IoTフレームワークで始め、サービス ビジネスの構築で新たな収益を
未来のマシンとはどのようなものだろう? パーツと装置、エレクトロニクスの組み合わせであることに変わりはないが、それだけではない。未来のマシンはソフトウェアでつながった、センサーとアクチュエーターを統合した集合体になる。そう、テスラの車のように。
これは「Precision: Principles, Practices, and Solutions for the Internet of Things」(Crowdstory 刊、2016 年) の著者、ティモシー・チョウ博士の言葉だ。スタンフォード大学で 35 年近く講師を務めてきたチョウ氏は、Oracle On Demand のプレジデント (1999 – 2005年) など、ソフトウェア業界で様々な役職に就いてきた。控えめに言っても、彼がソフトウェアとその関連ビジネス モデルについて、つまりソフトウェア企業は単なる製品の販売から製品のサービス契約の販売へと移行することについて、深く理解していることは間違いない。オラクルを例に考察してみよう。サン・マイクロシステムズの買収以前、オラクルは年間 150 億ドルの収益を挙げており、そのうち 120 億ドルがサービスによるものだったとチョウ氏は言う。
いまやインダストリアル IoT (IIoT) が成長を続けており、機械製造関連の企業にも同様の変化が訪れるだろう、とチョウ氏。ゼネラル・エレクトリック (GE) は、既にその流れに加わっている。2016 年に GE が挙げた 1,200 億ドルの収益のうち、700 億ドルがジェット エンジンや MRI スキャナーなどの製品販売、そして 500 億ドルがサービス契約によるものだ。だが医療機器や農業機械、動力機械、石油/ガス機器、建設機械のメーカーのほとんどは、現在のところは全くサービス収益を挙げていない。こうしたメーカーに対して、チョウ氏は、機会の認識を呼び掛けている。「サービス収益は繰り返し発生する、利幅の大きなビジネスです」と、チョウ氏。だが、サービスの提供を開始してインダストリアル IoT のポテンシャルを現実のものにするには、まずは製造業界のリーダーがソフトウェアに取り組む必要がある。
「全てがソフトウェアに関係しますが、伝統的なメーカーはソフトウェアについて教わった経験がありません」と、チョウ氏。「ソフトウェアは、彼らの世界で補佐的な存在なのです。しかしソフトウェアが、製品であるマシンの製造方法を変えることになるでしょう。メーカーとマシンとがつながる方法を変化させ、メーカーがマシンから知り得る内容を変えることになります。だからこそメーカーは、ソフトウェアに関する知識の習得に、今すぐ取り組むべきなのです」。
この知識はメーカーに、チョウ氏が言うところの「精密機械」、つまりデータを収集してデータから学ぶ「コネクテッド デバイス」の製造能力を授けることになる。「業界は、そのビジネスに対するサービス収益モデルへと進化しつつあります」と話すチョウ氏は、メーカーにとっての「あめ」と「むち」の動機付けについて言及する。この場合の「あめ」は、収益と顧客満足の向上を誘因する力であり、「むち」はサービス ビジネスをスタートさせる最後のメーカーとなることへの不安だ。サービスの展開には、数年かかることもある。
ビジネスモデルの変革を再検討する中での新たなテクノロジーの会得は困難が伴うが、だからこそチョウ氏は「Precision…」を書き、オートデスクと Industry Week、IoT Institute との連携により無償のオンライン コース「IoT Fundamentals & Examples of Business Transformation」を立ち上げたのだ。著書でもコースでも、チョウ氏は、このテクノロジーを扱いやすいまとまりへと分解した 5 項目から構成される IoT フレームワークを提供している。「IoT という言葉が、本当に意味するものは何なのでしょうか」と、チョウ氏は問いかける。「マシン本体に搭載されるソフトウェアを変えることを意味すると考える人もいれば、マシンをコネクトすることに関係すると考える人もいます。また、新たなビジネス モデルに関連していると考える人もいます。私は、IoT とはこうしたこと全てなのだと誰もが認識できるよう、フレームワークを構築しました」。
