Skip to main content

景徳鎮の歴史的価値の高い陶磁器工場を現代的な建築物に

廃墟となっていた陶磁器工場を大胆にリノベーションした複合施設

  • 陶磁器の産地として有名な中国・景徳鎮が、廃墟となっていた陶磁器工場を大胆にリノベーションした複合施設、Taoxi Mingzhuでも知られるように。
  • 波のようなアーチ、ディテール豊かなアーケード、複雑な鉄骨構造要素などの独創的なデザインは、施工においてさまざまな課題を提示した。
  • そのデザインは、BIM、3Dビジュアルシミュレーション、CNC彫刻とフライス加工、3Dロフト、3Dスキャン、複合現実、クラウドコラボレーションなど高度なデジタル技術を駆使することで実現している。

中国の活気ある古都、景徳鎮は数千年の歴史を持つ陶磁器の職人技と深淵な陶磁器文化で、「陶磁器の都」として世界的に知られている。現在、その景徳鎮の中心部で進められている新たな建築プロジェクト、Taoxi Mingzhuが大きな注目を集めている。これは旧景徳鎮陶磁器工場を改修するもので、店舗、アーティストスタジオ、市民スペースなどを備えた複合施設として生まれ変わる。

開放的で相互のつながりが感じられる独特の建築スタイルを特徴とするTaoxi Mingzhuは、古代と現代、空間と人間、歴史と現代芸術を結びつけ、陶渓川地区の新たな代名詞となる。完成後は街の公共空間をつなぐランドマーク的建造物として、景徳鎮の観光と文化の発展に貢献するだろう。

廃墟と化していたこの工業用地は、中国屈指の建築界の巨匠、崔恺氏の指揮のもと、総建築面積約42,800平米、複雑かつ不規則な波型のアーチ構造を持つ多機能建築複合施設に生まれ変わる。その中心的存在となるのはカラフルでタイル張りの打放コンクリート製アーケードで、その姿はまるで、活性化が進む桃渓川地区を彷徨う「泳ぐ龍」のようだ。

廃工場を変貌させる

Taoxi Mingzhuの急勾配の曲面は1cmごとに7,000の立体写真でマッピングする必要があった
Taoxi Mingzhuの急勾配の曲面は1cmごとに7,000の立体写真でマッピングする必要があった

革新的なデザインと構造の美しさを支えるのが、このプロジェクトの建設チームであるChina Construction First Bureau Huajiang Companyの果敢な取り組みだ。このプロジェクトのエンジニアリング面で特筆すべきなのが不規則かつ急勾配の曲面で、その高さは24m、長さは70mを超える。そのユニークな形状の実現には、建物の曲率の変化を1cm毎に示す、7,000を超える断面図が必要となる。複雑な鉄骨構造、変化に富んだ景観舗装、色とりどりの釉薬が施された陶器質タイル、新材料、新工法、新技術の多用など、このプロジェクトは建設チームにとって前例のない挑戦となった。

Taoxi Mingzhuプロジェクトの成功を振り返り、中国建筑一局(集团)子会社のBIM Centerでディレクターを務めるワン・レンウェイ氏は「デジタル建設技術の正しい応用」と「設計と建設の完全な連結」が、複雑かつ珍しい形状のこの建物の建設を可能にしたと話す。China Construction First Bureau Huajiang Construction Companyのチーフエンジニア、フアン・ヨン氏は「デジタル技術のシミュレーションとエミュレーション、特異な形状のRevitでのモデリング、さまざまな3Dスキャン技術の応用がなければ、これほど独特かつ複雑な形状の建設を実現することは難しかったでしょう」と話す。

インテリアデザインの精度と芸術性

Taoxi Mingzhuの中央アーケード建設では36万枚のタイルを正確に敷き詰めることが要求された

湾曲したアーケードの特徴的な形状の制作をするべく、プロジェクトチームはビルディング インフォメーション (BIM) 技術を使用して3Dモデリングを実行し、湾曲したキールのデジタルモデルを丁寧に構築して、そのナンバリングと分割、レイアウトを行った。キールの曲率を正確に変化させるため、チームは糸張りロボットも使用して精密なチェックを行った。建設チームは、ビジュアルプログラミングとモデリング技術を活用し、現場打ちコンクリート構造物の型枠システムを設計し、BIMを使用して埋め込まれた釉薬タイルの自動選別を実施。

オートデスクのRevit、DynamoNavisworksなどのツールを使用して、3次元設計の結果を型枠の自動加工、艶出しレンガ、現場施工に応用した。チームはまた、模型を徹底的に活用して設計プランの検証、最適化を行い、曲面の精度、設計の実現可能性、施工の正確性を確保した。

Taoxi Mingzhuの中央アーケードは、高さ24mの壁一面に5色の施釉タイルが36万枚も丹念に敷き詰められたもので、それ自体が偉業と言える。特注の釉薬が使われた陶器タイルは、そのひとつひとつに固有の位置があらかじめ設定されており、チームはデザインに正確にタイルを配置する必要があった。この過程で、チームは大きな技術的問題も解決しなければならなかった。それは、タイル間に鋼鉄製の構造物が点在する状態で、タイルが落下しないようにするにはどうすればいいか、という問題だった。

