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光害対策: 夜を守るライトの建築デザインとは

ジョシュア・ツリー国立公園 星空

人間が活動を終えて眠りに就こうとする頃、全く別の自然界が目覚めようとしている。地球上の全動物のうち半数以上は、夜行性もしくは薄明薄暮性 (明け方や、たそがれ時に活動する) なのだ。

光害は夜間の航行に影響するものであり、長らく関心を集めてきた。また、テレビやデバイスの明るい画面同様、体内時計にも混乱を生じさせる。建築と建設のプロフェッショナルたちは、過剰な照明が非効率であり健康に害を与えることを、かなり以前から認識している。それに応える形で、採光 (昼光照明) と、サステナブル デザインの重要な要素でもあるタスク照明が普及しつつある。

科学者や専門家は近年、人工光が生体系や野生生物にどのような影響を与えるのか、また人間と周辺環境にとって望ましい光害対策を建築業界がどのように明示できるかにまで議論を拡大している。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 夜間
夜間のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 [提供: Clanton & Associates]

ジェームズ・マディソン大学のポール・ボガード教授は、自著「本当の夜をさがして ― 都市の明かりは私たちから何を奪ったのか」の中で、「光害が生態系に与える影響について考えることは、結局、生態系の健康について考えることでもある。そして僕たち人間は、どこに住んでいようと、どんな立場にあろうと、誰もがその生態系の一部なのである」と、書いている。「生態系の状態を知ることは、とりもなおさず自分たちの健康を理解することにつながるだろう」。

夜行性や薄明薄暮性の動物は、狩猟や採集、摂食、交配など生存に必要な日常活動を暗くなってから行うように進化してきた。だが大抵の都市部では車道や歩道、バスケットボール コート、ショッピングセンターなどを人工光が一晩中照らし続けており、それが人間や動物の自然な睡眠、起床の習慣を妨げる原因となっている。

夜間照明の大きな問題は、その方向と強さ、色にある。著名な照明デザイナーである Clanton & Associates のナンシー・クラントン氏によると、一般的な屋外照明の多くは、安全や対象活動に必要な光量を上回る光を発している。その光が真下ではなく上や外を照らすなど、誤った方向に向けられていることも多い。

グレアの少ない暖色系LED サークルK ガソリンスタンド width=
サークル K の改良された新しい照明はグレア (まぶしさ) の少ない暖色の LED を採用。アリゾナ州にあるオラクル州立公園近くにあるこのガソリンスタンドは、国際ダークスカイ協会 (IDA) が「国際ダークスカイ公園」に指定している [提供: Mike Weasner, licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License]

建設業界では LED などエネルギー効率の高い照明が採用されているが、それにはマイナス面もある。LED の中に青みが強すぎ、睡眠パターンに悪影響を及ぼすものがあるのだ。人間やその他の動物は、夜間においては赤やオレンジなど暖色側のスペクトルに順応するようになっている。こうした移行は、自然界では無意識のうちに生じている。日中は青空が広がり、赤い夕焼けが闇の訪れを知らせる。

セロトニンの生成には、日中に太陽から注がれるブルーライトが必要です」と、クラントン氏。「一方、夜間はメラトニン生成のため、ブルーライトのない状態が必要となります。我々は、都市部のブルーライトを最小限に抑える試みの支援に取り組んでいます。特に、睡眠する場所の周辺や、動植物の周りのブルーライトです。動植物は見落とされがちですが、彼らは自分でブラインドを閉じられません」。

昨年、米国医師会 (AMA) の科学と公衆衛生に関する協議会は、LED 光が及ぼす悪影響の概要をまとめた報告書 (英文PDF) を発表した。米国内の街灯のうち約 10% が LED に切り替えられており、この数字は今後数年でさらに上昇するとみられている。第 1 世代の LED は、ケルビン数が最小でも 4,000 K のものが多かった。ケルビン数とは、色温度の単位だ。4,000K 以上の光は冷たい青白光であり、昼光により近くなる。だが、夜間に使用するには強すぎる場合が多い。2,000 ~ 3,000K の光は、より暖かみのある赤色光となるため、夜でも心地良さを感じさせる。

LED のブルーライトは、すでに野生生物へ悪影響を及ぼしている。AMA の報告書によると、海辺に設置された LED は「亀の個体数の大幅な低下を引き起こしている。孵化した幼生個体が、電灯と照明に照らされた明るい夜空のせいで方向を見失い、安全に水中にたどり着くことを阻まれているためだ」。報告書では、ブルーライトが強すぎる橋梁照明も、産卵のための鮭の遡上を妨げていると言及している。

クラントン氏は、環境適応型の照明 (黄色光の LED など) が選択されるよう、都市から天然資源管理者まで幅広いクライアントと連携している。それをさらに一歩進め、街を一様に照らすのではなく、エリアごとの環境ニーズに対応できる照明ゾーンも開発中だ。さらに、夜が深まるにつれて階調の変更やオフ、スペクトルの変更をできるような照明の使用が、さらに普及することを期待している。

A view of Luxor on Pantops Mountain in  Charlottesville, Virginia. 
ヴァージニア州シャーロットヴィルの Luxor on Pantops Mountain [提供: Gaines Group Architects]

南カリフォルニア大学建築学部の建築、空間科学、生命科学学科助教授であるトラヴィス・ロングコア博士は、昼光照明の概念を身に付けた建築家たちが、博士が「ナイトダーキング (night-darking)」と呼ぶコンセプトにも同じように精通しておくべきだと話す。それが、フィルターされた LED やリン光体コーティングの LED など、さまざまなスペクトル特性を持った照明がさらに市場に登場するために一役買うことになる。f.lux などのソフトウェアは、コンピューターやデバイスの画面の色相を変化させて、夜間使用時にブルーライトを除去する。このテクノロジーは、今や照明システムにも導入されつつある。

照明の影響を減らす対策を講じることは、収益の向上にも役立つ。Gaines Group Architects のチャールズ・ヘンドリックス氏 (AIA) は「意図を持って照明を行なうことで、使用する街灯や照明器具の数が減って消費電力も減るため、プロジェクトがより手頃なものになります」と話している。彼の事務所は、照明に関して比較的厳格な条例を定めているヴァージニア州シャーロットヴィルなどでのプロジェクトに環境適応型照明を使用。環境への配慮に全てのクライアントが関心を持っているわけではないが、「クライアントの 99% 以上がコスト節約を望んでいます」と、ヘンドリックス氏。

「最終的に重要なのは、(光の) 継続時間と強度、方向、スペクトルの制御です」と、ロングコア氏。「特に建築の観点から言えば、こういった問題の解決にはデザインが不可欠です」。

著者プロフィール

キム・オコネルは歴史や自然、建築、ライフを専門とするワシントン D.C.エリアのライター。自然、地方に関する幅広い著述をしており、以前は Virginia Center for the Creative Arts とシェナンドー国立公園のライター イン レジデンス・プログラムに参加していました。Web サイト (kimaoconnell.com) 経由でコンタクト可能。

Profile Photo of Kim O'Connell - JP