Miller Electric が BIM とオフサイト建設でジャスト イン タイム方式を見直し
アップルが 1990 年代後半にスタートさせた「Think Different」キャンペーンでは、TV 広告やポスターにアルフレッド・ヒッチコックやマイルス・デイヴィスなど、象徴的な人物の画像が使用された。センセーションを巻き起こした、このキャンペーンのメッセージは、より広義での視点の転換を示唆するものだった。ある方法が長きにわたって用いられていても、それが唯一の方法だという訳ではない、ということなのだ。
よく知られているように、電気工事士の仕事は難解なものだ。消火設備や配管、HVAC (冷暖房空調システム) など、他の専門分野の業務に比べても、その難易度は高い。従来のワークフローでは、電気工事士は現場に到着する最後の熟練工となることが多く、他の職人たちが設置した、スパゲッティのようになった複雑なシステムの合間を縫うように作業を行う。こうした従来の作業方法が、変更の依頼や土壇場での干渉、コストとスケジュールの超過をもたらす原因となっている。
電気工事士が、これまでとは違ったやり方で業務に取り組めるようになったら、どうだろう。例えば、現場で最初に作業を開始できるとしたら? Miller Electric はそれを実現すべく、電気設計と架設における、BIM ベースの新たなアプローチのパイオニアとなった。フロリダ州ジャクソンビルに本拠地を置くこの会社は、比較的大型の電気系モジュールにオフサイト方式 (工場でのプレファブリケーション) を使用し、それらのモジュールがプロジェクト現場で必要な当日、場合によっては、その時間帯ちょうどにデリバリーする。
より早い段階で現場での作業を開始することは、特にデータセンターや病院、庁舎などの大規模プロジェクトにおいては、効率性と安全性にメリットがある。Miller Electric でプレファブリケーション建設サービスを担当するアラン・クリール副社長は「最後に作業を開始する場合は、ゴミやがれきなど他者が生み出した乱雑な環境への対処が必要となり、安全性が損なわれます」と話す。「より早い段階で現場入りし、自らの運命をコントロールすることが切実だったのには、さまざまな理由がありました」。
最後から最初へ
この新しいワークフローでは Miller のクルーが、完成したフロアへ他業者より先に到着し、その後速やかに大きなモジュールをクレーンで吊り上げることができる。「現場入りが最後でなく最初になることは、大きな違いを生み出します」と、クリール氏。「やり直しやムダを削減でき、必要な作業員数も減り、安全性も着実に向上します。また、パフォーマンスが向上するため、より多くのプロジェクトを請け負うことができるようにもなります」。
この新しいアプローチの利点は、2018 年半ばにジャクソンビルでオープン予定の 9 階建て、55,742 平米の Baptist MD Anderson Cancer Center の建設作業で、特に明白なものとなった。「非常に密集した大都市圏で 1 街区の大部分を占める、大規模で象徴的な建物となりました」と、クリール氏。「このようなプロジェクトには、データ センターなどと比べると、より多くの課題があります。例えば、材料の一時保管場所がほとんどなく、建設作業員でさえ現場から離れた場所に車を停めなければなりません。また周辺の現場や道路が混み合っているため、クレーンの使用時間のスケジュールもタイトになります。この重要な医療施設の建設をうまく進めるためにも、従来とは異なる方法で作業を行う必要がありました」。
「異なる方法で作業する (Working Differently)」ことは、プロジェクト着工の 6 カ月前という早い段階からの、デザイン プロセスへの関与でスタートした。「初期段階から参加することは、常に有益です」と、クリール氏。「産業分野のプロジェクトでは抵抗を受けることもありますが、医療分野ではオーナーがその重要性を理解し、早い段階での参加を支援してくれているように思えます。彼らも、そこに価値を見出しているのです」。
