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BIMの詳細度、LODが建築・建設業界にもたらす最大のメリットとは?

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人類が話す言語は、実に 7,000 に及ぶ。これほど多くの言語を話すことになった原因は、建築・建設業界にあるのかもしれない。

聖書の伝承によると、ノアの子孫は大洪水の後、光輝く繁栄の都市を築いた。そう、バビロンだ。うぬぼれたバビロン市民は、自らの偉大さのシンボルとして「天まで届く」ほど高い塔の建設を計画する。人間には神に匹敵する才能があり、今や神など必要としないことを証明しようとしたのだ。メソポタミアに建つこの高層ビルは予想通り神の憤怒を買い、神はひとつの言語を話していた人間を、互いに通じない別々の言語を話すようにすることで、その傲慢さを罰したのだった。人間が互いにコミュニケーションできなくなったため、バベルの塔 (「バベル」とは、混乱を意味するヘブライ語のバラル (balal) に由来する) は完成せず、人々は世界各地へと散らばり、永久にばらばらとなった。

BIM を含むバーチャル デザイン & 建設 (VDC) を専門とする、ダラスを拠点とするコンサルティング エンジニアリング事務所 IKERD Consulting のプリンシパル、ウィル・イカード氏は「信じるかどうかはさておき、この物語にはある種の真実が含まれています」と述べている。「言語が混乱すると、建設はストップしてしまいます。それは現在も変わりません」。

LOD BIM モデル

その真実味は、さらに強くなっているのかもしれない。「このデジタル時代には、3D モデルを用いて業務が行われます」と、イカード氏。「モデルを渡す相手が、どこまでの作業が終わっているかに関して異なる理解をしていると、問題になります」。

これは、構造用鋼製造メーカー Canam Group がしばしば直面する課題だ。BIM /ディテーリング サービス マネージャーのダニエル・バーボー氏は「パートナーに、彼らのモデルが作業済みかどうかを文書化させるのに四苦八苦しています」と話す。「部門間で伝達を行うための、より有効な手段が必要です」。

その手段となったのが LOD (詳細度: Level of Development) だ。LOD は、BIM におけるバベルの塔規模の不手際を防ぐよう、チームを支援する。

LOD の目録

3D モデリング、そして BIM の問題は、必ずしもそれを信用できないという点にある。

構造工学学会 (Structural Engineering Institute) の米国 BIM 委員会の設立メンバーであるイカード前議長は「これまで 3D パラメトリック モデリングに 20 年以上も携わってきましたが、精密性と正確性の間には常に緊張があります」と話す。「小数第 15 位の精度を持つ正確なモデルを作成できますが、その場所が 90 cm もズレていることもあります。それは、常に 3D モデリングにおける課題です」。

LOD はこの問題を、3D モデルの作者と受け取り側が共通理解を得るために使用できる、番号順の目録を導入することで解決している。BIM Assure ソフトウェアを開発する Invicara でカスタマー サクセス部門ディレクターを務める AJ・ブリッドウェル氏は「これは、モデル内の要素をスコア化して記録するひとつの方法です」と述べている。このソフトウェアは、チームによる LOD の評価に役立つ。「モデルに含まれる要素をデジタル上で検討し、データの成熟度を確認します。これは一種のトリガー メカニズムとなっており、対象となる要素が適切なレベルの成熟度に到達すると、ユーザーに作業を開始するよう促します」。

アメリカ建築家協会 (AIA) は 2008 年に LOD を制定し、BIM モデルの詳細度を定義する 5 段階の「進展度」基準を導入した。この基準への建設業界の対応と実施を促進すべく、BIMForum は、2013 年に初公開された「LOD 仕様書 (Level of Development Specification」で、この進展度を特定の構成要素 (電気、配管、基礎、屋根など) に導入した。

