Project Frog が思い描く、ビッグデータで定義される建設業界
この Q&A シリーズでは Redshift が建築や建設、インフラや製造の業界で「ものづくりの未来」を体現するリーダーやイノベーター、アントレプレナー、ディスラプターをインタビュー。今回、「ものづくりの未来の代弁者」として登場するのは Project Frog で製品/イノベーション部門を担当するマイク・エガーズ副社長だ。サンフランシスコを拠点に工業化工法を扱う同社は、大規模な建設ソリューションを提供するテクノロジープラットフォームに沿った部品を含めた、プリファブリケーション建築システム キットのデザイン、開発を行っている。
Frog のキットは建築家とプロダクト デザイナー、エンジニアが生み出したもので、「柔軟性」と「自動化」、そして建築家やエンジニア、製造会社やビルダーの扱いやすさを意味する「アクセシビリティ」という、3 つの包括的なコンセプトに対応している。これらのキットはモジュール建築に類似したもので、学校やコミュニティ センター、診療所などの構造物へ組み立てられる。だが、モジュール建築が工場内で完全に組み立てられるのに対して、このキットはサイズの大きい IKEA 家具のフラットパックのような、2 次元のフラット パッケージとして現場へ搬入されるようデザインされている。
建設業界における「ものづくりの未来」を、テクノロジーとイノベーションは、どうドライブしていくでしょうか?
この業界と工業化工法の変化に関しては、クラウドが最大の要素となると思います。現在の状況と、2050 年までに 100 億人に達すると予想されている世界の人口増加、さらに熟練労働者の不足が加わることから、建設業界にはスケーラビリティが要求されるようになっています。クラウドは、そのスケーラビリティの中心的な要素となり、クラウドベースのテクノロジー プラットフォームを、どう部品キットや反復可能な建築システムへと結びつけるかが核となります。これは、単に作業をより迅速で優れたものにするという問題ではありません。関係者とソフトウェア開発者、開発環境の間で必要となるコンバージェンスも、クラウド無しには拡張不可能です。
コンポーネントやモジュール、壁パネルや、それらを組み合わせた部品キットを用いることで、無数の種類のビルを素早くデザインできます。工業化工法はデータドリブンであり、各コンポーネントにデータを埋め込むことができます。このデータに含まれるのは、コスト、製造指示書、取付説明書、構造特性、スケジュール、リードタイムなどが考えられます。
こうしてデータをクラウドの中心に置いた業務の利点は、ウェブベースのツールを用いて素早くビルを組み立て、従来の作業方法ではデザイン、エンジニアリング、価格設定、バリューエンジニアリングという非効率的な反復ループが必要となる、コストやスケジュールなどに関するフィードバックを即時に得られることにあります。スケーラブルで迅速なソリューションを生み出す唯一の方法は、クラウドの接続性を利用して、その中心にデータを置くことです。
建設業界が現在直面している課題、今後予測される課題は?
熟練労働者のいないカリフォルニア州の住宅建設現場を想像してください。何ができるでしょう? カリフォルニア州パラダイスを焼き尽くした、先日の山火事のような自然災害もあります。従来のような方法で建設する労働力も、リソースもありません。また老朽化が進み、エネルギーを浪費する古いビルや構造物など、持続可能でない既存インフラも多数あります。未来に向けた持続可能なインフラの建設という観点で考えると、相当量の改修改築が必要です。
そして素晴らしいことに、それを行う準備は整っています。クラウドに接続したツールは、10 年前には存在しませんでした。スプレッドシートとオフライン環境の間で、何とかやりくりしなければならなかったのです。現在は皆がその問題に気づき、実際にツールも手にしています。
また、デベロッパーが収束するプラットフォームは、業界にとっても有意義です。プラットフォームとして思い浮かぶものには、iOS、Android、Salesforce などがありますが、この業界にもそれが必要です。Forge も、その一例です。10 種類のデスクトップ アプリケーションがあるだけでは、それがクラウドに接続していたとしても、この問題の解決には至りません。そうした 10 アプリケーションと、同じプラットフォーム上に構築された、その他 10,000 のアプリケションが、相互にコミュニケーションを行い、多様な関係者に特有の膨大なワークフローを対応することが必要です。Uber は、モバイルをプラットフォームとして利用している業界の好例です。モバイル プラットフォームの台頭なしには存在し得なかったでしょう。
この業界が直面する可能性のある課題に、経済の大規模な低迷も挙げられます。Frog は、自社での製造は行っていません。メーカーと連携していますが、相当額の設備投資を行っている会社が、その工場の機械設備を整えて特定のビル類型を行えるようになり、特定の構造体系や種類の材料に取り組むようになった際に、どう困難を乗り越えていくのかは興味深いところです。彼らはどうやって経済の変動に適応していくのでしょうか? 例えば、多家族向け住宅のブームが数年のうちに収まってしまったら?
それを埋め合わせればよいのでしょう? 経済の浮き沈みを切り抜けられるよう、建築システムをフレキシブルなものにすることを考えなければなりません。
また規制要件は厳格なものであり、Frog も実際にその困難に直面してきました。1 週間でビルをデザインして工作図を作ることは可能でも、確認検査で何カ月も足止めを食う場合もあります。これは拡張する上で大きな障害となり、今すぐ変化を起こすべきという動機付けを阻む要素のひとつになっています。
5 年後や 50 年後、100 年後の建設業界の未来を、どう想像しますか?
フランク・ゲーリー的なビルやオリンピック スタジアムなどの複雑なプロジェクトは今後も存在するでしょうが、多くのビルがプロダクトのように機能するようになるでしょう。建築家が今ほど図面を書くことに時間を費やさなくなる未来を想像するのは、エキサイティングです。ここでいう図面の作業は、許可申請書類の作成や、手作業で繰り返しの多い決まり切った業務など、誰もやりたがらない仕事です。私自身を含め、建築家はディテールをデザインするのが大好きです。申請手続を行うために許可申請書類に注釈を書き加えることや、同じことを何度も繰り返し行うことは楽しいことではありません。繰り返しの多い冗長な作業を排除し、才気あふれる教養豊かなデザイナーの有用性をプロダクト アプローチに費やせば、製造プロセスの下流に位置する計算やドキュメンテーションを高度に自動化でき、デザイナーが製図に費やす時間が短縮されて、建築システムや製品のデザインにより多くの時間を費やすことができるようになります。
今後新たに創出される仕事は、どのようなものになると思いますか?
CAD や BIM の登場で、建築家は一斉に製図者になりました。以前ほど製図の必要がなくなれば、ビル建設における建築家の役割は変化し始めるでしょう。建築家はデータ サイエンティストへと進化し、ジェネレーティブ デザインを用いて何百、何千ものに上る選択肢や問題に対する対応策を検討するようになるかもしれません。それもビルやまちづくりについて考える方法のひとつです。
これまでの建築家としての経験では、予算と工期に制約がある中でクライアントへ 2 つの選択肢を提示したが、その一方は実際には選んでほしくないものだ、ということはよくありました。でも何千という選択肢を作成でき、そこから選択できるとしたらどうでしょう? 反復を繰り返すほど、よりよい決定が行えます。クライアントへ最終的に提示されるオプションが 2 つのみだったとしても、たかだか数十年の私の経験と限られた時間を超越した、ずっと多くの情報に基づいてプロジェクトに取り組むことができるのです。