チョウ氏は自身の著書とコースで、その IoT フレームワークの 5 項目を、指針と実践の 2 つのパートで展開している。だが、より重要なのは様々な業界から集められた、ビジネスを IoT で変革させた企業のケース スタディ 14例 だろう。チョウ氏によると、フレームワークの 5 要素は以下の通り。
1. モノ (Things)
チョウ氏が言う “モノ” とはマシンそのものであり、彼はモノとマシン、設備の 3 つの語を交互に使用している。IoT を実現するべくメーカーが作る製品が何であるにせよ (著書では DNA シーケンサー、機関車、水冷器が挙げられている)、その企業にはセンサー、コンピューターのアーキテクチャとオペレーティング システム、セキュリティなどの検討が必要にある。
2. つながり (Connect)
チョウ氏は、1 台のマシンで伝送するべきデータ量、データの伝送距離、消費電力の検討を含めた、モノをインターネットに接続するために必要となる様々なテクノロジーの説明を行っている。書籍内では、理解している者は読み飛ばすよう勧めながらも、初心者に向けコンピューターネットワーク構築の基本の一部も提供している。
3. 収集 (Collect)
モノ同士がつながると、データの収集を開始する準備が整う。内蔵されたセンサーの数に応じて、マシンは相当な量のデータを収集できる。この章では、ローカルの SQL データベースからクラウド サーバーまで、データの収集、処理、保存に使用できる様々なテクノロジーの要点が説明されている。
4. 学習 (Learn)
モノをつなぎ、そこからデータを収集する理由は、もちろんマシンに関する可能な限りの知識を得るためだ。だが収集された膨大な量のデータは、恐らく手に負えない量になるだろう。「例えば 15,000 基のマシンのそれぞれに 400 のセンサーが取り付けられ、5 秒毎にデータが送られてくるとして、それを人間が理解できるでしょうか?」と、チョウ氏。「それは無理でしょう」。その解決策として書籍で説明されているのは、データの分析にクエリ技術、機械学習、クラスタリングを応用することだ。
5. 実施 (Do)
フレームワークの最後の項目である、IoT 対応マシンを製造する目的は、これらの情報を用いて何かを行い、最終的により良い製品を構築することだ。未来のマシンは、より正確に作動し、消費財のコストを低下させ、より高品質のサービスを可能にする。機械製造を行う企業各社は、まずは (現在 GE が行っているように) つながらないマシンに対するサービスを提供し、その後、つながるマシンへのサービス提供へと移行して、最終的にはマシンをサービスとして提供することができる。
「これで完全な形が実現します」と、チョウ氏。「エンジニアはより優れたマシンを構築し、マシンの安全性、入手可能性、信頼性を維持して、性能と入手可能性を最適化できます。また、マシンをサービスとして提供する場合、これら全てを閉じたループの中で最適化することができます。これは、これまでソフトウェアに触れられてこなかった、あらゆる業界に大改革をもたらすでしょう」。
IoT フレームワークを理解することと、それを実際に応用してビジネス モデルを見直すことは別の話だ。チョウ氏は機械製造メーカーに対して、まずはこのフレームワークを使用し、自社のビジネスの現在の立ち位置を理解することを勧めている。ビジネス モデルの話はその後に行うべきだ。「マシンを取り巻くサービス ビジネスをどう構築できるかを特定することからスタートすると良いでしょう」と、チョウ氏。「まず考えるべきは、サービス ビジネスの規模と、それを成長させていきたいかどうか、ということです」。
メーカーにとっての 3 つ目のステップは、マシンがつながり情報を収集するようになったら、そのデータから学ぶことだ。「データから得た知識は、社内の主要な 3 つのグループに応用され、各グループに変化を与えることになるでしょう」と、チョウ氏。「ひとつは、マシンの性能と入手可能性の維持を担当するグループ。次は、その性能と入手可能性の最適化に関わるグループ。そして最後は、データを使用して次世代のマシンに、主にソフトウェアの変化をもたらすことのできるグループです」。
メーカーにとっての利点は、実に広範囲に及ぶ。だがその実現は、メーカーがビジネス環境を変えることに理解を示し、それについての対策を取る場合に限られる。「この能力を構築するには、最低でも2、 3 年はかかるでしょう」と、チョウ氏。「ということは、競争相手が既にサービスとしての製品の提供へと動きだしている場合、あなたの会社はその流れに遅れを取っていることになります」。