Skip to main content

サン・イシドロ国境検問所の再設計が米国の入国者歓迎につながるか?

サン・イシドロ 国境検問所

隣国との国境をどう扱うかが、その国を雄弁に物語る。トランプ米国大統領が公約に掲げた国境の壁建設に関する予算案が公開され、メキシコとの国境の対応についての討論が再燃している。

壁建設に関する提案には、ソーラーパネルで覆われたもの、光ファイバー技術を組み込み違法入国者を検知するものなどがある。だが、その壁が印象の良いソーラーパネルを搭載していようが、古代ローマの城壁を思わせる不吉なものであろうが、「立入禁止」のメッセージを持った構造体であることに変わりはない。

グローバル化の時代において、国境はそれ以上の役割を果たすべきだ。そこには、二国間で人々や物品が移動する、入り口や交流の場所も含まれる必要がある。カリフォルニア州サンディエゴとメキシコ・ティフアナの間にある、現在改修中のサン・イシドロ国境検問所は、西半球で最も混雑する国境検問所だ。メキシコから米国へ入国する 1 日あたりの平均横断数は自動車 50,000 台、歩行者 25,000 人で、この国境検問所は他の米国=メキシコ国境検問所すべてを合わせた横断数を上回る乗用車と通行者を処理している。

サン・イシドロ国境検問所 主棟
主棟から見たサン・イシドロ国境検問所 [提供: Magnusson Klemencic Associates]

改修を請け負った建築事務所 Miller Hull と、そのクライアントである GSA (米連邦政府一般調達局) は、メキシコからやって来る人々を温かく迎えつつ、厳重なセキュリティ要件を満たす玄関口の作成に着手している。

Miller Hull のプリンシパルで、サン・イシドロ国境検問所プロジェクトの責任者であるロブ・マイゼル氏は、「国境検問所は、不可欠な存在です」と話す。だが、それが恐怖感や威圧感を与えるものになるか、歓待や心地よさを感じさせるものになるかは、デザインで決まる。現在のサン・イシドロ国境検問所は 1970 年代にデザインされたもので、旅行者の増加とセキュリティ要件の変化に対応できていない。

Miller Hull のプロジェクト アーキテクト、ケイシー・リスケ氏は「この国境検問所はコンクリート製で、自動車が通行手続きを受ける箇所の上の構成要素は、巨大で人目を引くものでした」と話す。「歓待ムードは、全く感じられないものでした。実際のところ、守りのムードが強く感じられ、国境検問所というより矯正施設のような印象を与えていました」。

構造、MEP、照明、セキュリティに Autodesk Revit、土木と景観整備に AutoCAD を使用したデザイン チーム は、この国境検問所のユーザー エクスペリエンスという点で大幅なイメージチェンジが要求され、さらに国境検問所としての機能も向上させる必要があった。従来の国境検問所はサイズに制限があり、連日国境を横断する、今や膨大な人数となった人々を受け入れるような設計にはなっていなかった。国境検問所の渋滞は極めて深刻で、改修前の時点では、旅行者は 3 – 4 時間の待ち時間を容認せざるを得ない状態だった。

マイゼル氏は、改修の主な目的は「国境警備職員を保護し、旅行者が速やかに国境を通過する際の安全を確保すること」だと話す。「国境検問所を使用する全ての人にとって、うまく機能する施設を作りたいと考えました。新施設は、2030 年まで 87% の車両増加に対応できるようデザインされています」。また、交通の流れの改善とスタッフ運用への配慮により、サン・イシドロでの現在の待ち時間は、平均 30 分と大幅に短縮されている。

この改善には、サン・イシドロの機能を分散させたことも功を奏している。一次検査は今もメインゲートで実施されるが、二次検査は分離され、旅行者の流れを妨げないよう別のゲートへ誘導される。職員は地上階に建設された主棟から、国境検問所全体を監視できる。また、改装された拘置所は地下階に設けられている。こうした構造は、大多数の旅行者をスムーズに前進させながら、拘留の必要な者を別エリアへと集めるのに役立つ。

「デザイン上の目的を実現するため、建築上のマッス (ひと塊として把握される建物の量塊感) をイノベーティブな手法で使用しました」と、リスケ氏。まずデザイン チームはマッスを用いて、ひと目で建造物の仕組みが理解できる、視覚に訴える標識として機能するようにした。このプロジェクトに関する Miller Hull のステートメントでは「複雑で視覚的に入り組んだ環境でも明瞭な “Port of Operations Building” の建物は、約 202,340 平米の複合施設を固定する錨のような役割を果たしており、象徴的な玄関口として優美なアーチを描く屋根からは、高さ 30 m の鉄塔がマストのように伸びています」と説明されている。