何度かの試作を経て、「波型の顔料入り現場打ちコンクリート、という構造解決策に落ち着きました」レンウェイ氏はこう話す。チームはまず、タイル色の並びでモデルを作成し、実際の照明下でのタイルの視覚効果をシミュレートするために細部をレンダリングして最適化した。チームはその後、関係者全員がデザインを正確に評価できるよう、建設設計図を1/1スケールで印刷した。「デジタルのレンガ積み技術によって、施釉タイルのひとつひとつに正確な番号をつけることができます」と、レンウェイ氏は話す。正確に積むことで、すべてのレンガがコンクリートで隙間なく完全に覆われ、混ざり合って豊かで刻々と変化する色彩を生み出し、見る者に独特の視覚体験を与える。

デジタルイノベーションによる効率性と持続可能性

建設中の大きなアーチ型のレンガ造りの建物の中で安全装備に身を包み仕事をする作業員
建設中の大きなアーチ型のレンガ造りの建物の中で安全装備に身を包み仕事をする作業員

コンクリート打設時のオーバーフローを防ぐため、チームはプロジェクト開始時に詳細な工程シミュレーションを実施し、コンクリート漏れやレンガ汚染を効果的に防ぐと同時に、打設をワンパスで行えるようにした。レンウェイ氏は、早い段階でのデジタル連携とビジュアルプログラミング、曲面からタイルテンプレートに至るカスタム処理フローの確立、全プロセスの完全検証がプロジェクト成功のための強固な基礎を築いたと指摘する。特にBIMの3Dビジュアルシミュレーション、CNC彫刻とフライス加工、3Dロフト、3Dスキャン、複合現実技術、クラウドコラボレーションプラットフォームの使用を組み合わせることで、建設プロセス全体を通じてデジタルモデルが重要な役割を果たすことができた。

結果として、このプロジェクトは予定より早く完成し、またデジタル技術の使用による効率化と一回限りの打設により、型枠1,077㎡、コンクリート525㎥、化粧レンガ補助材料1,213㎡、二酸化炭素排出量13,769トンを削減できた。中国建設業協会の統計によると、このプロジェクトの施釉タイルのBIMレイアウト技術は、材料の無駄を19.4%、材料費を約170万元削減し、チーム全員のコミュニケーション時間を70%短縮した。

歴史的建造物の保護における今後の展望

ヨン氏と彼のチームは、歴史的建造物や街並みの保存に新たな機会をもたらす、デジタル技術の応用方法を模索している。

都市再開発が加速している中国では、各地にある伝統的な木造建築、石造建築、壁画、歴史的建造物の多くに保護と修復が必要だ。「私たちは現在、デジタル技術が歴史的な町並みと関連する文化観光の保護にどのように役立つかに焦点を当てた、一連の建設プロジェクトの研究を行っています」と、レンウェイ氏。「歴史的建造物と近代的建造物の間にはまだ大きな違いがありますが、類似点もあるため、デジタル技術は良い出発点となるでしょう」。

古い建造物の保護には、BIM、ビジュアルモデリングと分析、VRなど多様なデジタル技術を統合し、史跡保護プロジェクトのより精緻な管理と連携作業を促進する必要がある。チームはまた、現代の技術を古代の建築物に適用するという課題にも直面している。これには、建築材料や構造などの情報を総合的に分析し、合理的な保護計画を策定する必要がある。

Taoxi Mingzhuプロジェクトの経験を振り返り、今後さらなる「名作」の保存に求められる高い基準を満たすには「建築家の設計コンセプトを実際の建築にいかに巧みに取り入れ、ひとつひとつの建物を丹精に作られた芸術作品のように扱うか」がカギとなると、ヨン氏は話す。

そのためには、ヨン氏はチームがデジタル制作モデルを全面的に受け入れ、デジタル技術をチーム横断的連携の「主導部門」にしなければならないと考えている。同時に、デジタル技術は、革新的な考え方や仕事の仕方をサポートし、デジタライゼーションへの信頼と、その実際的なメリットへの信用を築く必要がある。

レンウェイ氏はまた、複雑なプロジェクトに対処する際のシームレスなデータ接続と効率的な連携プラットフォームの重要性を強調する。 今後、新しい建設技術や革新的な材料が登場するにつれ、複雑なプロセスや材料がもたらす課題への対応にデジタルの手段やモデリング機能を活用することは継続的な課題となるだろう。

著者プロフィール

ベティ・ワンはテクノロジーのトレンドにフォーカスしたフリーランスライターで、技術革新に関する、文化的意義を持つ記事を書くことを専門としています。長年にわたるテクノロジー コンサルティングの専門的な経験により、建築やソフトウェア、ハードウェア、データ センターに関する深い知識と理解を獲得。英国シェフィールド大学で国際ジャーナリズムの学位を取得し、そこで将来を見据えたジャーナリズムのビジョンと独自の文化的視点を育成しています。

Profile Photo of Betty Wang - JP