建設業界のレガシー カンパニーはモジュール建築の競争をリードするか?
モジュール建築の世界で、技術志向のスタートアップ企業が注目を集めている。だが、そうした企業は“強力な誘因力”を持つにもかかわらず、いまだにスタートアップという存在に留まっているのも事実だ。この業界の市場シェアは、実績にもとづくアプローチとノウハウを持った、いわゆる“レガシー カンパニー”次第なのだろうか?
シカゴを拠点とするレガシーな建設会社、Skender は、長年に渡ってモジュール建築の研究を続け、その市場へまさに参入しようとしている。同社は 2018 年 11 月下旬、レポーターや業界を代表する人々をシカゴ南西部にある、モジュラー型集合住宅の検討を行うための 1 万平米近いプロトタイプ建設用地へと招待した。Skender は、この新たな事業を稼働させ、年間 2,500 モジュールの生産を行うために 100 名の新規雇用を行うと公約。施工期間は在来工法に比べて 30 – 40% ほど短くなり、10 – 20% のコスト削減ができるという。
この集合住宅のプロトタイプは協力会社が在来工法で建設したが、マーク・スケンダー CEO によると、Skender の製造ラインは根本的に異なる仕組みになるという。「すべてを Skender の社内で行い、直接サプライチェーンから購買を行います」と、スケンダー氏。協力会社は使わず、部品やコンポーネントは建設現場へと搬入するか、現場で製造、加工することになる。
Skender でチーフ デザイン オフィサーを務めるティム・スワンソン氏は、Skender がモジュール建築へ確実に移行 (英文情報) しているかを判断する、シンプルな指標を持っている。「工場で巻き尺やのこぎりを目にしたら、それは我々が間違いを犯したことを意味しています」と、スワンソン氏。「ここは、屋内の建設現場ではありません」。工場はユニット モジュールの製造と取り付け、現場への搬送を行う組立ラインとなり、各モジュールは現場でビルになるよう積み上げられて、入居に向けた仕上げが行われる。
Skender は、MEP システムやファサード、内装の仕上げなどの自由度の変更とマス カスタマイゼーションを可能にする、一元管理されたプロセスを提案している。ベースとなる鉄骨シャーシは同一で、各建設現場へ床や塗装、作り付けの備品が取り付けられた状態で搬入される。
この Skender のモジュールは、ほぼ完成した状態でトラック輸送できるよう設計されている。ストレスや亀裂などに対しては、ある程度の補修が必要になると見込まれているが、スワンソン氏は「それは材料科学上の課題です」と話す。
スワンソン氏は、自身の取り組みへリスクと実験を取り入れている、珍しいデザイナーだ。Skender は、彼を CannonDesign から迎え入れた。氏は、そこでは 100 年にわたる同社の歴史上、最も若いリーダーであり、自身のチームとなる小規模な建築事務所を買収している。Skender では、製造部門のチーフで、製造業でのキャリアを持つピーター・マリー氏のチームに加わっている。
Skender のモジュール建築分野への進出で鍵を握るのが、設計と建設、製造をひとつ屋根の下にまとめる垂直統合だ。そして、これこそが地位を確立したレガシー ゼネコン企業ならではの重要な強みとなる。その能力を最初の製品から拡張、発展させていくのでなく、資産を一気に獲得、開発することでその分野を垂直統合する、ゼネコンならではのスケールと幅広さで参入できるからだ。
マーク・スケンダー氏は、何十年もの経験から、工場で生産できるもの、現場で建設すべきものが示されたのだと話す。Skender のような大企業は、設計と施工のプロセス全般のリスクを想定し、リスク回避で生じるサイロ化を回避できる。重複する要素を持った複数の協力会社による緩やかなネットワークの場合は、実験に付随するリスクを他の関係者へと押しやりがちだ。しかし Skender 社内の統合チームであれば、身構えたり強迫観念を持ったりすることなく協力し合い、プロジェクトに取り組める、とスワンソン氏は話す。
このプロセスの副産物として得られるのは、製品の継続的な改良だろう。そうした利点は、無駄が多く非効率的な建設業界では欠如しているが、他の製造セクターでは偏在するものだ。「どの自動車メーカーもやっていることですが、次世代の製品は、現行の最新モデルより優れたものになります」と、スケンダー氏。「それこそが、私たちが垂直統合で実現したいと願っているビジョンです。この業界に欠如しているのは、まさにそれなのです。設計と生産のシステムを学習し、向上させていく能力です」。
Skender は、こうした規模と反復の効率性により、低所得者層向け住宅の慢性的な不足に影響を与えたいと考えている。米国の最貧層を対象とする住宅供給には、近い将来大規模な経済援助が必要になるだろう。だが新築住宅を適切な低価格で製造する (結果として家賃も比較的低くなる) ことで、Skender のモデルは平均所得をわずかに下回る人々のニーズに応え、住宅取得能力の格差拡大を抑制できるかもしれない。目標は「自然発生的なアフォーダブル住宅」だとスワンソン氏は話す。
Skender 初のモジュラー プロジェクトは、シカゴの集合住宅になる。うちひとつはウェスト・ループ地区に建設され、全 122 戸の 6 階または 7 階建てビルとなる予定だ。このモジュラー ユニットは上部構造を追加する必要がなく、12 階の高さまで積み上げることが可能だとされている。各ユニットには相互をボルト固定できる耐荷重性の鉄骨フレームが使われており、頑丈な交差ブレースを備えている。Skender は現在、鉄骨シャーシの製造を増加させるため、オートデスクと連携して自動溶接機の開発に取り組んでいる。
Skender は概念実証として、このプロトタイプに豪華な仕上げを行うことを選択した。とえば、バスルームでは磁器タイル、ペールウッドの木製キャビネット、石英製カウンタートップが使用されている (スワンソン氏の見積もりによると、Skender モジュラー ユニットの販売価格は 1 平方フィートあたり 250 ドル。すべて組合労働者による作業)。ダークグレイのレンガ パネルはクリップで鉄骨フレームに留められ、鉄骨の支柱を使うことでビジターは床下を眺められる。シカゴを象徴する高架鉄道の鉄脚を撮影した写真のウオール アートは、このプロジェクトの鉄骨への憧れに賛同する証となっている。
さらに Skender は、シカゴ特有の住宅スタイルであるスリーフラット (戸建て 1 軒分のスペースに建てられた 3 階建てアパート) も製造予定だ。6 種類から 12 種類の外観オプションを提供する予定で、そうした住宅を、わずか 2 カ月で建設可能だという。また自社のモジュラー アプローチに適したオフィスや病室など、商業施設やヘルスケア施設の建設も目指している。ヘルスケア分野のクライアントが既に 1 社決まっており、「病院が設備供給者となり、ボルトで固定する各ユニットを提供する、という未来を私たちは予想し始めています」と、スワンソン氏は述べる。
Skender のプロトタイプは Autodesk Revit を使用してデザインされたもので、スワンソン氏は、このデジタル モデルが設計、施工、配備の指針を提供する「信頼できる唯一の情報源」になるだろうと話している。また、これと全く同じモデルが AR モデルを動作させるようにもなる。潜在顧客と業界のパートナーは工場の VR スタジオで、このモデル内部を歩き回れるようになるのだ。また各シャーシの製造のため、自動溶接機も同じモデルを読み込むことになる。「ライン全体の調整に使用されるようになります」と、スワンソン氏。継続的かつ反復的な向上を願う Skender の目標を考慮すると、こうしたデジタルによる再調整の波が、同社のモジュラー ビルディングが積み重ねられ固定されるのに従って、現実世界にも波及することになるかもしれない。