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構成変更できる未来のマイクロファクトリーをPlethoraが定義

マイクロファクトリー Plethora のニック・ピンクストン CEO
ターゲット層となるスタートアップ企業の多いサンフランシスコへ戦略的に拠点を置くオンデマンドCNC加工会社Plethoraのニック・ピンクストンCEO [提供: Plethora]

ドミノ・ピザを世界最大級のマイクロファクトリー チェーンと呼ぶのは違和感を覚えるかもしれない。だがサンフランシスコのオンデマンドCNC加工会社、Plethoraの共同設立者兼CEO であるニック・ピンクストン氏は、カスタムオーダーのピザと、カスタム加工によるプロトタイプや完成品パーツの間に違いはないと考えている。そして近い将来、ピザのクラストやトッピングを選ぶように、注文や受け取りが簡単かつ迅速に行えるようになる日を待ち望んでいる。

5歳で発明の虜となったピンクストン氏は、やがて製造の本質的な課題へ取り組みむことに興味を抱く。2008年にはコミュニティ ワークショップHackPittsburghをスタートさせ、同じ年にデザイナーやエンジニアとメーカーとを結ぶCloudFabを設立。だが製造の非効率性に不満を感じたピンクストン氏はCloudFabを売却すると、ハードウェアの生産にソフトウェア開発のアジャイル性をもたらすべく、ジェレミー・ハーマン氏とPlethoraを設立した。

マイクロファクトリー QC パーツ
Plethoraはかなりの部分が自動化されたカスタム生産システムによる製品開発プロセスの能率化を目指している [提供: Plethora]

それから6年後の現在、Plethoraはアイデアを持つ世界中の誰もが、必要とするハードウェアを障壁無しに製造できる世界を目指している。この会社は顧客がアップロードした設計図から部品をオンデマンドで製造可能とすることで、製品開発の能率化を支援する。

「エンジニアはプロトタイピングの際、継続的に新たなイテレーションを回します。最初のバージョンを検証して問題のある部分を確認して、再設計により微調整を加えていきます」と、ピンクストン氏。「プロセス全体が、そのままイノベーションのスピードになります。この時間を短縮できれば、より良い製品を生み出し、それをより迅速に市場投入できるのです」。

Plethoraが開発したソフトウェアは、ユーザーの設計ファイルを分析し、即時に価格設定を行って、そのファイルを工場生産用の指示書へ変換する。現時点で提供しているのはCNC旋盤切削加工だが、ピンクストン氏は先進の製造手法を用いることで、それ以上のサービスを提供することを計画。そのためには、必要に応じて拡張、縮小、再構築できるアジャイル性の高い工場設備、つまり構成変更が可能なマイクロファクトリーが必要だ。ピンクストン氏が考える構成を変更可能な未来の展望と、その実現のためPlethoraが講じている手段の概要を紹介しよう。

フレキシブル製造を超えて

Plethoraはこれまでに、製品生産に必要なエンジニアリング工程の一部自動化に成功している。Autodesk Inventorを使って部品の3Dモデルを分析した後、Autodesk HSMWorksを使用して自社マシンをプログラミングし、顧客から注文された部品すべてを生産する社内用部品を作成している。

このプロセスは、典型的なフレキシブル製造 (FMS) と言える。フレキシブル製造は確立された手法であり、製品に加えられる変更へ容易に適応可能だ。この手法を用いて、Plethoraは小さな瓶の蓋から空飛ぶ自動車や飛行機の構成部品を組み立てるマシンまで、さまざまな製品を発明する人々を支援している。

マイクロファクトリー Haas ミル
PlethoraはこのHaasミルなど設備変更の迅速な実行を可能にするハードウェアの購入、設計を行なった [提供: Plethora]

「作っているのは、消費者向けの製品ではありません」と、ピンクストン氏。「ものづくりに使用される製品です。使用する全てのツール、マシンの3次元形状は、厳格にメンテナンスしています。3Dモデル、仕様を全て入手して、コントローラーがどう機能するのかを完全に把握しています。現存するショップの中でも、極めて特殊な存在なのかもしれません。自分たちができることを熟知しています」。

それによりPlethoraは有名メーカーから機密団体までさまざまな企業、組織に向けて、生体材料を用いた3Dプリンターや手術用ロボット、義手や義足などの人工装具、衛星、電気自動車など、業界最先端のマシンを生み出すための支援を行うことができている。そのPlethoraが、さらに一歩先へ進もうとしている。

