モノのコミュニティがジャズバンドのような即興演奏で人命を救護
子供がサッカーボールを追いかけて道に飛び出し、車にはねられることは、全ての親にとって究極の悪夢だ。こうした子供の危険な運命を、センサーやマイクロプロセッサー、そしてIoTで永遠に変えられるのだとしたら?
現在は、生存している人以上の数のマイクロプロセッサー (モノをインターネット接続デバイスにできる小さなコンピューターのようなもの) が毎年製造されている。
センサーやマイクロプロセッサーは、既に洗濯機や布、サーモスタットや車には搭載されている。例えばエアバックの適切な圧力は実際に膨張が起きる前に、体重をもとにカーシートの下に留められた引っ張りセンサーとマイクロプロセッサーが決定している。
これはまだ始まりにすぎない。オートデスクの元CTO、ジェフ・コワルスキーが「ジェネレーティブデザイン」の記事で提言しているように、IoT = モノのインターネットは発展を続けることで真の“モノのコミュニティ”へと進化する。それが共同して問題を解決し、ひいては生命を助けることとなるのだ。
もう一度、少年が道に飛び出す状況を考えてみよう。だが今回は彼の周囲にある“モノ”が、楽曲を即興演奏するジャズアンサンブルのように行動を起こす。そのブロックの端にある信号が赤に変わり、そこへ向かう車を運転していた注意散漫なドライバーへ警告を発してスローダウンさせる。標識内のセンサーが、通りの先の別のセンサーへとメッセージを送信。子供が轢かれそうな数秒前の段階になると、車道から出たスパイクが車を完全に停止させる。
人間による車の運転が、信じられない過去の出来事に
最終的には、注意散漫なドライバーそのものが存在しなくなる。オートデスクの前CEO、カール・バスは「Forbes」誌に「今から50年後には、我々の子や孫の世代が過去を振り返り、“昔は自分たちで車を運転していたなんて信じられない”と言っているでしょう」と述べている。
Googleは2015年夏、北カリフォルニアの路上で自立自動車のテストを実施した。同社の公式ブログによると、自動運転車の走行距離は既に160万kmに到達し、これは「典型的な成年のドライブ経験」の約75年分に相当する。Googleが目指しているのはヒューマンエラーによる事故の数を減らすことで、米国の国家道路交通安全局によると、それは全衝突事故の94%に達する。
少年の話に戻ると、彼は驚かされはしたが、周囲にある全てのセンサーと機械が、彼の生命を助けるというひとつの目的のために協力して助かった。これこそが「モノのコミュニティ」の未来だ。
優秀なジャズバンドが即興演奏するのを見ると、プレイヤーたちがお互いの心を読み取っているのが分かる。サックスプレイヤーがソロをとっているときは、ドラマーがソフトに演奏。ピアニストはサックスプレイヤーがソロを終えるのを待って、バンドをグルーヴに連れ戻す。各プレイヤーは、リードするタイミング、フォローするタイミングを聴覚により本能的に理解する。
センサーと機械も、こうしたことを行えるようになる。お互いにわずかなコミュニケーションを行い、決定を下して行動を起こす。DaVinci Instituteのシニアフューチャリスト、トーマス・フレイによると、それは運転手が示す暴力性とは関係なく行われる。
「センサー情報の連続的な流れにより、自動車はその環境と共生関係を築くようになります。それは現在の、感情に大きく依存する人間と道路の関係とは全く異なるものです」。
現在Googleの車で実現しているものは、明日には皆のものになる。まさにムーアの法則だ。だがそうした知性が身近なものになる前に、モノのコミュニティは、例えば医療ミスの発見と削減など、別の有意義な方法でコラボレーションを行える。複数の医療機器が密接に協調するバンドのようにリアルタイムで一緒に動作することで、読者の息子や叔父、祖母が、手術から生還して健康な状態で帰宅する機会を、より多く提供できるのだ。
ただし、それは正しく行われる必要がある。明らかにリハーサルを行っていないバンドを聞いたことがあるだろうか? 不協和で、リズムも滅茶苦茶だ。多数の3歳児たちが誕生日パーティで「マミー!」と同時に叫んでいるのを想像してもいい。家にあるものが何でもインターネット接続可能だとしても、それで生活が改善するのでなければ、何の意味も無い。全てが一斉に注意を払うように呼びかけ、読者は「違うよ、Siri、お前じゃない。今はサーモスタットに話しているんだ。待て! 止めるんだ! 洗濯機! 停まれ!」と叫ぶことになるかもしれない。IoT機器は、場合によっては人間のオーナーを無能な者に見せることもあるだろう。
モノのコミュニティが洗練された演奏を実現
音楽の世界には、完璧にオーケストラ化されたコラボレーションが存在する。例えばアレクサンドル・デスプラによるアンサンブル映画「ムーンライズ・キングダム」の「The Heroic Weather-Conditions of the Universe」がそうだ。各音符間の休符が、音符同様に重要になっている。この楽曲にはハープやチェロからビブラフォン、B3オルガンまで30以上の楽器が使われているが、それぞれが空間を尊重し、適切なフレーバーを加えている。
バンドが練習を重ねれば、それだけ音楽が洗練され美しいものになる。それはモノのコミュニティでも同様だ。例えばProject Dreamcatcherは実験的なジェネレーティブデザインプラットフォームであり、デザイナーの目標をもとに、幾何学的な拘束と物質科学を避けながら、デザイナーだけでは決して思い浮かばなかったような、さまざまなデザインの代案を提供する。
バンドを結成するミュージシャンのようにDreamcatcher (と人間) のデザイナーは3DプリントプラットフォームのSpark、機械学習のDesign Graphとコネクトして車のシャーシデザインの助力を依頼し、より優れた製品を生み出すためにコラボレーションできる。
Design Graphは1億 5,000万ものデザインパーツとコンポーネントという驚異的な量の幾何学データを採掘し、そのカテゴリー分けとレーベル付けを実行。シャーシの基本的なコンポーネントのデザインに時間を浪費する代わりに、DreamcatcherとSparkがDesign Graphと即興演奏を行って適切なパーツにアクセスし、車の全体的なデザインを革新するために、より多くの時間を割くことが可能になる。
これはまるで複雑に入り組んだ音楽を演奏するために練習する、うまく調和したバンドのようだ。モノのコミュニティが、全てが完璧にチューニングされて丁寧に組み上げられたジャズ・アンサンブルのように進化するなら、コネクトされたものがコラボレーションや即興演奏を行い、生命すら助けることになるだろう。