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ロボットが地上と宇宙で建築の未来を形作る 3 つの方法

火星の氷の家 レンダリング

ル・コルビュジエが“住宅は住むための機械である”と述べた 1923 年発表の名著「建築をめざして」に賛同して書かれた「Towards a Robotic Architecture」(ロボット建築をめざして) は、建築分野におけるテクノロジーの未来へ希望に満ちた眼差しを向けている。カンザス大学建築デザイン学部長のマヘシュ・ダース氏、テンプル大学デジタル プラクティス部門助教のアンドリュー・ジョン・ウイット氏の共同編集によるこの著書は、建築デザインにおけるロボットと AI の将来性を考察したものだ。

ダース氏は、AI テクノロジーがもたらす哲学的な影響に魅了されてきた。彼が思い描くような未来へと進行するのであれば、ロボットが人間の共同デザイナーやビルダー、同居人となる世界はそれほど遠くない。氏は著書の第一章で「我々は新時代の幕開けにいる。人間の創作物である生命体が、私たちと共に歩み、働くようになる時代だ」と記している。「かつてない可能性を開き、我々の世界観に挑戦を挑む彼らは、人間の条件を再定義し、そうした変容の一環として建築に影響を与えるようになるだろう」。

ロボット 建築 pattern wall
ロボットによるデザインでは、幾何学的複雑性、材料の挙動、製造を、自然界のそれに合致するスケールで統合できる [提供: Neri Oxman]

環境応答性生体材料のデジタル ファブリケーションや、介護施設などにおけるソフト ロボットの出現、そして火星における居住区のロボット建設などは、ダース、ウイット両氏や寄稿者たちがその著書で思い描く、素晴らしい新世界のごく一部に過ぎない。

1. AI に基づいたビルは自然界のデザインに追従する

ダース氏は未開ながら有望な研究分野を「ロボットのビルと家具、インテリア」だと記している。言い換えれば、ロボットのように動作するビルのことだ。

米マサチューセッツ州ケンブリッジの MIT メディア ラボにおける、ネリ・オックスマン氏とジョシュア・ファン・ザック氏、ジョージ・デューロ=ロヨ氏、そして彼らの Mediated Matter Group による研究チームは、建築がそこへどのようにして到達するかの一例として、生体構造をデジタル ファブリケーションの世界へともたらす概念実証のプロトタイプを提供している。

「パラメーター化学:バイオセメント構造のロボット製造向け生体材料複合材料のリバース エンジニアリング」と題された章で、研究者たちは 2 種類のバイオポリマーを再構成することにより、バイオセメント構造を「調整と最適化」する手法を説明。それは自然界の構造に匹敵し、かつかなりの頻度で合致するレベルだとしている。

生分解性の、カヌーのような形をした 2 階建ての格子構造を想像してみよう。ダース氏によれば、このプロジェクトの目新しい点は、自然界のプロセスと特性の再現に AI を使用していることだ。「これまで、材料は不活性物質として扱われてきました」と、ダース氏。「コンピューター処理による材料の注入が可能となれば、材料は環境やその働きに反応する、インテリジェントなものとなります」。

2. 人間と「ソフト ロボット」は協調して連携するようになる

工場や家庭から組織、子供用ベビーサークルまで、既にロボットはユビキタスな存在になっているとダース氏は指摘する。ロボットは、BIM や CAM (コンピューター支援製造) から CNC、3D プリンター、レーザー カッターなどコンピューターを使用したテクノロジーで使用され、建築デザインとデジタル ファブリケーションを変容させてきた。だがダース氏の予測通りであれば、未来のロボットは、よりソフトかつデリケートで、動きもより自然なものとなるだろう。

ロボット 建築 握手
「ソフト ロボット」は、より人間と自然に関わり合うようになる、とダース氏は述べる

「ソフト ロボットというのは、興味深いコンセプトだと思います」と、ダース氏。「ロボットと聞くと、金属製で固く、強大なパワーを持ち高速で動作する機械を想像しがちです。でも人間やその他の生物がロボットと関与する頻度が高まれば、ロボットは現在よりもずっとインタラクティブに動作することになるでしょう。人間と握手する際に、掌を握りつぶすこともありません」。

