マス ティンバー建築: 施工者が歓迎する新たなウェーブ
建設業界の新たなフロンティア、それが“マス ティンバー”だ。世界有数の建築設計事務所、Perkins+Will で施工テクノロジー ラボのディレクターを務めるアンドリュー・ツェイ・ジェイコブス氏は、「今後数年以内には、最も商業的なプロジェクトにおいても、“これはマス ティンバー プロジェクトにすべきだろうか?”と問いかけが起こるようになるでしょう」と述べている。
マス ティンバーとは、複数の木材を組み合わせた、コンクリートや鉄骨などの構造物に匹敵するような強度を持つ集成材だ。木材から作られ、炭素隔離した、再生可能な資源でもある。その優れた建築性能とサステナブル性によりヨーロッパで高い人気を得ており、ブリティッシュ・コロンビア大学やミシガンの T3 など、北米で注目を集めるプロジェクトへの採用も着実に増えてきている。
新たな基準による、新たな機会: 施工者側の準備は?
国際基準評議会 (ICC) が 2018 年末に承認した新たなガイドライン (英文) では、2021 年に変更が批准されれば、施工者はマス ティンバーによる 18 階建ての建築物を作れるようになる。ツェイ・ジェイコブス氏は、建築基準が「この 100 年に無かった方法」で変革していると述べる。「恐らくは我々の生涯でも最大にして、最もインパクトのある基準変更となるでしょう」。
リスクを嫌う施工者にとって、マス ティンバーの採用は大きな変化を容認することになる。関連コストの見積もりツールなどのリソースを持たない会社は、そのイノベーションの余地を前にして制約を感じることになるだろう。また、プリファブリケーションの協力会社との作業は法務上、契約上の負担を増し、建設会社の労働力を弱める可能性もある。だがツェイ・ジェイコブス氏は、「大抵の場合、建築業者は、一度マス ティンバーを経験すると絶賛します」と述べる。「プランニングしたプロジェクトの容易な建設性がゼネコンに、またその建設スピードがデベロッパーへ、それぞれ大きなメリットを提供します」。
Perkins+Will はボストンにあるオートデスクのテクノロジーセンターで、こうした設計と製造における新たなアプローチの調整方法を探求している。マス ティンバーの工業化、自動化が、どう業界を変革するかをリサーチ。自動化したロボットアームで NLT (小さな木材を釘のみで相互接合した材料) から木造の仮設建築物を作る実験も行われた。Perkins+Will は、設計/製造/施工のプロセスを統合し、それを可能な限りパラメトリックかつシームレスなものとするマス ティンバー ソリューションを、デベロッパーや建築会社と協力して開発することを目指している。
施工者は、マス ティンバーが広く行き渡った世界への進化を、責任を持って行う必要がある。「この基準変更が自社ビジネスに与える影響に対処しなければ、それをデベロッパーや建設業者、製造会社が行い、マス ティンバーに関する疑問に応えるようになります」と、ツェイ・ジェイコブス氏。「鉄骨やコンクリートに対してマス ティンバーが実現する機会を彼らが獲得するのを、ただ指をくわえて見ていることになるのです」。
プロセスをプランニングのフェーズにシフト
マス ティンバーによる施工では、モジュラー工法、プレファブ工法を採用し、労働力を現場から工場のフロア、プレコンストラクションとプランニングのフェーズにシフトすることが要求される。「クリーンな現場です」と、ツェイ・ジェイコブス氏は言う。「レゴのようになります。各ピースがフィットし、正しくプランニングされている必要があります」。マス ティンバーによる建築物は、通常より 10-30% も短い時間で施工でき、それほど熟練労働者を必要としないため、施工者は人員数に関する新たな自由を手にできる。
例えば施工会社、デベロッパーである LendLease は、ミリタリーホテルを退役軍人で建設。LendLease のマス ティンバー エキスパート、リサ・ポデスト氏は「現場は予想通りに分かりやすいものでした」と述べる。「落とし穴があるに違いないと考える人も多かったですね。施工は簡単で、とても短時間に行えました。落とし穴といえば、現場の前の段階で、多くのコラボレーション作業が必要なことでしょう」。
マス ティンバーは、まだ北米に出現してから日が浅いため、施工をうまく進めるには最初の段階での研究やコミュニケーション、時間の投資が必要になる。「従来の設計/入札/施工というプロセスは、マス ティンバーではうまく機能しません」と、ツェイ・ジェイコブス氏は。「設計者と施工者の間で、まだ基準が確立していない材料を使った包括的なプランニングができないからです」。
マス ティンバー集成材は、単に構造材として機能するだけでなく、耐火や美観、音響、建築物の境界面などにも貢献することが多い。こうした要素はプリファブリケーションされるため、設計時にも考慮して、高い精度を保つ必要がある。
マス ティンバー プロジェクトは、設計が製造業者やパートナーと分離した状態で行われると、寸法の矛盾や資材調達の問題に陥る可能性が高い。プロジェクトの開始段階から設計者が建設業者と密接に作業を行う、デザインビルド方式に、より適合していると言えるだろう。「マス ティンバーは、皆が早い段階でテーブルにつき、シームレスな設計・施工ワークフローを作る機会を提供します」と、ツェイ・ジェイコブス氏。
現在、マス ティンバーによる高層建築が注目されているが、この材料は大抵の場所とプロジェクトのタイプに適合できる。施工者にとってマス ティンバーの入門編となるのは、ルーフデッキへの活用だ (Perkins+Will はバンクーバーとモントリールの鉄道駅プロジェクトでマス ティンバー製の屋根を使った)。
大規模な建物には CLT パネルが適しており、木製の垂直なセグメントを接着して強度を上げることができる。このパネルは「5–20 分程度でインストールして 20 平米の床や屋根を素早く作れます」と、ツェイ・ジェイコブス氏。
ポデスト氏によると、コスト面で最も実用的なマスティンバー建築は商業オフィス空間だ。「デベロッパーや設計チームが、マス ティンバーによるコスト面でのメリットを出しやすいのです。大抵の商業オフィス空間は、極めて一般的な鉄鋼軸組構造になっており、そのシンプルな反復構造は、同程度以下の価格でマス ティンバーへシフトできます」。
施工すれば、やってくる
この新しいシステムを最も効果的に使おうとする設計チーム同様、米国のサプライチェーンも効率を洗練させて新たなプロセス業界を作り出し、社内でプラントやプロセスの効率の作業も行える、モデリングやファブリケーションの専門知識を社内に蓄積しようとしている。
マス ティンバーの製造業者が増え、製造業者がプロセスやサービス、提供する材料を洗練させれば (アラバマ州のロッキー山脈東側に最初のプラントがオープンしたところだ)、価格は下がり製品の多様性も上がるだろう。ツェイ・ジェイコブス氏は、基準変更から 5 年以内に、中規模のマス ティンバー建築が爆発的に増えると予想している。「それが起きることは、もはや確実です。問題はいつ起きるのか、ということです」。