JGMAが予算の限られたクライアントにも優れた建築を提供する4つの方法
フアン・モレノ氏が自身の名を冠したシカゴの建築事務所は、エキサイティングな外観の建築物だけでなく、通常はそれほどインフラ投資が行われない近隣やコミュニティ建築にも優れたデザインを提供している。
シカゴのヒスパニック コミュニティとの仕事に重点を置く Juan Gabriel Moreno Architects (JGMA) は、十分なサービスが得られていないコミュニティへ、デザイン以上のものを提供する。この事務所は、サステナブルな未来で最も重要な資産である、子供たちを育成しているのだ。
モレノ氏は予算に限りのあるクライアントのため、現代的なデジタル知識と形式で学校をデザインしている。彼が手掛けたチャーター スクール (米国の公募型研究開発校) の UNO Soccer Academy は、ガラスとステンレス鋼が用いられ、シャープなアングルと優雅なカーブを特徴とする構造物だ。JGMA のノースイースタン・イリノイ大学 El Centro ビルは、片持ちでコイル状のガラス製ヘビのような形をしており、鮮やかな黄色と青のルーバーで覆われている。また、Instituto Health Sciences Career Academy チャーター スクールは、使われていない倉庫を明るくダイナミックかつ生き生きとした建物へ変貌させたもので、母体である団体の、新時代へのアダプティブ ユースという伝統を踏まえたものとなっている。
こうしたコミュニティやクライアントは、予算が不足していることが多い。だが JGMA は、先進的なデザインを喜ぶのは富裕層のみであり、それ以外は平凡な赤レンガを好むという仮定に基づいて活動しているわけではない。
モレノ氏によると、限られた予算内で先進的なデザインを行うのに重要なのは、コミュニケーションと教育、機知の豊かさだ。「こうしたクライアントに見合うものを、過小評価してはいけません」と、モレノ氏。「新しいアイデアを検討したいという意志が存在しています。私が仕事をするクライアントは、自分たちの取り組みについて非常に強い信念を持っています。建築上のアイデアと彼らの信念が大きな力を生み出すのです」。モレノ氏のクライアントの大半は、それまで建築家と仕事をした経験を持たない。だがそれは、モレノ氏が 21 世紀の材料と手法、構造の使用を控える理由にはならない。
1. クライアントとのつながりを見つける
建築に不慣れなクライアントとどうコミュニケーションを行うかが、どのような建物になるかのパラメーターを決めることになる。自分の経験に基づいた説明をクライアントへ行う際、それが重役会議室ではためらいを感じるかもしれないが、テック系でない小規模なコミュニティベースのグループが相手の場合は、個人のアイデンティティがつながりを生み出すきっかけとなる。
モレノ氏の場合、「自分がなぜここにいるのか、自分の意欲に火を付けるものは何か、このコミュニティに関心を持つ理由は何か」から始めるという。それも、大抵はスペイン語で (彼だけでなく、事務所スタッフの 1/3 近くがスペイン語を話す)。モレノ氏はコロンビアで生まれ、ロサンゼルスでシングルマザーに育てられた。「私もあなた同様、スペイン語を話す移民です」。それが、クライアントに対する彼からのメッセージだ。
2. 恩を着せるのでなく、教育する
クライアントがデザインに精通していない場合は、基礎レベルの要件の定義、つまり建築に関連する事柄の説明が必要になる。だがそこを超えたら、特定の社会経済的、人口統計学的グループの嗜好に関する先入観を捨てるべきだ。
「私のアプローチ手法は、教育者として働き掛けるというものです」と、モレノ氏。彼によれば、その教育プロジェクトのクライアントはスポンジのように全てを吸収し、建築上の打ち合わせのレベルが上がるに従って、その能力も向上するという。「それが私にとって、最もやりがいのある部分です」。
マイノリティ コミュニティとの取り組みでは、一部の建築家には安直な文化的比喩に陥る傾向が見られる。例えばメキシカン コミュニティに対して、マヤ様式の階段ピラミッドなど、使い古された陳腐な表現を使用するのがそうだ。モレノ氏は、文化的な伝統を、より抽象的に参照するのが優れたアプローチだと話す。それは彼にとって、プロジェクトに明るい色を多用することになる。直接的に仄めかすことを避けて、ラテンアメリカのデザインの伝統に関連性を持たせているのだ。
