ヒューマノイド ロボット デザインの大きな飛躍が人体に意味すること
駅に着いたら、次の電車の到着は 15 分後だった。そうしたシチュエーションで、15 分待つ代わりに自転車を漕ぐロボットに送ってもらえるとしたら? ドイツ発の研究プロジェクトが進展すれば、それが現実のものとなるかもしれない。
Roboy 2.0 はドイツのミュンヘン工科大学 (TUM) で進められている、人間にできるだけ似たロボットをデザインする意欲的な学際プロジェクトだ。既に自転車を乗りこなし、握手をしたり、話したりすることができる。シロフォンも演奏可能だが、これは演奏に要求される力学を考慮すれば、ロボットにとって極めて複雑なタスクであることが理解できるだろう。
今年夏までに Roboy 2.0 はスタンドでアイスクリームを提供できるようになり、2020 年までには基本的な医療診断を行えるようになる計画だ。この研究は完全なオープンソースで行われ、ロボット工学やヘルスケア、AI、オーディオビジュアル データ処理の分野で、さらなる開発の基盤となる予定になっている。
この 6 年間、ゼネラル マネージャーとして Roboy プロジェクトを統括してきたラファエル・ホステトラー氏は「私たちの目標は、まるで人体のように機能するヒューマノイド ロボットを構築することです」と話す。「人間のように動き、見聞きして交流できるロボットにしたいと考えています」。
その実現のため、100 名を超える TUM 在校生、卒業生からなる幅広い分野のエキスパートのチームが、グローバルな科学者たちのネットワークと連係して、このロボットを開発。そのパートナーには、ストックホルムのスウェーデン王立工科大学 (神経機能代替技術)、香港中文大学 (ロボットをコントロールするためのアルゴリズム)、オックスフォード大学 (人工腱の装着)、TUM (ロボット工学、リアルタイム システム、製品開発メソッド) が含まれる。
Roboy はヒューマン・ブレイン・プロジェクト (Human Brain Project) の一環であり、このプロジェクトは神経科学やコンピューター、脳関連医薬品分野の前進を目的とする、ヨーロッパにおける重要なイニシアチブとなっている。複雑かつノンリニアで、条件により反応にムラがある生体に似せた作りとなっており、人体の仕組みとの類似性から、神経科学者たちが有意義な洞察を得られる可能性がある。ホステトラー氏は、この Roboy プロジェクトは「神経科学分野の研究結果を情報集約するために必要なインフラを提供し、また長期的には人間の脳についての統合的理解をもたらす」ことができるかもしれないと話している。
容量を減らして、機敏性を向上
これほど詳細に人体を機械で再現するには、多大な労力が不可欠だ。エンジニアたちは一般的なロボットのように関節を単にモーターで置き換えるのではなく、3D プリントやジェネレーティブ デザインなどの先進的なテクノロジーを用いて骨や筋肉、腱の再現を行なっている。
「Roboy は、いわゆる“マッスルユニット”を使用して、人体の運動器系を模倣することを目指しています」と、ホステトラー氏。「そのため Roboy のコントロールはさらに難しいものになりますが、例えば外骨格など人体の妥当なコピーとなり、人体に適合するロボット、インプラントや義肢など人体へ組み込み可能なロボットやロボット部品の構築手法に関する、貴重な洞察をもたらします」。
骨のようにみえる Roboy のコンポーネントの機構や重量、組成は重要な役割を担っている。科学者たちが重要なコンポーネントの重量を大幅に削減しつつ同時に安定性を維持させるのには、Autodesk Fusion 360 のジェネレーティブ デザイン機能が役立てられた。
「手の重量を少しでも軽くできれば腰にかかる力を軽減でき、ひいては腰の重量も軽くできます」と、ホステトラー氏。「結果的にすべてのコンポーネントの重量を軽量化することにつながり、Roboy をさらにアジャイルなものにできます」。
Roboy が目標とするのは、自律歩行を学ぶことだ。その最初の一歩として不可欠なのが安定性に優れた軽量のフレームであり、それをジェネレーティブ デザインで実現可能だ。
「ジェネレーティブ デザインの活用を正当化する、2 つの重要な牽引力が存在します」と、ホステトラー氏。「まずは軽量化で、これはとりわけ、頭殻のように重心から遠い部分や、腰のように多方向から力を受ける分厚いパーツに関係します。もうひとつは、多数のパーツをひとつにまとめられる部分で、そこでジェネレーティブ デザインを最も効果的に使用する方法を模索中です」。
現在、ジェネレーティブ デザインは腰の部分の開発に使用されている。その計算がクラウドで行われるため、チームが最初のプロトタイプ開発にかかった時間はわずか 3 日だった。今後ジェネレーティブ デザインは後頭部の開発に使われることになっており、背骨と Roboy の可動部分は中期的に最適化される予定だ。
3D プリントでラピッド プロトタイピングを実現
Fusion 360 で行なったデザインは 3D プリントのプロセスに直接使用でき、作成されたファイルは複雑な手順無しに 3D プリント オブジェクトへダイレクトに変換できる。Roboy 2.0 のパーツのほとんどは、プラスチックに似た材料を用いて、レーザー焼結と 3D プリントで作成されている。
「従来の切削加工ではパーツの納期は 6-8 週間になるため、アジャイルな製品開発にはとても間に合いません」と、ホステトラー氏。「私たちは通常、それと同じ時間で 3 つから 4 つの新しいバージョンを開発しています」。
あらゆる形状を自由に作成できる 3D プリントの技術により、チームはコンポーネントを、製造上の限界で課せられる制約にとらわれずデザインできるようになっている。ツールにとらわれない生産は、時間とコストも節約する。
人体 2.0
Roboy 2.0 の第一の目的は研究開発だが、開発により得られた知見は既に他分野へ影響を与えている。「Roboy には運動器系が用いられているため、神経科学分野外で一般的に使用されているモデルに比べて、より生物的な人体モデルが生み出されていく可能性をもたらします」と、ホステトラー氏。
その意味で、このモデルはイノベーティブな人工装具の開発に計り知れない価値を持つ。神経科学者たちはまた、600 を超える筋肉の相互作用が連係する人体の仕組みの理解向上に、Roboy 2.0 プロジェクトから得られた知識を用いている。
「Roboy は、生体を制御するために克服すべき点と同じ複雑性を提示します」と、ホステトラー氏。「生体系に比べてずっとシンプルで、力学的に大きく異なる産業用ロボットでなく、Roboy のような複雑なロボットをコントロールできるようになれば、ずっと信頼性の高い検証結果が得られるでしょう」。