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スカイラー・ティビッツ氏のMIT自己構築ラボが建築材料を動き出すようプログラム

レンガとモルタルで出来た建物を純粋なデータへ変換するのは難しいことではない。今日のモニタリング ツールやソフトウェアは、エネルギーの消費や効率を電子レベルで計測し、循環パターンを追跡することで、気候変化が室内温度に与える影響を予測できる。

ハードウェア革命のきっかけを作っているのはソフトウェア革命であり、大量のデータに反応できるダイナミックなビルディング システムだ。だが MIT の自己構築 (セルフアッセンブリー) ラボの研究員であるスカイラー・ティビッツ氏は、それでは十分ではないと考えている。「私たちはソフトウェアとハードウェアの革命を超えて、材料の革命へと進もうとしています」。

ティビッツ氏は建築材料の多用途性と強度を最大限に引き出す、これまでに見たこともないような手法で新材料や再利用材料を活用する方法を自己構築ラボで研究している。また彼は、自力で曲がるジョイント、ひとりでに組み立てられる家具、新たな形状に変化する布地など、それぞれの形状内に反応性と力学的特性を組み込む材料の開発も行っている。太陽が雲に隠れるたびにカーテンが開くようにするには、システム構成要素として光センサー、決定を行うコンピューター ソフトウェア、スクリーンを動かす機械的アクチュエータなどが必要だ。

mit self-assembly lab
スカイラー・ティビッツ氏

ティビッツ氏による原材料の創意工夫は、1 月に幕を閉じたシカゴ建築ビエンナーレに展示された。Gramazio Kohler Research (GKR) とのコラボレーション作品である Rock Print は高さ約 4 mで3脚の石柱彫刻で、軽石のような灰色の石粒が驚くことに糸で 1 つにまとめられている。これは新材料の応用と構造成形にフォーカスした、数少ない展示物の 1 つとして注目を浴びた。

この彫刻はガラス製造の副産物である Misapor という発泡石を材料として作られており、その溶岩のような粗い質感と軽量さが豊かで触知的な体験を生み出す。

ビエンナーレでは、Rock Print 製作工程を記録したビデオが公開されたが、それでも謎の払拭には至らなかった。羽根のように軽い石と細い糸の束で、この巨大な彫刻をどうやって安定させているのだろうか?

コンピューターのアルゴリズムに従って動くロボットアームが糸を輪状にレイアウトし、その上から Misapor が放出される。糸と Misapor を積み重ねていく間、仮の囲いで石が囲われる。最後にこの囲いが取り除かれ、彫刻が外側から突つかれて、糸による骨組みの中に全ての石が押し込まれた状態になる。この作品は、私たちの物理学に対する最も基本的な認識を欺いてくれる。

ティビッツ氏の説明によると、Rock Point がこの形で安定するのは、物理の 2 原理が働いているからだ。ひとつは全ての建築の基本となる要素であり、もうひとつはあまり理解されていない要素だ。「ジャミング転移 (PDF)」は、液体 (あるいは石などの比較的小さな粒状固体) が容器に高密度で詰め込まれ、より大きな固体のように機能し始めると生じる。「これは、食料品店に並ぶ真空パックのコーヒーと同じ原理です」と、ティビッツ氏。「まるでレンガのように硬い」。だがジャミング転移だけでは、液体を固体に変えるのに膜と真空状態が必要となるが、氏はそれを使いたくなかった。

MIT self-assembly lab
Rock Print のクローズアップ [提供: Gramazio Kohler Research, ETH Zurich + Self-Assembly Lab, MIT]

そこで彼と GKR チームは、建築史上でも最古の物理学的な謎の 1 つに目を向けた。圧縮力と引張力のバランスだ。圧縮力のかかった石は、ざらついた表面同士が摩擦を起こすにつれて堅く固定される。そこに上からの重みが加わることでモノリスは成長する。糸は柱の外縁を規定し、圧縮力と重みが加わるにつれて外向きに膨らもうとする石の性質を抑制する役割を果たす。

