MASS Designが建築物でルワンダや他の地域に美と尊厳、希望を
MASS Design Groupは、ビジネスであり、モデルであり、ムーブメントでもある。ハーバード大学デザイン大学院学生時代に出会ったマイケル・マーフィー、アラン・リックス両氏が設立したMASS(Model of Architecture Serving Society、社会奉仕建築モデル)は、二人が初めて共同で手がけた大型プロジェクトから生まれた、34万人が住むルワンダ辺境に病院を建設するプロジェクトだ。
学生達が教室を飛び出し、戦争により荒廃した、世界で最も資源に乏しい地域で病院をデザインすることになったのは、どのようないきさつなのだろう? それはひとつの問いから始まった。2006年、マーフィー氏は保健衛生のグローバル活動家でパートナーズ イン ヘルス創立者のポール・ファーマー博士に、貧困地域の開発プロジェクトを依頼している建築事務所について尋ねた。このときの会話を記述したニューヨーク・タイムズ紙によると、ファーマー博士は「この前のクリニックは、自分でテーブルナプキンに描いた」と答えたという。その後まもなく、マーフィー、リックス両氏はルワンダへ向かう機内にいた。MASS Design 誕生の種はこうして蒔かれたのだった。
結果として、優れた健康転帰を提供できる見事な施設が生まれた。健康は、ルワンダが国家として供給し始めた新たなステータスである。意図的な副次効果も、コミュニティへ効果をもたらしている。ブタロ病院は、その地域に自生する、または栽培されている原料を使うことでコストを低減し、地域の従事率と雇用率を向上させて、変革と復興の時期におけるサステナビリティを確保している。
院内感染の低減を目指すデザイン
デザインそのものも、院内感染の低減を目指したものとなっている。院内感染は米国など資源の豊富な先進国でも深刻な健康問題となっており、新鮮な空気と低費用の換気技術を利用することで空気の流れを向上させている。自然に囲まれたロケーションは、患者を見舞う家族にも十分なスペースを提供。患者同士が向かいあう形でなく、息をのむほど美しい景色を眺められるよう病棟内のベッド配置を逆にするといったシンプルな変更が思いやりとプライバシーを提供し、それが間違いなく健康状態にも影響を与えている。そして、とにかく美しい。
美的配慮と気遣い
この設計事務所のウェブサイトでは、プロジェクトに関して「美しい」という言葉が頻繁に登場する。必要最低限の設備(病院、学校、道路)さえ不足しているような地域において、美しさは重要なのだろうか? その答えはイエス。非常に重要だと言える。
「美は建築物へ、建築を超越する力をもたらします」とマーフィー氏。「建築物を、単なる周辺環境から、ある種の希望、憧れ、内省の舞台へと変貌させるのです。必要最低限の施設とインスピレーションを与える建築物の違いは、(巧みにデザインされた空間は) 生活において、より優れた何かを求める感情を私たちにもたらすことです。折に触れて美とのかかわりを持つことは、人々に尊厳を与えます。誰もが皆、この世からさまざまなものを享受するに値する存在である、ということに気付かせてくれます。優れた建築は、それをもたらすのです」。
彼は、ブタロ病院の設計に取り入れられた美的配慮と気遣いが、地域住民が空き時間を利用して庭仕事や介護サービスのボランティアに参加してくれている理由だと考えている。「坂茂 (プリツカー賞を受賞した日本人建築家) は、約20年前の震災時に設置された仮設住宅に今もなお住み続ける人がいる理由について尋ねられたとき、「人は愛する何かを慈しむものだ」と答えています。人は、自分にとって価値があると思うものを大切にします。そして、自分たちを大切に扱ってくれない相手には、ありがたみを感じないものです。だからこそ美は重要です。美は、この施設を利用するコミュニティを施設が尊重している、という気持ちの表明だからです」。
両氏はこの考えをまとめて、さらに大規模な計画を練り始めた。建築のビジネスモデルを徹底的に再定義し、デザインの役割を装飾的な贅沢品から、より幅広い社会改革と社会的正義に必然な触媒へと変貌させようとしている。