BIM LOD 目録

当初の 5 段階のレベルに 1 段階が追加され、現在は 6 段階のレベルがある。LOD 100 では、要素の説明は一般的なものにとどまり、構造部分の存在は示されているが、その形状やサイズ、位置は示されていない。LOD 200 では、要素のおおまかな量、サイズ、形状、位置、向きが示されるが、情報はまだおおよそのものだ。LOD 300 では、要素が具体的なサイズ、位置、向き、量で示される。LOD 350 では、それぞれの要素に関する正確な情報が特定され、また要素が周辺要素や関連要素にどう連結しているのかを特定することができる。LOD 400 の要素には、個々のボルト孔や溶接部までを製造するのに十分な、モデル内の要件に基づいた詳細が含まれている。そして LOD 500 の要素は「運用可能」であることを意味しており、仕上げと設置が完了し、位置の現場検証が実施されたことを示している。また、LOD 500 の要素にはクライアントが完成後に活用可能な情報 (モデル番号、製造者、購入日など) が含まれている。

「典型的なプロジェクトでは、要素を LOD スコアカードに取り込みます」と、ブリッドウェル氏。「モデルに含まれている要素のうち、最低でも 8 – 9 割が LOD 350 に到達している必要があります」。

言葉を学ぶ

関係者は LOD 要件をゼネコン、場合によってはプロジェクト オーナーから受け取るできる。いずれの場合も、そのメリットは新たなレベルのコミュニケーションや連携、コラボレーションであり、スケジュールや予算、領域の範囲内で完了できる確率が向上する。

「LOD が無ければ、電話やメールでの連絡が基本になります。でも人間同士のコミュニケーションが完璧でないことは、誰もが承知しています」と、ブリッドウェル氏。「プロジェクトのそれぞれの要素の成熟度についてデジタル刻印を押すことで、作業に取り掛かれる準備が完了しているかどうかについて、より明確なコミュニケーションが可能になります」。

もちろん、共通言語を持つだけでは不十分だ。言語が機能するには、全員がその言語を話せなければならない。Canam Group は通常 LOD 400 でモデリングを行っているが、このタスクには、プロジェクトに関わる全関係者のニーズの概要を説明する、包括的な BIM 実行プランが必要となる。「要件については、正確であることが極めて重要になります」と、バーボー氏。「つまり、この段階のプロジェクトには、このレベルの詳細度の属性が必要だ、という点を明確にするということです」。

BIM LOD コミュニケーション

イカード氏は、さらに踏み込むことを勧めている。「これまで関わったうち、最もスムーズに進んだプロジェクトでは、人々の (LODに対する) 理解の教育と認証に正式なプロセスを採用していました」と、イカード氏。今後、BIM と LOD 技能を認証するテストである Certificate of Development in Building Information Modeling/BIM 開発認定証 (CD-BIM.com) の取得を、ゼネコンが要求するようになるかもしれない。「私は“自ら確認済みでないなら、そこに何かを期待するな”を信条にしています。チームが LOD に従うことを期待する前に、(LOD を) どの程度理解しているのかを確認しておく必要があるのです」。

現在のところ、LOD の運用は施工会社にとって付加価値だと考えられている。だがイカード氏は今後、LOD の運用能力は単なる競争上の優位性ではなく、ビジネス上も必須になるだろうと話している。「LOD は、企業のリーダーが熟知すべき基本概念です。その企業が 3D モデルを使用するかどうかは関係ありません。今後、納期やスケジュール、費用を定義するのに使われるであろう言語です。つまり、この言語が原因で企業が訴えられることにもなります。モデルを LOD 300 で納品すると言ったにもかかわらず、それが実行されない場合、それは単なる誤りではなく不作為となります。契約違反なのです」。

冒頭の話に戻ると、LOD を用いて塔を建築する者は、天まで届く塔を建設する態勢が整っており、際限のない誤解や混乱に直面することはないだろう。

著者プロフィール

マット・アルダートンはビジネスやデザイン、フード、トラベル、テクノロジーを得意とするシカゴ在住のフリーライター。ノースウェスタン大学の Medill School of Journalism を卒業した彼の過去のテーマは、ビーニーベイビーズやメガブリッジからロボット、チキンサンドイッチまで多岐に渡っています。Web サイト (MattAlderton.com) からコンタクト可能。

Profile Photo of Matt Alderton - JP