早い段階といっても、早過ぎてはいけない。「私たちにとって最も有用なのは、図面が完成したら、すぐにモデリングを開始できる点です。これはプレファブリケーション方式が望まれる大型モジュールに、非常に役立ちます」と、クリール氏。「これより前の段階では、デザインが変更される可能性も高いため、関与することで、逆にデザインのやり直しに時間を取られることになります。ここが私たちにとって、参入の最適なタイミングということです」。
動詞としての「BIM」
「私の息子ですらレゴの複雑な説明書を参考に 3,000 ピースの軍艦を作れるのに、腕の立つ大人である私たちが BIM を使ってプロジェクトで同じことをできないはずはない、とチームに話しました」と、クリール氏は述べる。「3D のビジュアライゼーションは細部に渡っており、取付のタスクも明確です。だから、皆が躍起になって言うほど難しいものではないのです」。
このプロジェクトでは、構造モデルと建築モデルが電気設計の基礎を提供し、大型モジュール部品のデザインには Autodesk Revitと Schneider Electric の LayoutFAST Revit プラグインが使用された。これには Baptist MD Anderson Cancer Center で達成された、より安全かつ効果的なワークフローのための、極めて重要な埋設管部品が含まれている。
「必要なビルディング インフォメーション モデルの作成を可能にする Revit 無しには、実現は不可能でした」と、クリール氏。「プレファブリケーションを使用しないものに BIM を使うことはないし、BIM を使用しない部品をプレファブリケーションで製造することもありません。これによって一帯を完全にモデリングし、私たちの予測に関して、ビジュアルを用いて意思疎通を行えます。ビルディング インフォメーション モデルがあれば、今やプレファブリケーションの成功率はほぼ 100 % です。 BIM の情報の質は、それほど高いものになっています」。この段階で、Miller Electric はゼネコンやその他分野の担当業者と毎週ミーティングを行い、モデルと BIM 360 Glue を使用して干渉を解決し、そのほぼすべてを取り除くことができた。
モジュール部品は、がんセンターのプロジェクト現場からわずか 20 分という理想的な条件の下にある、Miller Electric の施設で、オフサイトでプレファブリケーションされる。「事実上、さまざまな時間帯にさまざまな場所で、建設を同時進行で行うようなもので、そこから建設現場作業やワーク パッケージを構築していきます」と、クリール氏。「その後、大型部品の形で材料を搬入し、息子のレゴ ブロックのようにつなぎ合わせていくのです」。
BIM を用いた作業は、現場作業をスピードアップさせる。デザイナーは、取付時に接続点の配置とマーキングにトータルステーション ロボットを使用する現場作業員に必要な、正確な接続点を設定する。大型のモジュールであっても、通常はクレーンを使用して、短い時間枠内で架設、取付を行うことができる。
Miller Electric はまた、提供されたモデルを検証する、プロジェクト途中での工事測量に、レーザー スキャナーも使用している。「配置点とトータル ステーションを使用することで、モデルから直接作業でき、巻き尺を使う必要がありません。はしごに登ることも減るので、安全性も高まります」と、クリール氏。「さらに、正確な工事測量を行うことで、時間に余裕のあるうちに基礎の配置ミスなど建設のミスを特定し、他の業者が現場入りする前に修正することができます。リアルタイムでミスを修正できれば、建設に関わる全員にとって有益です」。
大型モジュールの早い段階でのプレファブリケーションを可能にする、この BIM 対応のワークフローは、Miller Electric に大きな効果をもたらしている。クリール氏は、その広範な使用を妨げる障害をひとつだけ挙げられると話す。「最大の困難、それはオーナーや関係各社のコミットメントの欠如です」と、クリール氏。「私たちは建設シーケンスを、自分たちを含めた全員の便益のために変えようとしていますが、皆が同じように考えているわけではありません。私たちは今後もこのメッセージを洗練したものにして、そこに見出している価値を公表し続けます。これは間違いなく、より一層広く導入されるべき変化なのです」。