「2008年にこの活動を始めた頃、多くの建築家が失業の危機にありました」と、マーフィー氏。「つまり、従来の実践モデルは明らかに破綻しているわけです。必要とされているコミュニティには必ずしも貢献しておらず、経済危機が起きれば一番に首を切られる立場です。多様な新しい実践モデルが必要とされているわけですが、だからといってこれまでの方法論が完全に否定されるわけではありません。業界が進化せざるを得ない状況にあるということです。建築が与える影響、貢献できるサービス、そしてそこに暮らし、一員として過ごす人々のために優れた環境を作り出すという大きな潜在的可能性を見限ってはならない、ということなのです」。
現在MASSは非営利組織として運営されているが、リックス氏は、チームは事業形態に関しては懐疑的であると話す。「しかし私たちは、非営利組織として私たちにできることは、市場をより幅広い建築コミュニティに解放することだと理解しています。だからこそ、私たちが行っているのは、建築に価値を見出していない地域に赴き、ひとたび実証されれば安価に利用可能なアイデアを用いることで、クライアントとコミュニティの任務に建築が価値を付加し、貢献できるのだということを (自分たちの仕事を通じて) 明らかにすることです。デザインの付加価値に人々が気付くようになれば、そのための費用をデザイナーに支払う根拠も説明しやすくなります」。
MASS Designは、その非営利モデルを使用して一種のR&D研究所を設立し、今後の有償での業務に向けた概念の実証として使用している。ブタロ病院は無償のプロジェクトであったが、現在MASSは、保険インフラの水準向上を継続するべく、再びルワンダ政府と有償プロジェクトに取りかかっている。「(ブタロは) 医者すらいないコミュニティのために設立された病院でした」と、リックス氏。「今ではルワンダは、世界でも有数の健康転帰を実現する国のひとつとなりました。ルワンダ政府は、建築が健康にとって極めて重要なものであると理解しています」。
MASS Designが手がけるさまざまなプロジェクト
ブタロで学んだ教訓は、アフリカン・ワイルドライフ・ファウンデーションとのパートナーシップによる学校 (イリマ小学校など) から、ハイチのコレラ治療センターまで、MASS Designが手がけるさまざまな発展段階にある他の20のプロジェクトでも成果をもたらしている。また、この経験は米国にも重要な学びをもたらしている。MASSは、ハリケーン「イレーヌ」で壊滅的なダメージを受けたニューヨーク州ポキプシーのファミリー・パートナーシップ・センターを支援している。連邦政府から再建への補助金が用意されてはいたものの、母体組織のブライアン・ドイルCEOは、より意義のある投資を行うことで、経済的に困難なこのコミュニティにさらに大きな変革をもたらすことができるのではないか、と考え始めた。
MASS Design は、プロジェクトを検討するポキプシーをさまざまなレベルで支援した。安全で、エネルギー効率に優れ、かつ安価な構造。コミュニティに確実に恩恵をもたらす施設にすること。より広域にわたる変革を呼び起こすものであること。「ポキプシー・ジャーナル」紙の記事にあるように、デザイン要素としては、そもそもの洪水をもたらした小川を資源として利用すること、年間を通して食料を供給できる屋上庭園を追加することなどが含まれている。
彼らの仕事からは、デザインが今後の進むべき道という観点において、何か新しいこと、世界にとって素晴らしいことが始まりを告げたように感じられる。「私たちは非営利組織ですが、他の営利組織とも緊密に連携して新市場を開拓しています」と、マーフィー氏は話す。「ベンダー、デザイナー、設計事務所のパートナーシップを歓迎しており、この動きに建設業界が参加して、総じて私たちの生活と健康を向上させる環境が整うことを望んでいます。これを実現してパラダイム シフトを起こすには、関係者全ての連携が必要です。私たちはこの議論にパートナーと議長の両方として参加し、業界に反響を与える大きな変革をもたらすことができればと願っています」。
MASS Design Group は Autodesk Foundation (オートデスク基金) のメンバーです。Autodesk Foundationは、デザインを用いて影響を与える人材および組織専門の投資に注力する初の財団です。MASS Design Groupに関する詳細は、Autodesk Universityにおけるアラン・リックス氏のスピーチ (英語) をご覧ください。