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ハレッシュ・ラルヴァニ氏が語るバイオミミクリーと自らデザインする建築

バイオミミクリー X-POD 138 ハレッシュ・ラルヴァニ

バイオミミクリー デザインのフューチャリスト全てにとっての、至高の目標。それはジェネレーティブ ジオメトリを用いて自力で組立、修復を行い、自らを成長、発展させていく建造物や構造体だ。ゲノム情報のように、材料自体に組み込まれた情報を元に自らを構築していく、樹木のように成長するビル。

そこに到達するには、建築だけでは十分とはいえない。建築と製造における、この根本的な改革の研究 (創造と進化と呼ぶべきか?) で最も成功を収めるデザイナー、ハレッシュ・ラルヴァニ氏は、非常に学際的なツールを用いて探求を進めており、そこには生物学、数学、計算機科学、さらに注目すべきことには芸術も含まれている。

回転するプレートレットを使用して曲面を自己硬質化する新発明の Xurf (eXpanded SURFaces) [提供: Haresh Lalvani]
 
2012 年の GR FLORA シリーズにレーザーカットで刻まれたナンバーコードにより、自己成形プロセスが確立された。ラルヴァニのチームがコードのひとつの数字を変更すると、表面部分に比較して外周が大きくなり、皺が寄った [提供: Haresh Lalvani]
 
2012 年の GR FLORA シリーズにレーザーカットで刻まれたナンバーコードにより、自己成形プロセスが確立された。ラルヴァニのチームがコードのひとつの数字を変更すると、表面部分に比較して外周が大きくなり、皺が寄った [提供: Haresh Lalvani]
 
X-Table デザイン (2010 年) [提供: Haresh Lalvani]
 
>Xurf Ripples (2007 年) [提供: Haresh Lalvani]
2008 年のこの自己成形プロジェクトの表面は、熱や金型を使用することなく、力が加わることで独自の波形を形成している。この自己成形の実験では、甲殻 (甲虫や蟹の外骨格のようなもの) の形成に関する考察が示された [提供: ハレッシュ・ラルヴァニ]

 

Xurf Curved Space (2008 年) [提供: Haresh-Lalvani]
 
2009 年の自己成形例 (開口部がそれぞれ異なる) は、ビルのファサード、天井、壁への転用のアイデアを提示している [提供: ハレッシュ・ラルヴァニ]

Pratt Institute Center for Experimental Structures (プラット・インスティテュート実験的構造センター) の共同設立者であるラルヴァニ氏は、自己成形の方法に関する「コード化情報を物質がスタートさせる」ようなシステムをデザインしている。これはある意味で、生物における幹細胞や遺伝子のようなものだ。こうした生物学的システムは「ソフトウェアとハードウェアが同一である唯一の場所」だとラルヴァニ氏は話す。

ラルヴァニ氏は、地面から芽を出して低木のように伸びるビルを設計するに至るには、まだまだ時間がかかると言う。だが芸術や科学、建築についての広範な仮説を長年にわたって詳細に検討した結果、彼のプロトタイプは、あるひとつの具体的かつ人道主義的な用途を指し示すようになった。物理的なプロセスを、数十億年にわたって進化してきたゲノム システムに似た形状符号化に組み合わせたこのテクノロジーの用途のひとつに、もともと想定される耐用年数が短い建造物、たとえば素早く展開できる災害復興住宅などがある。

ラルヴァニ氏は、金属製造メーカー Milgo/Bufkin との長年にわたるコラボレーションの一環として、2D の金属製穿孔シートを堅牢な 3D 構造へと変化させる方法を見出した。このプロセスは Milgo/Bufkin の特許技術だが、その概要はコンピューター制御されたレーザー カッターを使用してシートに一定のパターンで孔を開け、それを 3D オブジェクトに伸張するというものだ。穿孔により生じるスペースを引き離すために特定の力が加えられるが、単に重力が使用されることもある (紙に渦巻き状の切れ目を入れて作った「らせん」の一端を引っ張り、3 次元化するところを想像すると分かりやすいだろう)。

haresh lalvani dome bowl gif

あるプロジェクトを紹介すると、平坦な円板に孔を開け、孔と孔の間のとじ目が広がって半球体が形成されるまで、その表面上でボーリングの球を転がす。「こうして成形の新たな手法を考案したのです」と、ラルヴァニ氏は話す。

