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デザインと製造を変革する医療機器業界の3つのトレンド

Micke Tong

幅広い業界に渡って、大きな変革が進行中だ。自動車、コンシュマー向け電子機器から建築、ファッションまで、その範囲は多岐にわたる。

こうした業界が受ける影響は、ロボット工学や材料科学、3Dプリント、迅速なプロトタイプ製作、ソフトウェア/ハードウェアのコンバージェンス (融合)、ソフトウェアの民主化、ビッグデータ、クラウドコンピューティングの新たな進歩によって、さらに大きなものとなっている。

しかしマッキンゼーの運営実践および医薬品のエキスパートであるケイティ・ジョージ氏は、変化しつつあるもうひとつの重要な業界として医療機器を挙げている。

pacemaker_medical_device医療機器は、もともと侵襲的なものだ。人体の内外を精査し、様子をうかがい、病巣を切除し、損傷部分を治療する。人工股関節やステント、心臓弁、ペースメーカーなど、体内に留まるものもある。

こうした重要な医療機器に要求される最高水準のデザインと性能の特性に、医療自体の極めて複雑なビジネスモデル、厳しい規制上の要件が組み合わさることで、医療機器はあらゆる工業製品の中でも最も複雑かつ要求の厳しいものとなっている。

こうした複雑性から、医療機器業界は他の業界とは異なる方法でビジネスモデル全体を検討し、変化を受け入れざるを得ない状況にある、とジョージ氏は考えている。とはいえ、こうした教訓は突き詰めれば、全ての業界にメリットをもたらすと彼女は話す。

次に挙げる医療機器業界の3つのトレンドが、デザインと製造の両方の領域で起こっているダイナミックな変化の一因となっていると彼女は考えている。

1. デザイン、製造、セールスの各部門は価値の追求により融合

ジョージ氏は、デザインと製造能力の加速は医療機器業界に根付く課題を糧として、ビジネスモデルを生産的に崩壊させていると話す。

プラズマの回転する医療機器 医療機器業界 トレンド「業界は、私たちが「価値のためのデザイン」と呼ぶ志向へと方向転換しつつあり、マーケティングや業務部門の枠を超えた統合が進んでいます」と、ジョージ氏。エンジニアが研究所の中だけで考え出したものをマーケティング部門に回して商品化するというこれまでの枠組みは「180度逆転する必要があります」と彼女は言う。

「コスト削減だけの問題ではありません」とジョージ氏。「重要なのは、プロダクトデザインを正しい方法で継続的に進化させていくことです。この業界ではそれが他の業界に比べて非常に困難なのですが、それには幾つかの理由があります。そのひとつは、デザインが対処とするカスタマーの種類が多様だということで、患者、医師、病院の資材調達担当者、非保険者、規制機関とさまざまです。ヘアドライヤーの消費者を対象とする市場調査研究などとは大きく異なるのです」。

医療機器業界は既にデザインや製造、マーケティングのより統合されたアプローチへの移行段階にあるが、デザインとビジネスを統合するという現在のトレンドが、製品の正確な使用状況と患者、医師のニーズを理解し、価値のある製品で応えることをより簡単にしているとジョージ氏は考えている。言い換えれば、価値あるイノベーションをデザインしているというわけだ。

2. 3Dプリントが秘めた、既存の価値基準を打ち砕く可能性

ジョージ氏は、3Dプリントの可能性に心を躍らせている。「期待は高まるばかりですが、まだ現実のものとはなっていません。取り組みは部分的なものに留まっています。しかし歯科インプラント、義肢のような非侵襲性器具など、ある種の医療器具分野においてはかなり主要なものとなりつつあります」。

大変革へと飛び立つ滑走路が整備されつつあり、イノベーションに価値を追加する3Dプリント技術の到来が予測されるとジョージ氏は話す。ますます洗練された、アクセス性の高いデザインツールを使用することで、このような民主化された積層造形技術により、外科医と患者の両方の希望とサイズに合わせて新しい製品を適合させることができる。またサプライチェーンを短縮し、より迅速な対応と低コストを実現することで、病院のビジネス需要にも訴求する。「3Dプリントは、そうした分野に大変革をもたらす可能性を秘めています」と彼女は話す。

医療機器業界 トレンド 3Dプリント整形外科用インプラントについて考えてみよう。「たとえば膝関節です。現在のところ、メーカーは幅広いサイズでパーツを製造しています。ありとあらゆるツールとサイズを含むキットを病院へ届け、病院はそこから手術で使用するツールとサイズを選んで、その後キットを返送します。メーカーはキットを再補充して消毒します。その間、その他多数のキット、非常に高価な在庫は、サプライチェーンのどこかで使用されないままとなっています。3Dプリントの膝関節なら、提供先となる患者のサイズに完全に合わせることができ、現地のラボでプリントして迅速に手術室に届けることさえ可能です。つまり、よりよい結果、より優れた製品が得られ、全く新たなサプライチェーンが生まれます。また流通業者、病院に対するメーカーそれぞれの役割において、従来とは異なるビジネスモデルが生まれることになるでしょう」。

医療機器業界のトレンドと3Dプリントに関するジョージ氏の見解は、既に現実のものとなりつつある。2011年、米国食品医薬品局 (FDA) は3Dプリントによる膝関節を初めて認可した。2014年12月、ワシントン・ポスト紙は、完全カスタマイズによる初の移植組織を使用した外科医に関する記事を掲載している。従来の置換手術と変わらないとの議論もあるが、医療機器業界がこの可能性を受容し、その方向へと進んでいることは明らかだ。

3. 医療サプライチェーンにおける無駄の排除

ジョージ氏は、サプライチェーンを大幅に短縮して無駄を削減する優れたデザインと、先進的な製造開発のパートナーシップで多大な機会が提供されると考えている。

この可能性は、医療機器のようにコスト減のプレッシャーが高い業界や、医療を必要としているが何ひとつ無駄にする余裕のない新興市場にとって重要な意味を持つ。

デザインと製造の連携の高まりは、全体としての医療制度の検討、これまで不可能だった方法での医療制度への配慮を可能にするとジョージ氏は考えている。またこの連携は、市場(患者、被保険者、医師)に「適切な用途のための適切なデバイスデザインが提供され、製品が適切な方法で使用されることにより無駄な機能を省きつつ有効性と最大限の効力および絶対的な安全と品質が提供」されるようになるための可能性を秘めている。

ジョージ氏は病院や流通センター、メーカー在庫などサプライチェーンのさまざまな段階で、使用されないままになっている高額な在庫が存在している点を強調する。また、サプライチェーンの無駄の排除に関する現在進行中のイノベーションに加えて、実際の機器に使用されるイノベーションの向上を予測している。

彼女は、サプライチェーンの無駄をなくすという取り組みは、ロボット工学や材料科学での取り組みに比べて「あまりセクシーではない」と認めてる。しかし資源に乏しい環境やコスト減のプレッシャーが強い状況では、これは大きなチャンスだ。

著者プロフィール

シンディ・グラスは自身の製品デザイン会社を共同設立することで魂を浄化し 、起業化精神がどれほど厳しく、かつ価値のあるものかを自らに教えています。

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