土木工学の日常的なイノベーションを生み出す3つの秘訣
このところ、「イノベーション」という言葉が多用されるようになっているが、本当の意味でのイノベーションは、いわゆる「車輪の再発明」ではないし、次なる「現代の偉業」を実現することでもない。
土木工学における実践は、標準的ではない材料を取り入れ、サステナビリティや環境への影響への懸念に対処し、新しい技術と既存の技術をフルに活用するよう進化してきている。イノベーションへ日常的に取り組むことが、エンジニアが意欲的な目標を実現するための助けとなる。
土木工学のオピニオンリーダーたちのイノベーション プロセスは、その組織やプロジェクト、アプローチはさまざまでも共通する特徴を有している。オランダ・ユトレヒトを拠点とする総合エンジニアリング会社 Geonius で、イノベーションに専念する 6 名のチームを率いるBIM アドバイザーのクリスティアン・オッター氏は、モデルの先進的な活用を追加したことが、彼の会社に差別化をもたらしていると述べている。
テキサス州オースティン市の公共事業部門で BIM/CAD マネージャーを務めるイシュカ・ヴォイクレスク氏は、画像をキャプチャして土木事業を非技術系の関係者にもうまく伝えられるよう、ドローンなどの新しいツールを取り入れている。
BVH Integrated Services (ニューイングランドを拠点とするエンジニアリング コンサルティング会社) の BIM マネージャーであるマット・ヴァンチ氏は先日、自社のツールに 360 度のパノラマ レンダリングを追加した。「私は「貧者の VR」と呼んでいます。パノラマ レンダリングは単一のポジションがベースになりますが、それでも非常に大きな意味があります」と、ヴァンチ氏。「オーナーやクライアントが 3D で対象物を確認できる機能があれば、多くの質問を省くことにつながり、本当に重要なことに集中できます」。
ではエンジニアたちは、日々の業務の中で、どのようにしてイノベーションを定期的に、さらには当たり前のものとして実現できているのだろう? 彼らは全体像と段階的なシフトの両方を意識しながら、それを日常的に優先しているのだ。
1. イノベーションは既に手にしているツールの中に存在することも多い
ヴァンチ氏は、MEP Mechanical、MEP Electrical、Structural、Architectural の Revit 認定プロフェッショナル資格を取得した、米国内でもわずか 5 名 の中のひとりだ。そして今も新しいツールや機能の追求を続けている。360 度パノラマもそのひとつで、ACE のメンター プログラム夜間コースでのボランティア活動中に発見したものだ。
「(Autodesk) InfraWorks のメニュー項目をチェックして VR 機能のオプションをいろいろ試していたら、現在行っていることより、このタイプのビューの方が優れているかもしれないと気付いたのです」と、ヴァンチ氏。
その好奇心のおかげで、アイデアの伝達がより簡単になった。「共有可能な、没入感を持ったビューを素早く生成できます」と、ヴァンチ氏。「クライアントも施工会社も非常に気に入っており、私たちにとってもずいぶん楽になりました」。
同じく、ヴォイクレスク氏も UAV (無人航空機) テクノロジーを使用し、最終的にそのテクノロジーの末端利用者となる人々にアイデアを届けた。「 (UAV は) より写真のようにリアルな外観を持つ 3D GIS ベースのモデルの構築と強化に主に使用していて、公民両方の関係者に好評を得ています」と、ヴォイクレスク氏。ヴォイクレスク氏はまた、自身が使用するソフトウェア ツールに、徹底的に詳しくなることを目標としており、カスタマイゼーションにも取り組むつもりだ。「既にこうしたツールが手元にあるのなら、それを最大限に活用することが理にかなっています」と、ヴォイクレスク氏は話す。
氏はまた、自身が使用するソフトウェア ツールに、徹底的に詳しくなることを目標としており、カスタマイゼーションにも取り組むつもりだ。「既にこうしたツールが手元にあるのなら、それを最大限に活用することは道理にかなっています」と、ヴォイクレスク氏は話す。
オッター氏もまた、新しいソリューションを探すのではなく、既存のツールを使用して総合的なモデルを構築する方法を見出している。「使用中のデザイン ソフトウェアの機能をよく確認することで、地質工学的情報や GIS レイヤーを取り入れられています」と、オッター氏。