国境検問所において、一次検査ゲートは平凡で退屈になり得る部分だが、サン・イシドロの改修では最も重要な箇所だ。ゲートは全長約 260 mで、わずか 4 本の鉄塔で支えられている。リスケ氏は「屋根のミニマルな構造は検査ブースと一体化しており、職員が移動して効率的に職務を遂行する、十分な空間の提供に役立っています」と指摘している。

ゲートにはまた、Höweler + Yoon Architecture のヨン・J・メジン氏による独特のアート イン アーキテクチャ プロジェクトも組み込まれている。屋根の庇構造の前縁に組み込まれたこの機構は、各レーンの車の流れに反応して LED 照明が変化する。「玄関口としての役割を果たし、入国する場所としても印象的です」と、マイゼル氏。

主棟 屋根 夜景 サン・イシドロ国境検問所
サン・イシドロ国境検問所 [提供: Magnusson Klemencic Associates (プロジェクトの構造、土木設計担当事務所)]

チームは、ETFE (熱可塑性フッ素樹脂) という革新的な製品を使用し、ゲートに覆いを提供すると同時に開放性も実現している。「ETFE 製の天蓋が各ゲートをつないでおり、軽量な屋根構造を提供して、構造体の奥行きを縮小します。日光をふんだんに取り入れながらも、必要な日陰を提供できます」と、マイゼル氏。

この屋根は旅行者を日光から守るだけでなく、職員に対しても、エンジンのアイドリングによる熱気と有害な排気ガスの影響を緩和している。「一日中強烈な日光にさらされて働く職員にとって、日除けは重要な必需品です」と、マイゼル氏。透明な ETFE は、日陰を提供すると同時に、夜間照明システムが屋根に反射することで、空間に十分な明るさを常時保つことができる。屋根には空調 (HVAC) システムも装備され、新鮮な空気のカーテンで屋根下のエリアを冷却すると同時に、アイドリング中の自動車から排出される二酸化炭素レベルを低減させる。

デザイン チームが従来の国境検問所の重厚さと不透明さを全面的に見直そうと考えたのには、透明性という意識の推進があった。「一貫して、可視性の高いプロセスに向けた、窓となる手段を提供したいと考えたのです」と、マイゼル氏。「屋根の傾斜と構造は、セキュリティ上で重要な見通しの優れた視野、特に主棟からの視野を提供します。そして、旅行者には透明性をもたらします。交通の流れも、より合理的で分かりやすいものにしました」。

サン・イシドロ国境検問所 主棟ロビー [提供: Magnusson Klementic Associates]
サン・イシドロ国境検問所主棟外観 [提供: Magnusson Klementic Associates]
 
サン・イシドロ国境検問所主棟外観 [提供: Magnusson Klementic Associates]

透明性、そして安全のニーズと開放性をデザインで組み合わせるというコンセプトは、Miller Hull が大使館を含む警備の厳重なプロジェクト全てで採用するアプローチだ。「セキュリティは透過的でなければなりません」と、マイゼル氏。「一般の旅行者は、ただ検問所を通過しようとしているだけ。大使館の職員たちも、単に職務を遂行しようとしているだけです」。国境検問所と大使館のセキュリティ要件は揺るぎないものだが、どちらの目的も「すべての使用者の安全とセキュリティを最重要の優先事項に置き、人々を温かく迎える場所を作り出す」ことにあると、マイゼル氏は話す。

サン・イシドロ国境検問所の改修工事は 2019 年の完了が予定されており、土地面積は 41,800 平米、屋根面積は 13,935 平米に上る。革新的なデザインを重視し、ネットゼロ エネルギー施設という目標を含め、健全な環境を生み出すべく取り組まれているこのプロジェクトの工程は、全 3 フェーズとなっている。フェーズ 1 では LEED プラチナ認証取得を実現済みで、プロジェクト全体でのネットゼロを目標としている。

だが、Miller Hull のチームがこのリノベーション プロジェクトで最も誇りに感じているとマイゼル氏が語るのは、「米国を訪れるメキシコの人々を温かく迎える表玄関を提供する」ことだ。

著者プロフィール

タズ・カトリは LEED 認定を受けた建築士。自身の Blooming Rock ブログやその他の刊行物で建築に関する著述も行っています。

Profile Photo of Taz Khatri - JP