足場設計がこれほど見事なデザインである意外な理由とは
足場に目が行くのは、それがインスタ映えする完璧なショットの邪魔になるときくらいかもしれない。だが、それ自体を美しいものだと考える人もいる。
ここ数年で、コロッセオやパンテオン、タージ・マハル、トラベラーズ・タワー、米連邦議会議事堂、ワシントン記念塔など、訪問者の多い建物の大規模改修が行われている。それはつまり、こうした象徴的な建物のそれぞれの形状に合致するように、誰かが足場を作成したということだ。コロラドスプリングスの米国空軍士官学校やニューヨーク市の 432 Park Avenue など、従来の建築技術の枠を超えた新しい建造物にも、それに見合った高度な足場技術が要求される。足場設計は、フリーサイズというわけにはいかないのだ。
新規建設や改修から、単なる外壁の塗り替えまで、足場はあらゆる場所に設置される、ありふれたものだ。そうした足場はどれも同じに見えるかもしれないが、実はそうではない。全ての足場に設計が必要であり、複数の足場システムをパズルのように組み合わせて使用している場合もある。だが、実に驚くべきことで、かつ非常に重大なのは、それに問題が起こった場合、建設作業の遅延だけでなく、作業員や通行人を危険にさらす倒壊までもが懸念されるということだ。
業界に変革をもたらしつつあるテクノロジーのひとつに、リアリティ キャプチャがある。これは、写真やレーザー スキャンから 3D モデルを作成し、より精密で詳細なモデリングを可能にする技術だ。BrandSafway として知られる Brand Industrial Services は、このテクノロジーを非常に効果的に使用する企業だ。
BrandSafway のテクニカルサービス部門統括責任者、リック・ダンラップ氏は「リアリティ キャプチャを使用すれば、足場が使用される作業エリアを目視で確認できます」と述べる。「足場を設計し、それをリアリティ キャプチャ内に配置したら、クライアントと共有して「こちらがご依頼の足場です。工場 (あるいは建物) に設置すると、このようになります。お客様の要件に適したものとなっていますでしょうか?」と伝えます。こうすることで、事後の足場変更や再作業の必要性の大半を排除できます」。
BrandSafway は、検討範囲を絞り込み (スコーピングとも呼ばれる)、各プロジェクトで最良のアプローチを割り出している。この作業には、実績のある管理者によるクライアントとの連携、クライアントが自身で用紙やチェックリストに記入する現地活動、確認事項の文書化などが含まれる。
一連のスコーピング手続が完了したら、企業はフィールドワーク パッケージを作成する。このパッケージでは設計に CAD ベースのエンジンが使用されており、空間認識を確保するため、点群データを用いてプロジェクト イメージ内に足場のデザインを直接配置していく。「オートデスクの製品群を使い、CAD から Navisworks へ、さらに出来形図としての 3D モデルを作成する ReCap へとシームレスに推移することができます」と、ダンラップ氏は説明する。
完成したビジュアル フィールドワーク パッケージには、作業見積と必要な足場材料、CAD の DWG ファイル、再現用の 3D モデルが含まれる。「ビジュアル ワーク パッケージのプロセスがなければ、足場の修正や、解体して再設置することに、かなりの時間とコスト、リソースを費やす必要があります。ビジュアライゼーションを活用することで、プロセスから無駄と非効率性を排除できます」と、ダンラップ氏は話す。
建物のデザインはひとつひとつ異なるため、足場に関しては必要なサイズと建築物への適合性、プロジェクト完了までに要求される足場の数、その他の空間的要件 (例えば火災の危険がある場所では木製でなく金属製の足場が必要) を考慮する必要がある。
リアリティ キャプチャを使用すると、足場の設計プロセスの範囲を絞り込み、必要となる材料も減らすことができる。ダンラップ氏によれば、このテクノロジーにより BrandSafway のクライアントは、スコーピングや足場設置に関して口頭でやりとりを行う「伝統的な、従来の手法」に比べて 35 %ものコスト節約が可能だ。50 %もの足場を変更しなければならないプロジェクトもあるが、それはクライアントのニーズを明確に把握できていないからだと言う。コミュニケーション不足による足場修正は、プロジェクトの総工数の 50 %にまで達することもある。
足場システムは数百種類が存在するが、そのうち米国の業界でよく知られているのは、枠組足場、くさび緊結式足場、Safway システム足場、単管足場など主力のシステム数種類だけだ。足場システムは、強度や安全性が検証、確認されているさまざまな組み合わせで配置できる。ダンラップ氏によると、BrandSafway は約 26 億ドル (680 億円以上) 相当の足場とアクセス設備を所有している。
BrandSafway は、Shell、Valero、Halliburton など、長期間にわたり持ちこたえられるような作りの足場を必要とする石油、ガス業界の企業に選択されることが多い。石油やガスの業界は、数百名、場合によっては数千名に上る社員が頻繁にルーチン保守作業に関わると点が特徴的であり、他の業界ではルーチン保守は必ずしも必要ではない。ひとつの足場に、検査や配管、設備、電気、専門分野のサービス担当者を含めて8 名が乗ることもある。
業界の安全基準を満たすのに必要な保守は回数が多く、かなりのコストがかかるため、最初の設置時点で適切な足場を組むことが企業にとって最優先事項となる。「クライアントの足場サービスへの支出を検討すると、その額の大部分は、無駄の削減や、その足場の状態の改善の機会だと考えることができます」と、ダンラップ氏。
石油とガスの世界的な競争は、より効率の優れた作業を実施するプレッシャーを増大させる。「弊社の足場が必ずしも他よりも困難な状況にあるとは思いません」と、ダンラップ氏。「アジアはもちろん、EU やその他さまざまな国々とも競合しています。こういった地域の競合他社に、石油化学業界をより効率的でコスト効率に優れたものにすることができるのであれば、それこそが今後の展望となるでしょう。だからこそ、私たちも自社製品を向上させていかなければなりません」。
BrandSafway にとって向上とは、利用可能なテクノロジーを模索し、最大限に活用していくことを意味する。リアリティ キャプチャのようなテクノロジーが当たり前のものとなれば、拡張現実や仮想現実といったさらに高度なシミュレーション テクノロジーも検討していくと BrandSafway は話している。足場は、あらゆるインフラに非常に重要な存在ながら、当たり前のものだと考えがちだ。だが、そのデザイン プロセスは今後も進化し、それに応じて安全性と効率性も向上していくだろう。