近隣の地元スケートボーダーや活動家、コミュニティ グループが、スケートパーク用に DIY した公共空間がある。「目立つものではありません。レッジ (縁石) は 30 cm ほど、バンクは 90 cm ほどの高さで、都市環境においては小さな変化です」。
一方でユニヴァーシティ カレッジ ロンドンは、アリーナのすぐ南側に教育研究棟数棟の新設を発注済みだ。計画通りに進めば、Innoskate イベントと周辺の仮設会場は、専用に確保されたものではない公共空間をスケートボーディングに対応させ、スポーツによる健康促進やサイクリング、スクーター、バーベキューなどクリエイティブな表現行為を促進する用途に提供する概念実証として機能するだろうと、ボーデン氏は話す。「スケートボーディングの有用性のひとつは、その空間でより大きなイベントが行われるのを待つ間に“一時的な”用途を提供できることです」。
他のエリアでは、より大きなことが既に起こっている。ユニヴァーシティ カレッジ ロンドン発行の「Urban Pamphleteer」誌に近日発表予定の記事「Crystal Palace Skatepark: Complexity and Contradiction (クリスタル パレス スケートパーク: 複雑性と矛盾)」で、ボーデン氏はグレーター・ロンドン・オーソリティから 40 万ポンド (約 5,400 万円) の資金援助を得て再開発が行われている古い Crystal Palace Skatepark を、「40 年の歴史を持つ、ロンドン初の“タイルとコーピング”を配したスケートボーディング プールで、大型で BMX にも適したボールと浅めのスロープが若いライダーにも最適だ」と説明している。スケートパーク設計事務所 Canvas とランドスケープ アーキテクト KLA がデザインを行ったこのプロジェクトは、地元政治家や訪英中の米国人プロボーダー、レスター・カサイなど、意外な支持者たちから称賛を受けている。
また Folkestone F51 スケートパークは英国のデザイン スタジオ Guy Hollaway Architects のデザイン、Roger De Haun 公益財団からの資金援助により建設されるもので、かつてのビンゴ ゲーム会場を世界初の多層式インドア スケートパークに変貌させる。このプロジェクトのコンサルティングを行ったボーデン氏は、1 階の受付エリア、カフェ、ボクシングのリング、ヨガスタジオの上部へ 3 層に及ぶ湾曲したコンクリート ボールのフロアが重なる、この 1,400 万ポンド (約 19 億円) の事業が観光を促進し、困難な状況にあるケント州の港町にクリエイティブ地区を開発する、より大きな都市再生計画の一環だと述べている。
公共空間の無償利用を提供することは、社会的な課題を負担する提起になる。開発可能な空間は、どれもひどく荒廃しているからだ。それでもボーデン氏は、ロンドン近郊にスケートボードに適した環境が出現することは、圧倒的にプラスの影響を及ぼすと話す。あらゆるエスニシティとバックグラウンドの若年層にクリエイティブな表現の機会を提供して、「都市生活における、もうひとつの目に見える文化」を明確に生み出すからだ。
「プロ選手がスケートパークに現れた場合はどうなるでしょう? 有名スケートボーダーのトニー・ホークを見かけたら、誰もが振り返るでしょうね。でも、誰もがスケートパークを使用する権利を持っています」と、ボーデン氏。「スケートボーディングで重要なのはヒエラルキーを弱体化させることです。“スケートボーディングを目一杯楽しんでいる人こそが最高のスケートボーダー”であることは明白です」。
ロンドンのクイーン エリザベス ホール真下のエリアでスケートボーディングや BMX バイク、パブリック ダンス、グラフィティに利用されている Southbank Undercroft の閉鎖、再開発の検討が大衆から極めて強い反響を引き出したのも、そこに理由があるのかもしれない。それは都市の在り方と、都市がその役割を果たすべき対象となる人々の平等主義的観点を脅かすものだからだ。
「スケートボーダーたちがロンドンの Undercroft から立ち退かされる危機にさらされると、一般市民から激しい抗議が起こりました。スケートボーディングを続行させるよう、15 万人が陳情書に署名したのです」と、ボーデン氏。「これは人々がスケートボーディングの存続を望んでいるだけでなく、全ての公共空間が同じような姿になることを好まないということを意味していると、私は考えています」。
「都市空間の“モール化”についても語られるようになってきました」と、ボーデン氏は続ける。「この“モール化”とは、公共空間がショッピングモールに変わり、走り回る代わりに歩くことを強制され、身体の活動性を失い、買い物をすることで空間を消費するようになることを指します。洋服を購入し、スターバックスでモカフラペチーノを買い、フードコートで寿司を食べる。もちろんそれは皆が好むことですが、公共空間にはそれ以上のことが望まれているのです」。