ビルや橋の解体を前提としたリサイクルでアダプティブユース以上の設計を実現
今夏、カリフォルニア・オークランド美術館は新たに芸術助成プログラムの公募を告知した。ただし選出されたアーティストが受け取るのは、助成金ではなくスチールだ。それも大量の。
ベイブリッジ スチール プログラムは、1933 年に建造されたサンフランシスコ ベイブリッジの東側スパンを構成するスチールを再利用したいという要望から生まれた (橋の架け替えは 2013 年に完了している)。該当のスチールは、その長さから“504”、“288”と呼ばれるスパンから得られ、申請資料によると、カリフォルニア州内の市民や公共の芸術プロジェクトに使用できる。
このプログラムは、廃棄物になるかもしれないものを付加価値の高いものへとアップサイクルする、インフラのアダプティブユース (適応再利用) というユニークな機会を提示している。だがデザイン プロセスは既存の状況により決定付けられるため、アダプティブユースは本質的に事後対応的なものになる。
だが、もしビルや橋、幹線道路が分解を見越してデザインされていたらどうだろう。構築環境が、簡単かつ無限に改築可能な方法でデザインされていたら? ベイブリッジが一切の廃棄物を出さないよう、橋梁ごとに解体できるとすれば? リサイクル建築物というものが存在するとしたら?
これこそ、世界的建築家で建築科学者でもあるブラッドリー・ガイ氏 (米国カトリック大学建築・計画学部のサステイナブル デザイン准教授で、「Unbuilding: Salvaging the Architectural Treasures of Unwanted Houses」の著者) が、解体を考慮したデザインというアイデアに出会って以来、1990 年代半ばから徐々に、しかし懸命に提唱を続けているものだ。解体 (または分解) を考慮した設計(Design for deconstruction または deassembly から DfD とも略される)は設計理念であり、建築物の大部分には寿命があると認識するための戦略のひとつでもある。
「建築物は刻々と変化します」と、ガイ氏。「部品は摩耗し、技術も変化し、美的様式も進化します」。ほとんどの建築物がいずれ寿命を迎えるが、そのときが来たら建築物の構成パーツを回収し、再利用するべきだと氏は話す。
これは全く新しいアイデアというわけではない。1851 年、イギリスに水晶宮と呼ばれる約 92 平米の展示会場が建設された。この建造物は解体を考慮して設計されており、組立はシンプルかつ簡単で、万博終了後には鉄骨とガラス製の構造がバラバラに分解されて、ロンドン南部のシデナムの丘に再建された。現在、この哲学は災害復興住宅や陸軍の仮設構造物の設計に生かされている。
しかしガイ氏に言わせれば、ほとんどの建築物は一時的な存在であり、彼は事後対応的性質を持つアダプティブユース (建築材料のほんの一部のみが再利用可能となる) より、さらに積極的なアプローチを提唱している。建設着手の際に建築物解体の手法を理解し、そのプロセスをできるだけ効率的なものにするのだ。
解体を考慮した設計に汎用的なアプローチは存在しないが、ガイ氏は「全てを接着してしまわないこと、有毒な材料を使用しないこと」や、複合材料や隠し接合を避け、組立はシンプルかつ分離可能なものにすることなど、建築家が留意するべき幾つかの明白な点があると話している。またサイズも重要だと語り、デザイナーが可能な限り標準規格の長さのスチールや木材を使用することを推奨している。
自身の授業では、建築物の設計に加えて、学生達に「解体した後、この建築物はどうなる? そこまで計画することは可能か?」と、その第二の人生を設計するよう問いかけている。このアプローチは、環境保護に不可欠だと多くの人が考えている。ガイは「建築物の改修と解体による廃棄物は、米国内の建築および解体による年間廃棄物全体の 91% を占めています」と、統計データも頭に入れている。その答えのひとつが解体を考慮した設計だと、支持者達は考える。
このアプローチは認められつつある。過去10年間にわたり、製品からビルまであらゆるオブジェクトを設計するデザイナー達が寿命を考慮するようになってきた。2002年、建築界のオピニオン・リーダーであるウィリアム・マクダナー氏は、著書「サステイナブルなものづくり―ゆりかごからゆりかごへ」(この書籍自体も解体してリサイクル可能)によってこの概念の普及に貢献しており、また彼の設計事務所 McDonough + Partners が手がけた NASA サステナビリティ ベース は、この原理を元に設計されている。