メキシコ人建築家でプリツカー賞受賞者のルイス・バラガン氏も、鮮やかな色彩を自身のデザイン言語に不可欠な部分としていた。しかし、建築における生き生きとした色彩の使用は、材料ベースのビジュアル要素に比べると人気がないことも多い。
モレノ氏が手掛けた Instituto Health Sciences Career Academy では、各フロアは学年別に緑、青、オレンジの蛍光色に色分けされている。これは費用のかからない空間の定義方法であり、予算を 1900 万ドルに抑えるのにも役立った。「私は色彩の使用を怖れません」と、モレノ氏。「私にとっての文化遺産は、取り組むもの全てにおいて色が多用されていることです」。
3. 何をどこで、いつ省くかを理解する
最も安価な方法が、最も面白い方法であることは稀だ。それはつまり、モレノ氏のように全てのクライアントに対して冒険心のあるデザインの提供を重要視するデザイナーは、ある種の犠牲を払う必要があることを意味する。
重要なのは、プロジェクトの目的に対する損失が最も少ない箇所に妥協することだ。2,200 万ドルのプロジェクトである El Centro では、モレノ氏はビルの外観により多くの費用を投じた。それは、この建物が州間高速道路 90 号線に近く目を引く場所にあり、シカゴ・オヘア国際空港から訪れる訪問客が最初に目にする重要な建造物となるだろうという理由からだ。
建物のルーバーは片面は黄色、もう片面は青色で、中心街に向かう際は黄色側が、街から出る際は青色側が見えるようになっている。しかし内部は「むき出しの状態です」と、モレノ氏。全てが光沢仕上げのコンクリートで、配管が露出しいる。「材料をレイヤーさせないというだけで、膨大なコストが節約できました」。
総予算が 2700 万ドルだった UNO Soccer Academy では、ステンレス鋼製の外観は、純粋に経済的理由から選択されたものだった。各パネルの取付に使用された、空調配管敷設に使用されるシンプルなクリップ留めという手法には、熟練の労働者は必要ない。また建設当時、ステンレス鋼が最も低価格で入手できる材料だった。
建設が数カ月遅れていたならば、外観は全く違ったものになっていたかもしれない。「当時、どの材料が最もコスト効率に優れているのかを調査した結果が、あの外観なのです」と、モレノ氏。
4. できるだけ再利用する
Instituto の学校のコストを抑えられたのは、既存のレンガ製倉庫を再利用したことが大きい。100 年前に建てられたインフラを活用する価値はモレノ氏には明白が、クライアントを納得させる必要があった。
この学校を設立した非営利団体は、この倉庫から 1 ブロック離れたモーテルを改装した建物を本拠地としており、学生たちは元ベッドルームだった部屋にひしめき合っていた。これはアダプティブ ユースの例としては、ワイン倉庫を教会に作り変えるくらい、直接的で不格好だ。新たな学校によりさらなる発展を発表しようという非営利団体にとって、前回と同じような手狭なリフォームを行うのは、的外れのことのように思われた。一方、モレノ氏の UNO スクールはゼロから建設されたものだ。近隣住民からは「どうして中古の建物を転用するのか?」という声が上がった。「この子供たちには中古で十分だということなのか?」
だがモレノ氏は、建物を再利用することで Instituto コミュニティに存在するギャップを埋められると説明し、彼らを納得させた。「他のエリアのはずれには空き地もありますが、そこはこの学校が必要な主要地域ではないのです」と、モレノ氏。
新しい学校は、この団体の従来の活動ともリンクするものとなっており、既存のリソースをクリエイティブに適応させてきたこれまでの伝統を継承するものとなっている。また今回は洗練されたデザインが用いられることで、都市全体における傑出したデザインのケース スタディともなっている。
完成した建物は近隣に配慮した外観が保たれている。この区画一帯に見られるレンガ壁が使用され、そこにシャープでカラフルな明るさがコントラストを加えている。倉庫の給水塔を支える構造は、近隣における Instituto の 30 年にわたる活動の歴史の証であり、未来を灯す灯台となった。