ラルヴァニ氏の装置には、1 分以内に湾曲させて成形できるものもある。原材料は単なる金属平板なので、コンパクトで運搬も簡単だ。そのどちらもが、この製造手法が災害地域に最適である理由となっている。フラットパックされた金属板をトラックで運搬し、広げて伸ばし、布地の覆いをかぶせるのであれば、最低限の力仕事で簡単に行えるだろう (木材とくぎで建設される連邦緊急事態管理庁の出張所が完成する何ヵ月も前に)。

家具や小規模ビルなど、サイズはさまざまだが、ラルヴァニ氏の作品 (Autodesk AutoCAD などのソフトウェアを使用) には好奇心をそそる彫刻的な特徴があるが、それは建築だけでなく、芸術からも影響を受けたものだ。構造は網目状の穿孔に起因しており、双曲面と放物面は SF 映画に登場する巻き毛のように伸びる。

ラルヴァニ氏はこの手法を用いて、イグルーのような形をした X-POD 138、金属製の線が細い糸のように伸びて石筍のような形となる X-TOWER 88.2 など、パビリオン サイズの構造物を幾つか製作している。これらのインスタレーションは滑らかで有機的な姿をしている。生命体の成長手法を取り込み、非生命体を恒久化させる生物力学的な総合体と言えるだろう。そして、この描写は真実からさほど遠いものではない。

セコイアに捧げられたハレッシュ・ラルヴァニ氏の自己成形プロジェクト X-TOWER 88.2 は、単体の金属板から成形されており、ニューヨーク州ゲントの Omi International Arts Center 内の The Fields Sculpture Park に展示されている。

細胞内の遺伝子に、有機体全体の組成に必要な情報が含まれるのと全く同様に、これらのインスタレーションは孔が開いた不活性な金属板ではあっても、元の形状に組み込まれた自己成形に必要な情報全てが含まれている。インスタレーションには、それらを 3D 形状へと活性化させる力が必要だが、それだけだ。ラルヴァニ氏は、従来からある金属成形の手法 (金型など) を拒絶している。それは材料やエネルギー効率への懸念からではなく、金型プレスの工程は、上記の手法と比較すると、むしろ劣っていると考えるからだ。

金型を使用する場合、必要な形状を得るために予め設定されたゴールがあり、材料自体には、金属が金型にプレスされるとどのような形状になるかの情報は全く含まれていない。「つまり、形状に関する情報はプロセスの外に置かれているということです」と、ラルヴァニ氏。「私は、プロセスの情報が形状に伝わり、事前に決められたデザイン形状が不要な状況を望んでいます。形状に自らをデザインさせたいのです。私たち人間は、型が無くても成長します。樹木も、型無しに成長します。自然は私たち人間よりも遥か前に、反重力の装置を発明する必要がありました。あれほど細いヤシの木の幹でも、ハリケーンに耐えられます。でも細身の超高層ビルが実現したのは、つい最近のことです」。

haresh lalvani VA installation proposal
ロンドン・ヴィクトリア&アルバート博物館の「インスタント建築」野外パビリオン用に提示されたイメージ。作品は工場からフラットパックの状態で搬入され、現場で「生で」展開される。完成すると約 4.3 m に到達する [提供: ハレッシュ・ラルヴァニ]

ラルヴァニ氏には、まだ答えを出すべき多くの問いが残っている。彼は、穿孔プロセスを自動化するソフトウェアを開発したいと考えている。これがあれば、希望する形状を入力して、コンピューター制御のマシンに必要な切削を行わせたり、荷重の自動プロセスを実行させたりすることができる。また、構造を覆うための品質に優れた伸縮性の生地や充填 (インフィル) 材料も必要だ。

こうした問題を解決するため、ラルヴァニ氏は今後も人文科学と科学の境界を行き来し続けることになるだろう。ラルヴァニ氏は、境界を越えたいという意欲は、物事がよりシンプルだった昔を反映したものだと話す。
「子供の頃は皆が芸術家であり、科学者でした」と、ラルヴァニ氏。「それと違いはありません」。

もしかすると、形式ばった専門職や分野により作り上げられた恣意的な境界から世界を解き放つのは建築家なのかもしれない。建築が明白かつ独自の方法で芸術と科学を組み合わせているという事実を抜きにしても、ラルヴァニ氏は建築を「最も浸透性に優れた分野」と呼ぶ。なぜなら建築はあらゆる分野につながることができるからだ。ラルヴァニ氏が生み出した自己成形する穿孔金属板のように、新世界は一夜にして姿を変え、既存の世界に同化することができるかもしれない。