2007 年から 2009 年まで、EPA は毎年 Lifecycle Building Challenge を開催し、「ビルと材料の完全寿命」を考慮するプロジェクトを表彰した。受賞プロジェクトには、デイヴィッド・ミラー氏によるシアトルの『Pavilion in the Park』や、詳細な解体プランが用意されたプレファブリケーション工法を使用した、KieranTimberlake 建築事務所によるモジュラー構造の Loblolly House などがある。
この理念は、グリーンビルディング (緑の建築とも呼ばれる、環境配慮型ビル) の評価システムとなりつつある。イギリスや香港、オーストラリアで使われている評価システムでは、いずれも解体を考慮した設計に対して点数を与えている。LEED(USGBC が運営する米国の環境性評価システム)はまだ解体を考慮した設計に点数を与えるに至っていないが、LEED の Design for Flexibility は「順応性を考慮した設計」を評価項目に加えており、これは後の使用に対する配慮を建築家に促すものだとガイ氏は話す。また氏は、解体を取り巻く言語が、米国建設仕様書協会 (CSI) の MasterFormat など、業界標準とリソースにも追加されつつあると話す。
もちろん Living Building Challenge は、さらなる限界に挑もうとしている。2014 年に発表されたバージョン 3.0 は、設計や建設、運用、解体を含む建造物の寿命の各段階において廃棄物の削減に取り組むよう建築家に義務付けた。設計チームは、解体やアダプティブユースの提案を含む材料変換管理計画を作成する必要がある。
だが解体を考慮した設計は、エネルギー使用の評価と同等に評価することはできない。それが、都市やその他に課題をもたらしている。「解体を考慮した設計について異を唱える人はあまりいませんが、最も頻繁に遭遇する問題は「そこからルールを作成する方法は?」「どう評価するべきか?」ということです、とガイ氏。例えばワシントン州キング郡は、解体を考慮した設計への公式指針を用意している。ガイが共同執筆を行ったこの指針は、義務にはなっていない。彼は、設計チームに寿命への考慮を義務づける自治体の建築規制条例はまだ見当たらないと話す。
もうひとつの課題はコストだ。爆破解体を手作業による解体と比較すると、回収された材料の売却による収入を考慮に入れても、ずっと安上がりだ。また労働力や技能訓練も必要となる。「解体方法と材料に関する知識が必要です」と、ガイ氏。「大きな問題は、ビルの寿命が長いことと、材料特性に関する情報維持が難しいことです」。その材料が、50 年後には価値のないものになっているかもしれない。既存のビルの多くで、その後有害だと判明した材料が使用されている。50 年後にも正しいと言えるのだろうか?
このテーマに関する研究が不足している理由のひとつに、解体を考慮して設計されたビルの調査は、そのビルが寿命に達するまで実行できないことにある。ガイ氏は、解体を学問的観点から考察している数少ない建築科学者のひとりで、現在の手法による古いビルの解体にどれほどの時間がかかるのかを研究している。
「材料の回収や、再利用の条件に適うために必要なタスクの数など、非常に具体的な数値になります」と、ガイ氏は話す。NASA のサステナビリティ・ベースがその寿命に達するには、少なくとも数十年はかかる。そのときが訪れたら、誰かがこのビルを調査してくれることを氏は望んでいる。
その一方で世界では、再利用を一切考慮せず設計された要素で間に合わせることが続けられている。オークランド美術館によるベイブリッジ スチール プログラムに先行して行われたのが、Single Speed Design による Big Dig House だ。マサチューセッツ州レキシントンにあるこの私邸は、ボストンの州間高速道路 93 号線の取り壊しで廃棄となった長スパンの構造用コンクリートとスチールを使用している (この州間高速道路は 2007 年に地上部分が地下トンネルに改修された)。
50 年後には、現在のインフラのうち、どれだけが遺棄されることになるだろう? 再利用の試みは生まれるだろうか? それは簡単なことではないし、効率的でもないだろう。構築された環境は永続的なものと思われがちだからだ。だが、それは間違っている。いつか都市とインフラが、その寿命が認識された上で構築され、初めから再建を見越して設計されるようになる日が来るだろう。