新産業革命: 製造業が「農場から食卓まで」から学べることは?
製造業の「新産業革命」に関する議論が盛んだ。
しかし「産業」の解釈と、その今後の定義は劇的に変化しつつある。重工業の存在感は薄くなり、3Dプリンターの使用が増えて、選択肢は広がっていく。
第一次産業革命で機械化が進み、職人の熟練へ背を向けたとき、物の製造は「質と心遣い」から「量とスピード」へと変化した。製品からパーソナライズの可能性が失われて、画一的なアプローチがそれに取って代わった。
前世紀の企業理念は「人件費と材料費を下げて利益を上げ、消費を後押しして環境は無視しろ」というようなものだった。顧客は常に「新しくて機能が向上した」バージョンを手にするため使い捨てを求めたが、大抵それは単に流行に遅れまいとするためだけのものだった。
だが世界は変わりつつあり、文化的なシフトも生まれている。顧客は、より優れた品質、長持ちする製品に、より多くを支払うようになる。一定のカスタマイズを求めるようにもなるだろう。皆と同じものではなく、独自の改良が加えられ、パーソナライズされたバージョンを欲するのだ。また素材の浪費や製造ラインで働く低賃金労働者について知ることで、ますます後ろめたさを感じるようになる。
人々はコミュニティ志向を強めており、再び「地産地消」の実践者となりつつある。
このシナリオは、地元で採れた食材を購入して支援する消費者トレンドにおいては完璧に実行されてきた。では「農場から食卓まで」の精神は製造業にも通用して、かつ自動化による効率を維持できるだろうか? それが新たに定義されたローカルで、かつグローバルなものであるとしても、「生産者の顔が見える商品」は「製造メーカーの顔が見える製品」へと推移しつつあるのだろうか?
こうした問い全てに対する回答は、「まさにその通り」。
「全てはまさに自分のために」
大量生産が完全に消え去ることはない。だがカスタマイゼーションとパーソナライゼーションが、消費者の新たな教義となるだろう。
Normalは、3Dプリントによるオーダーメイドのカナル式イヤホンを製造している。それは全て、このメーカーの「工場」である、マンハッタンのオフィスにある3Dプリンターで製造されたものだ。またスタートアップ企業のFeetzは、シンデレラの靴よろしく、ユーザーの足のサイズにぴったりフィットする靴の3Dプリント製造を間も無く開始する予定だ。事実、Feetzはその事業を“地域雇用創出をもたらす「農場から食卓まで」スタイルのマイクロ製造業”と称している。
この種の新製品を作成するためのソフトウェアは、製品デザイナーや製造業者にとって、才能と製造、流通の手段へのアクセスへ本質的に結び付いている。NormalやFeetzのようなシナリオの企画と実行には、かつては巨大な企業へ膨大なコストが要求されていた。それが今、再びローカルへ戻ってきた。ソフトウェアとその意義は、このエコシステムの活用に役立つためのものだ。
この製品はどこから?
顧客は「責任ある製造」を望むようにもなっている。こうした感情を持てるのは、現時点では一部の富裕層に限られているが、願望が生まれ始めていることは確かだ。
例えばフォックスコンは強制労働と同義になり、他の企業は同様の状況を厳重に警戒している。Appleはサプライヤー行動規範と説明責任を、Webサイトや年次報告書で極めて透明に公開している。
低コストを狙ったソリューションとしての海外生産は、その魅力を失いつつある。消費者は使用される材料や供給源、製品輸送コスト、環境への影響に関心を持っている。実のところ、製造業者も海外生産について同様の関心を持っており、その他の実質的収支の理由から現地生産にシフトしつつある。船便で数カ月かかる工場よりも、数日で処理を完了できる工場で消費者の新たなカスタマイゼーションへの要望に応える方が、経済的にもより理にかなっている。
別の要素として、世界がますます小さくなっていることが挙げられる。Apple製品には「Designed by Apple in California」と誇らしげに刻まれているが、同時に「Assembled in China」(中国で組み立て) とも表記されている。この状況が、変わろうとしている。「Designed in Thailand (あるいは England や Brazil). Made in USA.」もあり得るのだ。
こういった未来のシナリオは、どちらも等しく起こり得る。ある場所でデザインされたものが、別の場所で生産される。生産や製造を遠く離れた海外で行うという前提が逆転しつつあるのだ。全てが回帰しており、今後のソフトウェアは、こうした転換に適応できるものでなければならない。
収益はどこに?
製造業者が新しい競合他社よりも優位に立つには、社会や環境への責任において、また突き詰めればビジネス生存という意味でも、いかにカスタマイゼーションと付加サービスで突出するかにかかっている。
世界は「内包された陳腐化」から距離を置きつつある。消費者の購入志向が「自分にとっても、世界にとってもこの方がよいだろう」と考え、長持ちする製品へより高い金額を支払う文化へと回帰しつつあるのだ。
製造業メーカーは物の見方を変える時期に来ており、そうせざるを得ない。「対象となる個人に対して、この製品をどうカスタマイズすればいいだろう?」と考える必要がある。長持ちさせるにはどう製造するべきか? そして製品が2年ではなく20年持つようになるなら、それをどう収益に反映させるべきだろう? より良い製品に改良することで収益を上げるしかない。とにかく、より良いモノを作るしかないのだ」。
「より良い」の定義に当てはまるものには、品質に優れた材料や、インターネットにコネクトされた食洗機や自動車などへ、ソフトウェア・ダウンロードにより新機能を提供することによる製品の機能向上などがある。最新のアップグレードを手にするため新モデルに買い替える、という時代は終わるだろう。
こうした消費者を気難しいと感じるかもしれないが、この新産業革命は、突き詰めれば我々の文化全体にとってプラスの変化となる。地産地消運動にヒントを得ることで製造業メーカーも、新しいコンシューマ需要と今後の「産業」の定義の両方に対する「農場から食卓へ」のアプローチを生み出せるのだ。