住む、働く、遊ぶ: 「サードプレイス」を提示する WeLive の生活/仕事スペース
都市社会学者のレイ・オルデンバーグ氏は、人間が充実し、つながりを持った生活を送るには 3 種類の空間が必要だとしている。誰にも邪魔されずに休息を得るためのファーストプレイス (家)、経済活動のためのセカンドプレイス (職場)、そして社会的つながりやコミュニティでのアイデンティティを再確認する、より漠然とした活動領域であるサードプレイスだ。
このサードプレイスに成り得るのは、美容院や近所のバー、コミュニティ センター、さらには公共広場など。これら 3 種類の異なる領域を求める欲求が、人間環境のデザインに際しての根本的な原動力となる。だが、こうした複数の空間が、加速する都市化(と地理的、経済的な移動性)によって、ひとつの空間にまとまりつつある。その結果として生まれたのが、新しいハイブリッドな建築様式、つまり自宅とオフィス、クラブハウスという生活空間と仕事空間を組み合わせた複合居住施設だ。
WeLive が運営する新たなコリビング スペース
コワーキング スペースの運営企業 WeWork から派生したWeLive が先日、ニューヨーク市内とワシントン DC にほど近いバージニア州北部クリスタル・シティ近郊の 2 ヶ所にプロジェクトをオープンさせた。WeWork は、WeLive が投資家の期待に応える手段となると予想するウォール街 (奇しくも WeLive のニューヨーク プロジェクトのロケーションでもある) における WeWork の企業価値評価は 160 億ドルであり、WeWork は、今後数年のうちにWeLive の売上が 21% を占めるようになると期待している。
WeLive のシニア デザイナー、クイントン・カーンズ氏は、都市人口の増加に従って、「コリビング」スペースと WeLive の人気はさらに高まるだろうと述べている。彼にとって都市化の拡大は「生活空間はより小さくなり、生活の共同性はより高まる」ことを意味しており、「都市はこの方向に発展してきていると思います」と語る。
WeLive のスペースは、ウォール街 110 番地、クリスタル・シティの両ロケーションとも約 200 ユニットを含む高層ビルとなっており、ワンルームから 4 ベッドルームまでさまざまなタイプの居住空間を提供。全て家具付きで、内装や食器まで用意されている。賃貸契約 (メンバーシップ契約) の期間は月単位で、各建物の最下階には WeWork コワーキング スペースが設けられている。
ソーシャルメディアアプリが、ビル内のアクティビティや、スタートアップによる WeLive の住人へのフォーカス グループ参加の突然の呼びかけ、住人同士のディナーの誘いまで、さまざまな交流をトラッキング。特定の地域でなく、志を同じくする起業家たちが集まるエリアに魅力を感じる、社会に出たばかりの若年層は負担の少ない生活を実現できる。
ウォール街 110 番地の WeLive でコミュニティ マネージャーを務めるアニータ・シャノン氏は、毎日同じビル内で生活して仕事をする住人はわずかであり、WeLive のコンセプトは「3 空間モデルの破壊」ではないと話す。「(居住、仕事、社交の各空間の) 区別は、間違いなく今もあります」。
だが、ひとつの建物内に各ゾーンが接近しているということは、私から公へとつながる領域に特別な意味合いが込められ、慎重に結ばれなければならないことを意味する。それこそがカーンズ氏の仕事だ。彼は、公共の場とプライベート空間の間の移り変わりを「流動体」と表現している。
ベッドルームから広いイベント スペースや共同キッチンまでの間には 6 種類ほどの空間があり、それぞれが異なるレベルの社交の場を提供。完全プライベートの各ユニットを出ると、廊下には小さなラウンジ スペースと電話ボックス型のワークステーションがある。
生活/仕事スペース
3 フロア毎のグループが「ネイバーフッド (ご近所さん) 」となり、固有のグラフィックが割り当てられている。例えばウォール街 110 番地の 7 階から 9 階までは、シンクロナイズドスイミングのグラフィックが内装のテーマとなっている。ネイバーフッド毎に、共同キッチンと大きなラウンジ スペースが設けられている。「居住と仕事の空間の、あらゆる側面を取り入れるよう努めています」と話すカーンズ氏自身も、ウォール街の WeLive に 6 カ月滞在した。
2 つの WeLive プロジェクトに微細な差異はあるが、どちらのプロジェクトも、パーティクル ボードや合板、むき出しの配管、地下鉄用タイルを多用した外観で統一されている。この感性は 100 を超える WeWork スペースとも関係しており、「フォーブス」誌はそれを「改心したブラザーと高級な IKEA の出会い」と表現した。
WeLive でのデザインにおいて、カーンズ氏にとっての最大の難関のひとつが、自身が「モノの少ない居住状態」と呼ぶシンプルなスタイルを奨励しつつ、住人が自分らしい居住環境を構築する手段を提供できる家具付きアパートを、どう作り出すのかという点だった。このバランスを取るため、住人がそれぞれ自分らしく変化を加えられるよう、カスタマイズ可能な素材が要所要所に使われている。ベッドルームの壁は写真を飾れるようフェルトで覆われ、キッチンにはレシピ本を並べる棚を設置できるようペグボードを配されており、買い物リストを走り書きできるよう壁を黒板にし、モジュール式の可動棚システムを設置している。「ユニット内に積み木で建築するようなものです」と、カーンズ氏。
こうして完成したしたのが、若干の匿名性を有し、スタイリッシュな内装が施された家具付きアパートで、ユニットと住人の個性を表現する余地が残されている。「文字どおり、歯ブラシと洋服だけ持参すれば大丈夫です」と、シャノン氏。「実際には、歯ブラシも置いてありますけどね」。
住人たちは、こうしたコリビング スペースを利用して、調味料の貸し借りや、仲間同士出集まって映画を観に行くことなどど、近所づきあいのような友情を育むことを望んでいるとシャノン氏は話す。だが、そうした付き合いをするために、必ずしも実際に話しかける必要はない。そのためのアプリがある。「メンバーの多くは、実際に隣人の部屋をノックするより、デジタル プラットフォーム上でコミュニケーションを取ることに安心感を持つようです」と、シャノン氏は話す。
WeLive ビルは、まさにそのアプリの拡張版といえる。ここでは豊富な社会的交流が催されており、運営側は、それは非常に重要な WeLive の存在価値だとにとって非常に重要なことだと話す。この建物はスマホ必須の印象を与えるが、WeLive の住人が計画するワインのテイスティングやファミリースタイルのディナー、美術教室が、想像以上に幅広い層を呼び込んでいる。
住人の平均年齢は約 30 歳で、その大半を大卒者が占めているが、50 ~ 60 代の住人や子供を持つ家族も居住している。カーンズ氏は、WeLive にとって非常に重要な目標として多様なオーディエンスを呼び込むことを挙げている。ヨガスタジオやジムといった若年層向けスペースだけでなく、ウイスキー ラウンジなど洗練された大人向けスペースを設けているのも、それを強化するものだと話す。
「利用者の主流は、人生の節目を迎えている人たちです」と、シャノン氏。新天地への引っ越し後に便利な家具付きアパートを探している人や、一般的な賃貸借契約期間内には利益を上げられないかもしれない新事業を始める、インフラと労力を節減したい人などがそうだ。
特定のクラスの労働者にとって、移動性と柔軟性は極めて重要なニーズだが、従来の住居形態はそれに応えられているとは言えない。「情報経済」により、人々はより速いスピードで世界を駆け巡るようになる。歯ブラシ持参でもそうでなくても、彼らを優しく受け入れてくれる場所が、さらに必要とされるようになると WeLive は見込んでいる。