建築家とポストデジタル アルティザンが職人の技を近代化する 5 つの方法
デジタル時代における職人の技を定義するのは難しい。職人の技という言葉で、スタイルの純粋性、機械製ではない手製のものへの嗜好を想起する人も多い。20世紀初頭の住宅デザインであるクラフツマン様式を思い起こす人もいるだろう。クラフツマン様式は、家全体にかかる切妻屋根や、ひさしのついた幅広の玄関ポーチ、きめ細やかな手細工、そしてノーマン・ロックウェルの絵のような、言葉では言い尽くせない古き良き米国を思わせる雰囲気が特徴だ。
だが、この言葉の直感的な印象はさておき、職人の技の概念は進化している。木彫り職人や石工、その他の工匠が培ってきた長年の知識は、幾何学的計算モデルや、機械製作を使用した新しい工芸作品やアーキテクチャ専門技術 (重力に逆らった家具組立からロボット・オートメーションの複雑なワークフローに至るまで)を開発するインテリジェントなデザイン・プロセスに深く根付いている。こうしたイノベーションは「メイカー」文化のリバイバルの真っ只中に、建築家が職人と同等に語られることに一役買っており、例えば Folksy や Etsy などハンドメイドのマーケットプレイスに、それがとても鮮明に現れている。
では、デジタル クラフトとは何なのだろう? それはトップ デザイナーの作品に、どのように現れているのだろうか? ここではイノベーティブな建築家が認識している、ポストデジタル アルティザンたちが職人の技を変容させるために行っている 5 つの方法を紹介しよう。
1. 素材を注意深く見極めて加工する
学術的デザインビルドを実践する、ブランドン・クリフォード、ウェス・マギー両氏の Matter Design にとって、設計と製作は表裏一体だ。「設計図を描いたらどこかに発送して終わり、ということはしません」と、クリフォード。「最終製品が結婚指輪であれ、コートラックであれ、建造物であれ、プロセス全体に関わることに力を注いでいます」。
そのプロセスは、プロジェクトによって全く異なるものとなる。高さ約18メートルの Periscope: Foam Tower では、両氏はロボットを使った発泡スチロール製ブロックの切断と積み上げ、配置を行い、張力ケーブルで固定した。また La Voûte de LeFevre は、ハチの巣状になっている自立構造のアーチ形天井で、コンピューター計算による幾何学的制約を用いて構築されている。チームは、大型のコンピューター数値制御 (CNC)5 軸加工機を使用して、重さのバランスの取れたコンテンポラリーな外形になるよう凹形の開口部をカットした。その形状には、古代の規矩術が利用されている。
「それが工芸品であるかどうかは、木材に紙やすりをかけた時間の長さでは決まりません」と、クリフォード氏。「職人の技は、コンピューターによる計算だけでなく、素材のプロセスにもしっかりと組み込まれています。素材について考え始めることで、その他の計算や重さ、構造、温熱条件などのロジックはコンピューターで求めることができます」。
「2000 年に建築の勉強を始めたとき」と、クリフォード氏は続ける。「デザイン プロセス全体を検討する際には、その過程で壁にこうしたラベルを貼り付けたものです。“これはレンガで”、“これは石膏で”、“この床は木で”、と。素材は、工業規格の選択肢から選ばれていました。今の学生たちは、工業化以降一般的でなくなっていた、非常に詳細なやり方で素材と関わるようになっています。「現代の巨匠」より、産業革命前の「熟練の匠」と、より多くの共通点を持つようになっているのです」。
2. 意図と伝統工芸を守る
ガイ・マーティン氏は、メイカーのためのメイカーだ。ロサンゼルスを拠点とする彼のデザイン、製作、デジタル彫刻会社 Guy Martin Design は、タッシェン社の各書店用のレーザースキャン製カスタム什器、ワーナー・ブラザーズ用の映画用小道具、フィリップ・スタルクの記念彫刻などを作成している。彼にとってデジタル・クラフトの試金石は、ロボットを使用し、デザイナーの意図を保ちながら、いかに昔の構築方法を大規模に再現するかにある。「大聖堂を、これまでの方法で建造することはできません」とマーティン氏。「それなら、どのように職人の腕前を取り込み、デジタル領域に変容させられるか? マシンやデジタル・ツールは、単なる生成ツールや概念化された何かではなく、手の延長だと考えています」。