ロボットがよりソフトになれば、その環境も同じように進化していくだろう。自動車製造工場のパワフルなロボットのようにケージ内へ拘束された状態から、もっと自由に動き回り、より柔軟で穏やかな環境で、人間に混じって作業を行うようになるだろうとダース氏は話す。「幼児の世界を考えてみてください。それはソフトで、より寛容で、リスクも少ない世界です。私たちが生み出す環境にも、そうしたクッションを提供する必要が出てくるでしょう」。

3. 建築家が火星への移住に尽力

火星における人間の居住区をロボットで建設するというのは、かつては現実離れしたアイデアだった。だが、その計画は今や、NASA の Mars 3D-Printed Habitat Challenge (火星 3D 住宅チャレンジ) の一環として誕生したロボット配備のモデルとして形になりつつある。「火星への移住は、ロボット無しには不可能です」と、ダース氏。「火星に足を踏み入れる前に、こうしたテクノロジーとの幅広い関与が、今後行うことの多くで必要となるでしょう」。

メキシコ・グアダラハラで開催された第 67 回国際宇宙会議で、SpaceX CEO のイーロン・マスク氏が火星に人類を送り込み移住をスタートさせる計画を発表した際、彼が住居として構想していたのは、火星で採掘される原料で作られるガラス パネルと炭素繊維フレームで構築されたジオデシック ドームだった。ニューヨークの Asmbld で共同設立者兼 R&D 統括を務め、「Towards a Robotic Architecture」の最終章「Robotic Construction on Mars (火星でのロボット建築)」を執筆したペトル・ノヴィコフ氏は、資源のコストやその他の要因により、マスク氏の計画は、少なくとも当初はうまくいかないだろうと話す。

だが期待できるのは、ノヴィコフ氏の最終章で説明されているイグルー (イヌイットが住居とする氷のブロックを積み重ねた家) のような、自律制御の氷ロボットが作る、3D プリントによる繊維で強化された半透明の氷の家だ。「火星の氷の家」として知られるこの構造体は、宇宙飛行士の到着を待つ居住用基地の機能を果たすことになるかもしれない。

Mars Ice House
「火星の氷の家」の断面画像 [提供: Clouds Architecture Office (Clouds AO) and Space Exploration Architecture (SEArch) ]

ノヴィコフ氏が最終章で説明するように、この構造体は 2 種類のロボットで構築される。まず、WaSiBos と名付けられた半自律制御のロボットが展開され、氷と火星の表土を採取して基礎を構築する。その後、氷ロボットにより構造体全体が 3D プリントされ、ロボットが上昇するに従って氷、繊維、エアロゲルの層が追加される。

火星移住が現実のものとなるかどうかはさておき、こうしたデザインや工法の開発やモデル化により研究開発が促進され、それが地球上の資源に乏しい地域での活用に転じるようになるかもしれない、とダース氏は話す。

だがさらに重要なのは、今やこういった惑星間レベルの大きな変化に恐れを抱くことなく、受け入れて活用するべきだということだ。「大きなテクノロジーの変化は、いつも多大な懸念をもたらします。蒸気機関やコンピューターなどもそうでした」と、ダース氏。「私たちは今、ロボットや AI に、それと同レベルの不安を感じています。でも、こうしたテクノロジーに控えめな楽観論でアプローチするべきです。私たちが直面する、こうしたグローバルな課題は、新たな知識体系でなければ対処できないものであり、その解決策にロボットや AI は欠かせないものなのです」。

著者プロフィール

ジェフ・リンクはデザインとテクノロジー、環境をカバーし、アワードを受賞するジャーナリスト。その著作は「Wired」「Fast Company」「Architect and Dwell」などに掲載されています。

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