ランドスケープ アーキテクトのリアル ライフ: CMGのジェニファー・グー氏
ワーク ライフ バランスの実現 (仕事と生活の調和) とは、大抵の場合、私生活と単調な“9 時 5 時”の仕事を十分に区別して、前向きかつ生産的でいられるようにすることを意味している。サンフランシスコを拠点とするランドスケープ アーキテクチャ事務所 CMG でランドスケープ アーキテクトを務めるジェニファー・グー氏の場合は、単に自宅に仕事を持ち帰るのでなく、仕事そのものが彼女にとって「ホーム」、つまり心のよりどころとなっている。
それは CMG が クライアントに対して、単にイノベーティブなパブリック スペースやプライベート スペースを生み出す以上のことを目標としているからだ。CMG は建築と芸術、環境意識の高いデザインを通じて、自身が活動するコミュニティの福利向上を目指している。その意味では「全て」が自宅のようにくつろげる場所であるべきなのだ。
グー氏は現在、3 つの大きなプロジェクトに取り組んでおり、そこには中国系アメリカ人である彼女の琴線に特に強く触れる Willie “Woo Woo” Wong Playground (黃顯護記念公園) の改修も含まれている。サンフランシスコでも最も人口が密集する地域のダウンタウン近辺にあるこの空間は遊具、ゲーム コート、ロッカールームで構成され、よちよち歩きの幼児からティーンエイジャー、年配の住民まで、あらゆる層に利用されている。
グー氏はまた、カリフォルニア大学バークレー校エクステンションで講師も務め、ランドスケープ アーキテクチャの入門コース、上級コースの両方を教えている。これは CMG での自身の活動を補完する役割を果たしている。教えることを通じて、グー氏は自身の意見をより明確に表現すること、自身の仕事がもたらす学びの機会に感謝することを学んだ。「授業と実践は密接に関連しています」と、グー氏。「仕事で積極的に成長を続けていなければ、この職業に直結する関連性を提供することはできないと思います」。
雨の降る日曜に、サンフランシスコでグー氏に聞いたランドスケープ アーキテクトとしての生活は、彼女にとってはフラストレーションを超越した喜びを見出すことを意味することが多かった。
都市やビジネスの、パブリック スペースに望むデザインが変化していることはどう考えられてますか?
CMG へ入社後、最初に取りかかったのは、あるテック キャンパスのプロジェクトでした。ニューヨーク出身の私にとって、全てが新鮮で興味深く、またクライアントがランドスケープ デザインへ組み込もうとしている価値観に感銘を受けました。
まず、独特な空間というアイデアへの傾倒があります。ロケーションが特徴的で、キャンパスは特別かつ独自性を持つものであるべきですが、その空間を特別なものにしているのはデザインだけでなく、デザインと人であり、さらに重要なのは、そのデザインが人々によって高められている点です。
次に、デザインとは、発生と変化のためのフレームワークです。デザインは完璧な結末ではなく、むしろ対話と居住環境のスタート地点であり、また人々にとっては、空間を自分のものとし、それ以降何年にもわたってその空間のデザインを変更するための機会であるべきです。
さらに、そこには存在理由があるべきです。デザインのためのデザインではなく、明確な目的に役立つ空間を生み出すことです。この点で重要なのは、洗練された、魅力的で、イノベーティブなデザインを生み出しつつ、デザインのエゴによって目的が抑え込まれるようなことがないよう注意することです。
多数の企業が採用するようになった、オープン ワークスペースに関する考えをお聞かせください。壁を取り除くことはコミュニティ感の促進に役立ちますが、扉の少なさは仕事の中断にもつながります。
CMG はオープン スタジオです。[前の勤務先である] Hargreaves もオープン スタジオでしたし、インターンシップを行ったオフィスもそうでした。ランドスケープ アーキテクチャを学んだコーネル大学もオープン スタジオでしたね。私は、壁のない仕事環境しか知らないんです。主任もスタッフも全員が同じ空間にいて、扉はひとつもありませんでした。デザインとはインタラクティブなものであり、互いにアイデアをやりとりしてスケッチを見せ合うことで最良の結果が得られるので、こうした環境はデザインの仕事には有効です。隔離された状態で作業すると、うっかり逸脱してしまう可能性も高くなります。「仕事が邪魔される」という人には、しっかりと耳をカバーできるヘッドフォンを買うようにと言いますね。
収入や、プロジェクトを期限と予算内に収めることを超えて、仕事から得ることのできる、より深遠な満足感とはどういうものでしょうか?
ランドスケープ アーキテクチャの世界に入ったのは、私にとって幸せを感じる瞬間、自分の存在がトータルなものとして感じられる瞬間とは、屋外にいるときだと気付いたからです。時が止まり、詩が現実になって、「自分がいま、この世界に望むものは他には何もない」と感じる瞬間です。まさに至福のときです。私にとっての成功とは、こうした感情に仕事で出会うことができたときです。エクステンションでいい授業ができたとき、素晴らしいコミュニティ ミーティングを終えた後、特に取得の困難な認可を完了したときなどです。
では、仕事で一番フラストレーションを感じる点は?
フラストレーションとは、単なる個人的な不安感です。私の仕事で最も難しいのは、長期に渡るプロジェクトや全体像とのつながりを維持することだと思います。サービスの追加やスケジュール、チーム内のバランス、注意が必要な勾配の問題、フェンスのディテールなどを考える際や、その週の進捗について確実にクライアントの納得を得られるようにする場合には、住まいの価値やコミュニティの構築、喜びといった点とのつながりの維持が難しい場合もあります。小さなことを難しく考えすぎてしまったり、頭でっかちになり身動きが取れなくなったりすることは、往々にしてあるものです。こういうインタビューは、そうした困難に立ち向かう理由を思い出し、小さな成功が大勝利につながるということに気付くきっかけを与えてくれます。
これがあると仕事がより簡単になる、というものは?
私は、必ずしも仕事が簡単になればいいと思っているわけではないんです。あまりに長い間、仕事が簡単に進んでしまうと、自分の安全地帯から抜け出すことなく仕事をすることになります。安全地帯の境界部分こそ、最大の成長が生まれる場所です。ランドスケープ アーキテクチャの領域は非常に広く、プロジェクトはどれも異なります。全てが渾然一体となり始めた、あるいは、この仕事のルール全てをマスターしたように感じたとしたら、それは自分の能力を最大限に発揮した仕事ができていないということになります。仕事は喜びに満ちたものであるべきですが、必ずしも簡単である必要はありません。
建築デザインとコミュニティ スペース、エコロジーの今後 10 年を考えると、その将来で一番エキサイティングだと感じるものは? また、不安を感じるものは?
ツールが進化し、プログラムが「スマート」になるに従って、クライアントはプロセスの早い段階でプロジェクトが、よりテクニカルなものになることを望むようになるでしょう。デザイナーは、その「手段」について早い段階で考えざるを得なくなり、結果としてデザイン アイデアの可塑性は低下し、コミュニティや現場に合わせた対応は難しくなって、空間の調査や検証、スケッチを描くことのないまま、未熟な状態でアイデアへコミットするようになります。スケジュールとレビュー待ちのプレッシャーは、アイデアの質の低下につながりかねません。ですが同時に、こういったツールは極めてエキサイティングな部分でもあります。連係が複雑すぎてこれまで不可能だったデザインに扉を開き、実現に役立ちます。
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