この組み合わせはかなり頑丈だ。ティビッツ氏はさらに、これらの材料を カンチレバー (片持ち梁) にする方法も見出したと言い、GKR のジャン・ウィルマンによれば、半分のサイズの試験用プロトタイプは 1.5 t の重みにも耐えた。

石と糸を使用したこのシステムは、建築においてもさまざまな実用的用途が存在する。ティビッツ氏はこれを「修正可能なコンクリート」と考えている。即座に「修復」でき、型枠や成形を必要とせず、完全に再生利用できる強固な建材だ。また従来のコンクリートに比べてずっと環境に優しいと確信できる理由もある。
たとえば、この石と糸の生産に必要なエネルギーは、超高圧水ジェットを使用してコンクリートを切断し吸い込むロボットの駆動に必要なエネルギーよりもずっと少ない。

Rock Print に見られる材料特性のバランスは見事だが、実は自己構築ラボの「4D プリント構想に比べれば、それほど複雑でもない。アイゼンシュタイン、そしてティビッツ氏にとって、今や時代は 4 次元であり、自己構築ラボの研究の多くも外部刺激に反応して時間と共に動き変化する材料のプリントに重点が置かれている。外部刺激としては熱や湿度、音、さらにランダムな運動エネルギーなどが考えられる。

環境刺激はその後、各物体がプログラムされた形状を通じて伝達され、それにより動きや反応が決まる。「点字のようなものだと考えています」と、ティビッツ氏。「点字は、情報を幾何学に変換させたものです。私たちが興味を持っているのは、計算能力や電気機械ロボットの感知や作動、論理といった能力を、材料自体に埋め込むことです」。

例として、大きな卵形の空間内で回転するうちに磁石ファスナーを利用してひとりでに組み立てられる家具や、ジョイントを利用して3D の立方体や 2D の MIT という文字へと拡張したり収縮したりする、プリンター製の紐状の 1 次元物体がある。どの場合も、外部の動力源を持たずにロボットのようなタスクを実行する、力学的で反応性の高いシステムが存在している。

ティビッツ氏はオートデスクと連携し、材料形状の自己構築のプログラミングを支援するソフトウェアを開発中だ。「今後、単にコンピューターやマシンをプログラムするのではなく、材料や物質をプログラムするようになると考えるならば…」と、ティビッツ氏。「デジタルでもフィジカルでも、これまでと全く異なるデザイン ツールを手にすることが要求されるでしょう」。

ティビッツ氏は建築を学び、腰痛の原因ともなる手作業によるインスタレーション設置を経験したのちに自己構築へとたどり着いたタイプだが、彼のラボは極めて学際的だ。彼は身体に合わせて形を変える靴とシャツを研究中だし、冠動脈ステントの自動留置のように、自己構築の医療への応用も考えられなくもない。

この包括的アプローチは、ラボの研究の最も深遠な言外の意味を浮き彫りにする。総てのデザイン領域において、動的反応性や双方向性、動作をあらゆるものに内蔵させることができる、という考えだ。

ティビッツ氏は、建築やデザインにおいて生態系をそのまま模倣するのは好きではないが、本来、ダイナミックな相互作用は基準であり、例外ではないと話す。氏のアイデアが建築に完全に取り入れられれば、セメント ミキサー内を転げ回る大型の棚の部品が、ランダムな運動エネルギーだけを利用して自力で組み立てられるような世界になる、自己構築ライン プロジェクトのスケールアップ版だ。ビルが室内の温度を20度に保つため、太陽の向きに合わせて方向を変えたり、構造要素に水や熱を与えるだけでカスタムメイドのボウストリングトラスとして組み立てられる、そんな世界だ。

「これはある意味で非常にラジカルですが、至極当たり前のことでもあります」と、ティビッツ氏。「私たちを取り囲むもの全て、そして私たち自身も、極めて能動的です。私たちの身体は気温の変化や水分量、日光、活動に対してさまざまな反応をします。寒いときには身体が震えます。人間が作り出したものを除けば、全ては能動的なのです。全てが能動的であってはならない理由はありません」