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災害に強い工法でコミュニティの崩壊を防ぐには

災害に強い 工法

昨夏カリブ海地方から米国テキサス州にわたる人口密集地域を襲った 4 つのハリケーンによる損害は、5,000 億ドル (約 53 兆円) に近づきつつある (英文資料)。また、都市機能のシャットダウンで職と賃金も奪われてしまった。災害の襲来後は、建造物が目に見える最大の復興の指標となる。この米国の壊滅的損害の調査は、難しい問いを投げかけてくる。より良好な復興を実現するには、どうすべきなのだろうか?

気候変動がハリケーンの強さと降雨量の増加に、どの程度の影響を与えているかは、今後問われてくるだろう。そして、何を建設するかと同じくらい重要なのが、どこに建設するかということだ。だが、建造物がハリケーンのもたらす風や飛来する破片、雨や高潮による洪水などの災害へ備えるのに、幅広い選択肢で入手できる実験的な、もしくは市販の新たな材料を役立てることはできる。建築環境と悪化するハリケーンの共存手段を理解するには、ハリケーンに耐え得る建築材料と、テクノロジーの最も有益でコスト効率の高い応用方法を関連付ける必要がある。

災害に強い 工法hurricane proof building home destroyed by Hurricane Sandy
ハリケーン・サンディにより倒壊した住宅。新しい建築基準、工法、材料により、ハリケーンによる壊滅的な損害を防ぐことができるかもしれない。[提供: Steve Zumwalt/FEMA]

1992 年のハリケーン・アンドリューの後に強化されたフロリダ州の建築基準は、耐衝撃窓の設置、屋根と壁の接合部の強化、ステープルではなく釘を使用した屋根板の固定を義務付けている。事実、この基準に準拠して建設された比較的新しい建造物は、ハリケーン・イルマの直撃にも持ちこたえた

耐ハリケーン工法について FEMA にアドバイスを行っている Federal Alliance for Safe Homes (FLASH) で教育、技術プログラム担当副社長を務めるマイケル・リモルディ氏は「最新の建築基準に準拠していない地域は、かなり小規模な嵐でも大きな打撃を受けることが分かっています」と話している。

固く結ばれた絆 (と木材)

伝統的な木造枠組の住宅は、容易に入手できるアイテムにより、ハリケーンへの耐性を大幅に強化できる。自動車に使われるような耐衝撃ガラスは、一般的なガラスのように粉々になることはない。強風によって窓が割れた場合、吹き込む風によって住宅が加圧され、屋根が吹き飛んで危険な破片が散乱する。リモルディ氏は、新しい屋根の固定工法で強度を追加でき、またスプレーフォーム接着剤 (住宅屋根の内側に塗布され、断熱材としても機能する) は強風にも適していると話す。洪水対策としては、流体静力管水路を使って水を住居へと供給することで、壁や基礎を劣化させかねない洪水による水の滞留を防ぐことができる。

災害に強い 工法 金属コネクター
金属製の特殊なメカニカル コネクターで木造枠組の強度が向上する [提供: FLASH]

「伝統的な木造枠組の住宅は、すべてをどうつなぎとめるかが重要です」と、リモルディ氏。「屋根から基礎に至るまで、全構成要素を機械的なコネクターで結合します。すべての壁が適切に固定され、壁が屋根に適切に固定され、屋根と壁が基礎に適切に固定されてさえいれば、他の工法に匹敵する強度を持った木造枠組住宅を建設できます」。

この目的専用の特殊な金属コネクター (Simpson Strong-Tie などが製造しており、日本ではシンプソン金具の名称で知られる) は、単価数ドルと低価格なので、新規の建設工事へ容易に加えられる。リモルディ氏は「コストの上昇は全体の 1% ほどでしょう」と言う。だが、既存の住宅をこの方法で改修するには、もっとコストがかかる。

次世代の材料

耐ハリケーンには、実験的な材料が役立つかもしれない。現在、耐衝撃ガラスの回復力を向上させたガラスのプロトタイプに関する複数の研究が行われている。マギル大学の研究者たちが取り組んでいる曲げられるガラスは、「ミクロ割れ」によって砕けずに折り曲げられるような仕組みだ。ジグソーパズルのような模様の彫刻が、ひび割れの広がりを防ぎ、ガラスの強度を通常の 200 倍に高める。米国海軍研究所 (US Naval Research Laboratory) の科学者たちは、「Spinel」と呼ばれる超硬質セラミックスの「防弾ガラス」材料を開発中だ。この Spinel は、ガラスと同レベルの透明度を有している。

災害に強い 工法 Perez Art Museum Miami
超高性能コンクリートを用いて建設された Perez Art Museum Miami は、無傷でハリケーン・イルマを持ちこたえることができた [提供: Daniel Azoulay Photography]

