アフリカの人口増加によって必要になる億単位の建築物
今後 20 年間、近代では最大規模となる世界人口の急増が予想されている。国連は 2015 年から 2030 年の間に、世界人口が 24 億人増加する (総人口は 84 億人) と報告。うち 13 億は、アフリカ大陸での人口増加によるものだ。
この国連の報告書 (3 ページ) によると、アフリカの人口は 2050 年には世界人口の 25% に達する見込みで、2100 年には何と 39% を占めるとされている。
こうした未来の人口に対する食糧供給の問題には KickStart International などのグループが取り組んでいるが、住宅供給の課題に挑戦している団体もある。大陸全体に顕在するこの問題には局地的な解決策が必要だとする MASS Design Group と The Nubian Vault Association が、それぞれ建築家やレンガ職人に、現地の材料と実績ある手法を用いる技能訓練の機会を提供している。
コミュニティとの協働と、未来への投資
アフリカン・デザイン・センター (ADC) ルワンダ プログラムのディレクターを務める MASS Design Group のクリスチャン・ベニマナ氏は「効率良くデザインするには、まず建物を構築する環境や文脈、コミュニティに溶け込む必要があります」と話す。ベニマナ氏の任務は、MASS Design Group の建築コンセプトの実践に加えて、アフリカの人口爆発が作り出す課題を継承することになる建築家たちへ、トレーニングを提供することにある。
「状況を理解するには。デザインが材料や実践、ノウハウといった現地の資源を安定させることを学ぶ必要があります。これを、私たちは“ローファブ”建築 (ローカル ファブリケーション) と呼んでいます。それには、建設プロセスが現場となるコミュニティへの投資機会となるよう、現地調達可能な材料を用いた建築、地元の労働者の活用、地域の工芸技能を組み込んだデザインも含まれます」。
MASS Design Group が提供するサービスはさまざまだが、プロセス全体を通して「現地コミュニティと協働し、コミュニティの未来に投資する好機として全てのプロジェクトにアプローチする」ことを目指していると、ベニマナ氏は話す。
これは、現地では何を意味するのだろう? 「複雑な電気設備や冷暖房空調システム (HVAC) を含む建物のエコロジカルなデザインに関しては、私たちは建物の耐用年数でのシステムの資源消費に注目します」とベニマナ氏。「ただし温帯地域の建物を設計する場合は、自然光と自然換気を取り入れて最適化すれば、ビル運用は本質的に環境に優しいものとなります」。
ベニマナ氏と MASS Design Group は、現在の工法による環境への悪影響や劣悪な居住適合性を抑制できるような材料、建設プロセスを用いたデザインを追求している。このインパクトベースのデザインを、氏は「ローカルな建築におけるパラダイム シフトであり、持続可能な未来の都市開発に欠かせないもの」だと考えている。
こうした都市やコミュニティは、もちろん次世代のビルダー (施工業者) により建設されることになる。幸運にも、ADC は初の建築トレーニング センターを今秋オープンする予定だ。MASS Design Group チームは、ベニマナ氏が語る「POE (post-occumancy evaluation/施設利用者満足度評価) へのコミュニティの深い関与を包含する」インパクトベースの方法論に基づき、ADC 2017 のルワンダにおけるプロジェクトのデザインと建設の実地訓練を含むカリキュラムをまとめた。
ヌビア ヴォールト構造
MASS Design Group と ADC が現代建築と工法を推進しているのに対して、The Nubian Vault Association は古代エジプトの建築手法から手がかりを得て、持続可能な生産物や実践を応用して住宅を建築する方法を現地の職人に指導している。ヌビア ヴォールト (NV) 構造は 3,000 年前から存在するアプローチに倣ったもので、土レンガと土モルタルのみを使用し、木材を使用しないアーチ型構造だ。この NV の成功率には、目覚しいものがある。
Nubian Vault の開発責任者、アマリス・プロイス氏は「ブルキナファソ、マリ、セネガル、ベナン、ガーナの 5 カ国で 800 の市町村、205,000 平方 km に渡って 2,000 を越える建物が建設され、各建設プロジェクトには複数のヴォールトが含まれています」と報告している。
Nubian Vault は数百名のレンガ職人や実習生にトレーニングを提供してきており、ここで技能を習得した者により学校や医療施設、行政機関、農業センターで、数千ものヴォールトが建設されている。中央アフリカから西アフリカのサヘル地方で計 24,000 名がヌビア ヴォールト建築の恩恵を受け、地域経済に 240 万ユーロ (約 3 億円相当) の利益を生み出した。これは、木造 (木材は不足状態にある) でブリキ屋根 (高価で劣化しやすく、再生不可能) の住宅が一般的なアフリカ大陸においては目覚ましい功績だ。ヌビア ヴォールトは時代を超越したデザインであり、また現地の材料を使用してコミュニティ メンバーを従事させることにより、NV は BOP (ピラミッドの底辺 / Base of the Pyramid の略で、世界人口の最貧層を指す経済用語) における住宅供給の真のソリューションになる、とプロイス氏は話す。
「これらは古代エジプト、つまりはアフリカの建造物です」と、プロイス氏。「ヌビアは今日のエジプトとスーダンにまたがるナイル川流域の地域を指し、この技術が生まれた場所であるため、その名が冠されています。現存する最も象徴的なヌビア ヴォールトはルクソールのもので、3,000 年以上前に建設されたものです。NV の構造は非常にシンプルで、レンガ職人からレンガ職人への伝承が簡単です」。
知識の伝達は、アフリカの人口増加に伴う建設という重荷を背負う未来のレンガ職人のための基盤を築く。
「サヘル地方の人々に関する私たちの長期目標は、ヌビア ヴォールトが他の建設ソリューションとともに利用可能とし、持続可能な住宅を、この地域のさらに多くの人々に利用しやすい選択肢にすることです」と、プロイス氏。「例えば市場拡大を 10 ポイント上昇させることができれば、2030 年までに建物が 20 万棟建設され、レンガ職人が 6 万人養成されて、300 万人がその恩恵を受けるようになります。こうなれば、NV は建設市場にしっかりと根付くようになり、実質上全ての人に利用可能なものとなるでしょう」。
政府事業体やシンクタンクが来たるべきアフリカの人口爆発についての報告や会議を行っている間に、MASS Design Group と Nubian Vault Foundation は、いま変化をもたらしている。現在アフリカに住む人々に、そしてアフリカ大陸全体の未来に。
MASS Design Group、Nubian Vault Foundation は 世界でも最も困難な問題に対して革新的なデザインとエンジニアリングを活用しており、Autodesk Foundation (オートデスク基金) のメンバーに選ばれています。