3 名のエンジニア全員がソーシャル メディアを、情報やインスピレーションを得るための既存のツールセットの一部だと捉えている。「Facebook でのシェアにより、これまで考えたこともなかったような優れた土木工学の機能を見つけることができました」と、ヴォイクレスク氏。「たとえば、見た目がイマイチな赤い消火栓を、タコのようにペイントすることでストリートアートへと変化させる、というアイデアはどうでしょう? オースティンの「Keep Austin Weird (オースティンをユニークな街のままに)」というスローガンにも合致しているので、フィットするかもしれません」。
2. オフィスから出よう (そして行動しよう)
「新鮮さを失わないためには、刺激を受ける必要があります」とオッター氏は話す。「だからこそ、私たちの部署では (イノベーションの重視に加えて) 実際のプロジェクトを取り上げるようにしています。私が現場に足を運び、施工会社と話すことを習慣にしているのも同じ理由です」。
仕事現場の訪問にテクノロジーに精通したアプローチを採ることは、オッター氏にとって、あらゆる人から話を聞く上で重要なこととなっている。「私たちは現在、コミュニケーションと情報、デザイン上の目的を統合したモデルを使っています」と、オッター氏。「これは施工会社との連携に、非常に役立っています。さらに施工会社にタブレットを配布して、全員が同じモデルで作業を行い、より効率的にコミュニケートできるようにしています」。
「私たちは革新を継続する必要があります。ここ (オランダ) でのプロジェクトは複雑かつ生命にかかわるものであり、使用するテクノロジーは進歩的かつ効果的でなければなりません」 – クリスチャン・オッター氏 (BIM デザイナー, Geonius)
カンファレンスへの参加も、アハ体験をもたらす。「米国内でどのような取り組みが行われているのかを知るために、Autodesk University が役立っています」と、オッター氏。「頭の切れる人々に囲まれ、彼らから学び、また私の知識を彼らと共有することができます」。
その一方で、オッター氏とヴァンチ氏はフィットネスやアウトドアを、現状維持でなく、イノベーションを生み出すのに必要なリフレッシュやマインドフルネスを実現する優れた方法だと考えている。「アウトドア スポーツは、よくやります。走ったり、マウンテンバイクに乗ったりすることが多いですね」と、オッター氏。「もちろん身体のためでもありますが、頭をすっきりさせるのも有効です。ずっとコンピューターの前にいると、疲れますから」。
ヴォイクレスク氏にとって、休暇を取ることは優れたリセット方法であり、アイデアの源にもなっている。「他の都市を訪れると、私はエンジニアリング関連の造作や外観を探します。ほとんどの観光客の目にはそういったものはとまらないでしょうが」と、ヴォイクレスク氏は説明する。「たとえば、他の都市のイノベーティブなデザイン手法や、街灯、歩道、自動車専用道路の使用方法などを探して、オフィスに戻ったときに他のエンジニアと一緒に詳しく調べられるよう、メモを取ります。そこから何かが生まれるかもしれませんから」。
3. 使命感を持ち続ける
より幅広い目標を持つことは、イノベーティブなアイデアが効果を発揮するのに必要な集中力を生み出す。「目的主導」をうたう企業が目立って優れた成功を収める傾向にあるのはそのためだ。
人々の安全を守ることは、多くのエンジニアの仕事において優先事項だ。「ここオランダは非常に小さく人口密度の高い国で、堤防が維持されなければ国土の 2/3 は海面下に沈んでしまいます」と、オッター氏。「これは、私たちの仕事の焦点を決める決定的な要素であり、エンジニアとして私たちがやるべきことの重要性を思い起こさせるものです。私たちは革新を継続する必要があります。ここでのプロジェクトは複雑かつ生命にかかわるものであり、使用するテクノロジーは進歩的かつ効果的でなければなりません」。
オースティンは、オランダほど危険度は高くないかもしれないが、それでもヴォイクレスク氏は、コミュニティの役に立ちたいという強い志を抱いている。「私たちには市民の生活を向上させる責任があり、それを十分に行うためには、何が利用可能なのか、それをどう使用すればオースティンに役立つのかを知っておく必要があると、私は考えています」と、ヴォイクレスク氏。「米国で最も住みやすい街としてのビジョンに応えたいと思っています。ここでは状況は素早く変化しますが、それはつまり、ベストな方法を継続的に実行していく必要があることを意味します」。
こうしたアイデアや実践の多くは当然のものに思えるかもしれないが、日常的なイノベーションは、高価であったり、複雑なトレーニングや天賦の才能の産物であったりする必要はない。とはいえ、適切な思考はやはり必要だろう。そして恐らくは、少しばかりの執念も。