新製品やバリエーションの製造に必要な新しい部品をフレキシブル製造するには、マシンのプログラムに数日から数カ月が必要となることもある。Plethoraは業務の拡大につれて、迅速な構成を行えるように作られたハードウェアとソフトウェアを使用した、アダプティブ製造を適用。プログラミングを自動的に行い、10分以内に変更することができる。

例えば、ピンクストン氏は地元の展示会に参加中のレーシングカーのオーナーから、破損した部品のPlethoraでの再製造を依頼するメールを受け取った。マイクロファクトリーで設計から製造までを2時間で完了させ、部品は宅配便で展示会へと送られた。

「部品の生産能力では、デザイナーのスピードを凌駕できるようになりました」と、ピンクストン氏。「今やデザイナーは “最弱リンク”(全体の足を引っ張る弱点) となっています。その存在によってデザイン工程に数週間、ときには数カ月もかかるかもしれません。でも我々なら数日で仕上げられます」。

マイクロファクトリーを構成

マイクロファクトリー パーツ
顧客がアップロードしたデザインはシミュレーション システムを経て、機械加工プロセスへと到達する前に実行可能性が確認される [提供: Plethora]

ピンクストン氏はPlethoraのサービスが、さまざまな工房を包含する工場のように、さらにフレキシブルかつ広範なものとなり、デザインを提出すれば誰もが Plethora を通じて、部品だけでなく完全な製品を入手できる未来を思い描いている。そこでは、ありふれたものを作るためにメーカーとの深い結びつきを築いたり、海外に行ったりする必要もなくなるのだ。

Plethoraがそこまでフレキシブルでアダプティブとなるには、構成要素すべてが連動する必要がある。Plethoraがジョブ固有の自社ハードウェアを自社ソフトウェアにコネクトしているのはそのためで、それを必要に応じて変更可能だ。

「マシンの分解と設備変更を極めて迅速に行う必要があります」と、ピンクストン氏。「それを可能にする、独自のハードウェアの購入とデザインを行いました。システムは極めてモジュラー性が高く、全マシンがクローンになっています。マシンが3軸フライス加工機なら、それはどこでも同じ仕様になっており、設備も同じです」。

しかも、まずはすべてがシミュレーション システムを通され、マシンへ到達する前に実行可能かどうかが確認される。シミュレーションをパスしたら、工作機械オペレーターの作業はボタンを押すことだけだ。

Plethoraは工作機械オペレーターが行うような、最高レベルの「判断」が可能な独自のソフトウェアも設計している。これは、社内では「戦略生成」と呼ばれており、例えば各ワークステーションは、「まず、この金属製の角材を選択する。次に、これを適切なサイズに切断する。その後、これを適切な場所に正確に取り付ける」というように、進行を計画するようプログラムされている

「ミスを防ぐよう、これらのプロセスが完了したことを確認するためのチェック事項が、製造過程に多数用意されています」と、ピンクストン氏。「進行が速いとミスを生じやすいからです。またシステムが再構成可能ということは、クラッシュが生じるリスクも非常に高くなります」。

マイクロファクトリー CNC フライス
自動化はセットアップにかなりの労力を要する。また、自動化を向上させ、マシンが終えた仕事を引き継ぐためにはPlethoraの社員数を増大させる必要がある [提供: Plethora]

自動化に欠かせない人の手

自動化は製造業に従事する人々を脅かすものに思えるが、ピンクストン氏は、Plethoraのソフトウェアに対するフルスタックなアプローチは、逐次学習で構成されているそのソフトウェアに因るものだと考えている。逐次学習は、人間の力に大きく左右される。

各マシンに装備されているiPadが全てのエラーを記録し、それがPlethoraの生産技術者やソフトウェア エンジニアへと返されて、マシンに変更が行われる。

「私たちは計算手のような、ハイブリッドなアプローチを採ってます」と、ピンクストン氏。「自動化は優れた技術ですが、脆弱でもあります。ジョブの99%を自動化でカバーできても、最後の 1%、ときにはそれ以上、人間の手が必要となる場合があります。私はテスラに強い連帯感を感じていますが、彼らも自動化の導入には長い時間をかけています。非常に高度な自動化の実装に加えて、手作業のワークフローを向上させつつ、手動 [プロセス] の教訓を学ぶ必要があります。これらの過程すべてを経なければなりません。飛び越すことはできないのです」。

著者プロフィール

ローザ・チュウは在住するサンフランシスコで、より多くの情報へアクセス可能となるよう取り組んでいるテクニカル ライター/ジャーナリスト。

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