市場に流通する中で期待度の高い新材料に、超高性能コンクリート (UHPC) がある。ダクタル (Ductal) という製品名で製造されている UHPC は通常のコンクリートの 6 倍の強度を持つが、曲げたり、たわませたりすることが可能。非常に小さな粒径の骨材が使われており、再生材料 (フライアッシュやシリカフューム) が使用されることも多い。炭素金属繊維やポリビニル アルコール繊維を加えることで、ひび割れが生じた後でも材料の屈曲性と載荷強度を維持できる。

ここ 10 年ほどの、米国での UHPC の使用は控えめだが、注目度の高いプロジェクトで重要な役割を果たしている。Herzog and DeMeuron が手がけた Perez Art Museum Miami は、無傷でハリケーン・イルマを持ちこたえることができた。高さ 4.88 m、厚さ 14 cm の内枠に UHPC が使用されており、この内枠は下に行くにつれて厚さ 5 cm まで細くなるが、建物のカーテンウォールをしっかりと支えている。

だが、すべてのケースで通常のコンクリートを UHPC に置き換えられるわけではない。Perez Art Museum を建設した John Moriarty & Associates のプロジェクト マネージャー、ロバート・ノードリング氏は「UHPC は高価であり、その購入と使用にはライセンス許諾が必要です」と話す。こうした追加費用を含めると、UHPC は通常のコンクリートの 8 – 10 倍のコストとなるため「一般的な建設工事の大多数、特に比較的小規模で低予算のプロジェクトでは、費用対効果が見合いません」と、ノードリング氏。ただし UHPC の優れた強度により、必要な材料の量が通常のコンクリートより少なくなり、重量と価格がより効率的になることも多い。

災害に強い 工法 ECC 曲げ
ECC は極度な荷重にも砕けず、しなやかに曲がる [提供: Victor Li/University of Michigan]

ミシガン大学工学部教授のヴィクター・リー氏は、せん断強度よりも展延性を重視した、高靱性繊維補強セメント複合材料 (ECC) と呼ばれるセメント系材料を開発した。「ダクタルを硬い岩とすると、ECC は柔軟な鋼です」と、リー氏は話す。この材料は衝撃や地震力に対して高いエネルギー吸収性能を持ち、大型の建造物や橋梁、車道に採用されている。「例えば、大阪にある 54 階建ての The Kitahama は、耐震性を高めるため建物の中心部に ECC を使用しています」と、リー氏。ECC を使用せず、他の耐震アプローチを採用したデザインと比べると、コストが抑えられ、使用可能なフロア エリアが大きくなっているという。

この ECC は、通常のコンクリートより 2 倍から 3 倍も高価だ。こうした高級材料を使った建設工事は、どのような場所、目的であれば経済的に意味を成すのだろうか? これこそ、MIT Concrete Sustainability Hub (CSHub) が投げ掛ける問いのひとつだ。MIT Concrete Sustainability Hub のエグゼクティブ ディレクターであるジェレミー・グレゴリー氏は、防災力に関する材料分析の最大の転換は、より多くの材料や工法を開発するのではなく、どの工法がコスト効率に優れているのかを地域毎に特定することだと話す。

「人々は、よりエネルギー効率の高い冷蔵庫へ投資する際、そのコストをどう回収できるか考えることに慣れています」と、グレゴリー氏。「初期費用は高くても、運用コストは低くなるということを把握しているのです。ですが、災害関連の損害は一筋縄ではいきません」。この場合は、追加費用を正当化するため、消費者に最悪の事態の想定を求めることになる。

災害に強い 工法 The Kitahama Building 大阪
大阪・北浜の The Kitahama は、耐震対策として中心部に ECC を使用している [提供: Victor Li/University of Michigan]

グレゴリー氏の Break-Even Mitigation Percentage (BEMP) プロジェクトは、特定のエリアにおけるハリケーンによる被害の可能性を 50 年にわたって考察し、予測される損害の量と建物の種類、建設工法を判断している。このデータを、これらの建物の耐ハリケーン工事がコストの有効利用となるのかを判断し、ハリケーンによる損害の回避で期待できるコストの節約によって、どれほどの期間で初期費用を回収できるかを計算するのに活用する。

BEMP は、建築材料の二酸化炭素排出量や、その他の環境への影響を盛り込むような拡張が予定されている。自然災害の状況把握は個別の費用対効果分析に思えるかもしれないが、実際にはサステナビリティの全体的な評価となる。この種の分析を用いることにより、プランナーは気候変動により居住不適格となる危険なエリアや、新しい材料や技術を使用した強度の高い建物によって存続可能なエリアはどこなのかを把握できるようになる。BEMP は、脆弱な海岸沿いの幅広いエリアでハリケーンに耐えうる材料と工法の応用を検討している建設会社にとって図鑑のような存在となり、その経済状況と復興の要望をマッチさせられるようになる可能性がある。