造型やワイヤー切断、彫刻、フライスなど製作に使用する手段に関係なく、マーティン氏は手で作られた形のニュアンスを捉えることに熱心だ。レストラン Trois Mec 用に製作された、脚にマホガニー材を使用したバー・スツールと、(デジタルクレイモデルを基にロボットにより彫刻された) Cypriere テーブルは、そうした人間味の好例だ。
サンディエゴの彫刻家ケン・ギャングバー氏と Landmark Aviation とのプロジェクトでは、ハプティクスを搭載したデバイスが連結式のアームを「3D空間にあるマウスのように」操り、デジタルモデリングされた抵抗を用いてクレイ彫刻をシミュレートするのだとマーティン氏は話す。別のプロジェクトでは、Delcam PowerMILL といった直感的なソフトウェアを使用することにより、職人の仕事のようにツールの向きや強さを変更できる。ロボットがペンキを扇状にスプレーしているところを想像して欲しい。人間の手の動きを真似、手首を返すテクニックを応用してペンキを塗り、ファサードに質感と動きを与えている姿を。
3. スケールにパラメトリック・モデリングを使用
大規模な建築作品を製作する、あるいはデザイナーのモデルのサイズや素材を変更する場合には、パラメトリック モデリングがデジタル・クラフトの中核を成すとマーティン氏は話す。包括的な基準があることで、例えば椅子などの形状で、各パーツ間の関係を維持しながらサイズを変更することができる。パラメトリック・モデリングは、反復する審美的効果の作成にも使用できる。「ひとつひとつがボルトにつながれた、数千の三角形から成るファサードを想像してみてください」と、マーティン氏。「数千に上るこれらの三角形の一辺を変更すれば、建物に曲線や波形といった外観を与えることができます」。
4. デザインと製作の間に互恵的なフィードバック・ループを
クリフォード、マギー両氏は、Autodesk T-Splines Plug-in for RhinoとC#、オーストラリア企業 supermanoeuvre の共同設立であるデイヴ・ピグラム氏、イアン・マックスウェル氏と共同開発したプラグイン スクリプトを使用して、新製品と生産方法の研究開発を行っている。マギー氏によると、モデルと製造論理が互いにひらめきを与えることのできるこの双方向アプローチは、パフォーマティブ・アーキテクチャへとつながる。パフォーマティブ・アーキテクチャとは、デザインの初期段階に注力し、デザインと製造の間のフィードバック・ループを短縮し、マシンがどのように空間内を移動してモノを作るかという記号論理的課題に取り組む、遂行的設計概念を指す。
「従来、デザイン プロセスと製造の間には明確な境界がありました」と、マギー氏。「建築家は建造物を設計し、その設計図をCNCまたはロボットを用いた建設用に CAD/CAM 環境へ変換してくれる誰かに送ります。私たちは、これを障壁だと考えています」
5. カスタムメイドの言語を話す
Synthesis Design + Architecture の設立者であるアルヴィン・フワン代表は、現代文化におけるカスタムメイドのモノの妥当性は、「クラフト」という言葉と大いに関係があると話す。「米国の消費文化を歴史的に見ると、大量消費はシアーズやコストコなど、そこに行けば何でも揃う百貨店の大手ブランドによってもたらされました」とフワン氏。「ここ最近は、オーダーメイドへの回帰が見られ、パンはパン屋で、肉は肉屋で購入する人が増えつつあります。カスタムメイドという概念は、人々はそれぞれのアイデンティティや望みに応じた一点限りの独自のものを求めているという点にあります。これこそ、デジタル製造が重要となるところです。大量生産(マス プロダクション)ではなく、マス カスタマイゼーションです。カスタムメイドのモノには、価値や利点があるのです」。
その好例が、彼の Chelsea Workspace だ。これは、CNC 圧延の合板製肋材で作られた 7 平米のホームオフィスで、イギリス・オックスフォードの Cutting Edge により組み立てられたものだ。構造の畝と方向は部屋にひとつだけある窓から差し込む自然光を利用しており、櫛のような一連のパネルは世界地図を模した露出するスペーサーで固定されている。「伝えたいのは、これはデジタル作品ではないということです。これはポストデジタル作品なのです。製作にデジタルな手法を使用するからといって、それが作品の原動力となっているわけではありません」と、フワン氏。「世界初の車について、よく人は「馬のない馬車」といった言い方をします。しかし、それを特徴づけるのは、馬を必要としないという事実ではありません。それが最初の車であるという事実こそが特徴なのです」。