ロボットが楽器を使って演奏する“テクノ”ミュージック
1978年に発表されたクラフトワークのエレクトロなトラック「ザ・ロボット」の歌詞には、自由にプログラムできるロボットが描かれている。だが、そのロボットが実際に音楽を演奏していたわけではない。
その40年後、ドイツのミュージシャン、エンジニア、教育者であるモリッツ・サイモン・ガイスト氏が、デビューEP「Material Turn」で音楽自動人形を実現。氏が手作りしたSonic Robotsが、全てのサウンドを生み出している。
ガイスト氏のロボットは、テクノ ミュージック特有の“ビー”、“ピー”という音を出すわけではない。Sonic Robotsは重ねたグラスやエアコンプレッサーの中の発泡スチロールの粒、金属のカリンバやその他の仕掛けで、テクスチャーとバリエーションに富んだアコースティック サウンドを生み出す。
「同じ音は存在せず、毎回微妙な違いがあります」と、ガイスト氏。「全てが常に変化します。オーガニックなサウンドの世界が生み出されており、それこそが求められるものだと思います。シンセサイザーは使っていないため、特有のデジタルな香りもありません。レコードとCDの違いのようなものですね」。
幼少期にピアノとクラリネットを学び、その後ジャーマン ロックやパンク ロックを長年演奏してきたガイスト氏は、音楽とロボットへの愛を融合したクリエイティブな世界へ踏み込む以前は、電気工学の研究と仕事を行なっていた。2012 年に発表した最初のミュージカル インスタレーション「MR-808」は、有名なドラム・マシンを、ロボットがアコースティック ドラムを演奏する特大のインタラクティブ楽器で再創造したものだ。
Sonic Robotsのデザインやテスト、その反復を何年もかけて行ってきたガイスト氏は先ごろ「Material Turn」を発表し、11月にはフルアルバム『Robotic Electronic Music』をリリース予定。両作品をプロデュースしたドイツのベテラン デュオグループ、マウス・オン・マーズは、ロボットからリッチで特徴的なサウンドを生み出すことの重要性を指導した。
だが、音楽を生み出すロボット特有の問題が、継続的に発生。さまざまなロボットのコンセプトのうち60%は、予期せぬ物理的な問題により失敗したという。
例えばハイハット・シンバルのサウンドを模倣するため、ガイスト氏は演奏に従って内部の発泡スチロールの粒が吹き飛ばされる、圧縮空気のシリンダーをデザイン。「サウンドは、粒でなく圧縮空気で生み出されています。空気の流れを視覚化しようと考えました」。
だが、彼とクルーが2日間に渡って「Entropy」のビデオ撮影を行った際には、発泡スチロールの静電気が蓄積して、粒がシリンダーにくっついてしまった。シリンダー内部に金属を入れて放電を試みたが、うまくいかず、乾燥したシリンダー内部へ何度も外気を吹きかけて湿らせ続ける必要があった。「想像もしなかったことが、常に起こりますね」と、ガイスト氏。
またSonic Robotsが写真やビデオ、毎年行う40回ものライブ パフォーマンスで魅力的に見えるようにすることも、大きな挑戦となっている。基本的なロボットの回路基板はAutodesk EAGLEでデザインされているが、その大半は非常に壊れやすいか、視覚的な密度が低すぎる。ロボットの中核部には、Autodesk Inventorでデザインしたパーツを補足すべく、古いハードドライブやギターなどのオブジェクトが転用され、3DプリントやCNCフライスを使ったレーザーカットが行なわれている。
視覚的な美しさを追求するため、5体の音楽ロボットで構成されたインスタレーション「Tripods One」の制作には、デザイン事務所の友人たちと3Dプリントやレーザーカッティングを活用。「全てをパーツ毎に手作りすることから、標準化された作業を行うロボットを真似るようになったことは、大きなインパクトがなりました」と、ガイスト氏。「メイカー的なことやラピッドプロトタイピングは自分にぴったりなので、それを常に活用しています」。
「Tripods One」以降のプロジェクトでは、非常にクリーンな外観よりも“使用感があり未来的”なデザインを好むようになった。彼によると、「2001年宇宙の旅」よりも最初の「エイリアン」に近い。「宇宙を何百年も飛び続けた宇宙船は、奇麗ではないでしょう」と、ガイスト氏。「そんな筈はないですよね! だからそれ以降、自分の楽器は使用感のある未来のオブジェクトとしてデザインするようにしています」。
サウンドと視覚の両面で美しさを手に入れたガイスト氏は、何よりも電子音楽に対する印象を、大量生産されたパッケージ済みのサウンドから、ハッカー精神でテクノロジーを解体して新しいものへ組み立て直したものへと変えようとしている。
「ロボットによって心を開き、サウンド生成の内側を覗き込むことができます」と、ガイスト氏。「表面の下にあるものを見て、それが実際にどう作られているかを理解したいのです」。
ガイスト氏は現時点では、ソフトウェアからロボットへスタンダードなMIDI プロトコルを送ってサウンドを生み出すことで、全ての音楽パートの作曲、演奏を行っている。だが、5体のロボットによる小規模なオーケストラのため、数時間に及ぶ音楽を機械学習によりアルゴリズミック作曲するという野望を持っているという。
ガイスト氏が位置する芸術と科学の交差点では、両者のバランスを簡単に失いがちだが、氏はテクノロジーを活用して音楽を提供することに焦点を絞っている。
「私の哲学は、音楽そのものに語らせるということです」と、ガイスト氏。「言葉で多くを語るのでなく、演奏の神秘的な瞬間を続けるべきなのです。音楽には独自の世界があり、それが素晴らしいものでないなら、プロジェクトそのものに問題があるということです」。