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さらば、ラッシュアワー: 自動運転車と渋滞ゼロの未来の到来

autonomous cars

都市や交通システムを具現化し、それを管理する能力が現代社会の最大の課題を解決しようとしている。そう、私の通勤の問題だ!

私が自宅を出てからボストンのオートデスクに着くまでの通勤時間は、常に謎めいている。

調子がよければ、コネチカットから 2 時間でたどり着ける。だが 3 時間半かかる日もある。同じルート、同じ距離なのに、その結果は予測できない。晴れなのか雨なのか、そして季節も問わず、いつ会社に到着できるのかは常に推理ゲームのようだ。

通勤の苦労は、企業で働く者の試金石であり、同僚や取引先と、最もひどい通勤を経験したのは誰なのかを競い合うゲームのようでもある。ある種の武勇伝だ。

それだけでなく、これは生産性の大いなる無駄遣いでもあるのが大きな問題だ。

私個人の通勤の苦労はさておき、この問題を建築家として考えると、あらゆる交通は経済活力の指標として捉えることができる。世界の人口がますます都市部に流入し、人々が移動して出社する (あるいは遊びに出かける) 必要があることを意味しているのだ。

こういった活動に伴い、当然ながら大気汚染や騒音公害、光害も、またエネルギーの大量消費も生まれる。さらに増大する一方の、気候変動に関する懸念も引き起こしている。

世界がますます都市化するにつれて、このような代償も顕在化しつつあり、この問題を克服する必要があることは誰の目にも明らかになってきている。

今や、渋滞にはまった、じりじりと進む車の中にいなくとも、こういった問題を理解できるようになった。ますます正確になっているコンピューター モデル (Google Maps を支えているモデルなど) は、ユーザーが渋滞に巻き込まれる前に交通状況を予測してくれる。ただし、これには限界点がある。確かに交通量は確実に成長しているが、そのうち通勤で無駄になる時間があまりに長くなり、中心部での仕事に興味を示さなくなって、やがては郊外に留まることを選択するようになる。

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公共交通機関という選択肢があるにしても、自動車がすぐに消えてなくなることはないため、相当の計画や投資、イノベーションが必要だ。そうしたイノベーションのひとつに自動運転車があり、これが交通渋滞の重要な解決策となるかもしれない。

ただし、そこに行き着くまでには道路網とその機能に対する、より深い理解が必要だ。

全てを総合
コンピューター モデルを用いた交通渋滞のシミュレートは、可変要素が多く、非常に複雑な問題だ。人々の往来の経済的な側面、また そういった行動を起こす理由を理解する必要がある。自宅から勤務先まで、どれほどの距離が通勤可能範囲として許容されるだろうか? 交通システムはどれほど機能しているか? 1 日の交通状況の変化はどうか? 交通量を増加させる他の要因はどこにあるのか? 近い将来に郊外がなくなることはないし、人々は居住エリア外の場所に勤務することが多い。これは一体何を意味するのか?

今も都市計画、つまり人々の動きを促進して彼らの居住地を整理する戦略が必要なのだ。これら全てをシミュレートし、住宅供給や道路、職場、地形、都市計画のその他の要素を含めた動態を理解するのにテクノロジーが役立つ。オートデスクは現在、Project Commuter という名の、新しいテクノロジー プレビューを実験中だ。このテクノロジーは、車や自転車、公共機関、さらには徒歩とその移動手段に関係なく、ある点から別の点まで人々がどのように移動するのかをシミュレートする。

分かりやすい例を挙げよう。テナントが入るオフィスビルには、そこで働く人々が日々一定数出入りしている。それにより生じる往来の流量を、道路シミュレーションとして分析可能だ。そこから種々の制限速度や信号パターン、制御フローの影響を検証することもできる。公共交通機関についても同じだ。自動車の起点と終点全てを統合することでモデルが得られる。

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渋谷駅前のスクランブル交差点は世界でも最大級の規模だ。Project Commuter は一斉に、さまざまな方向に交差点を渡る人の波をモデル化する

プランニング モードでは、これらのモデルによってオフィスビルの数と、人のために必要な交通手段の関係を総体的に検証できる。これはコンピューターの得意分野だ。

全て当たり前のことのように思えるかもしれない。だが、このこと本当の利用価値は、自律走行車両制御や「自動運転車」を、往来とその問題の管理に活用できるようになることだ 。

搭載さえすれば、きちんと機能する
自動運転車の研究開発は進んでおり、取り組んでいるのは Google だけではない。とはいえGoogleは、カリフォルニア州車両管理局 (DMV) が発行した 29 の自動運転車の公道試験認可のうち 25 を受領している。

テスラの最新モデルには、既に自律走行コントロールが搭載されている。車内でスイッチを入れれば、コンピューター システムに車両のコントロールを委ねることができる。そのうち、路面に埋め込まれたセンサー自体が運転中の車の動きと距離を計算し、その車を含めた交通システム全体を管理するためのリアルタイム情報を車両に提供するようになるだろう。

これと同じテクノロジーの多くは、昨今テレビのコマーシャルで見かける車両で実際に使用されている。GPSや自動ステアリング機能、近接センサーは、駐車とその際の空間判断に役立っている。やがて、こういったシステムは道路上の全ての車両をつないで制御するようになり、個人の判断の多くを排除することができるようになる。何かを食べながらハンドルを操作したり、レーンをしょっちゅう変更して交通を妨げたりするなど、個人の挙動こそが交通ネットワーク全体のスピードを落とす原因となっているのだ。

もちろん、このような変化は一夜にして実現できるものではない。ここ米国では、人々は自分自身で運転することを好む。だが、ボストン中心街まで約 65 kmの地点(渋滞が始まる地点)に到達した時点で自動運転制御に切り替えられ、それが 30 分の通勤時間短縮につながるとしたらどうだろう? 私なら毎回利用して、その引き替えに車の運転を諦めることも厭わない。

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2014 年 12 月に公開された、Google による初の自動運転車両プロトタイプ・ビルド [提供: Google]

このシステムへの移行経過は、高速道路料金の現金支払いからETCへの転換の過程に似ているかもしれない。未だに現金払いも可能だが、代償として長い行列に並び順番を待つことになる。だがETCという自動システムを使用すれば、走行しながらゲートを通過できる。すぐに変化が生じたわけではなく、人々がこのプログラムを利用するようになるには多少の時間が必要だった。

恐らくは運転自動化にも、同様に段階的なアプローチと社会の変化が起こるだろう。その効率性を人々が理解し、自動運転派に加わたいと思う人が増えるにつれ、まずは 1 車線の自動運転レーンができ、それが2車線と増えていくに違いない。

もちろん、これで全てが解決するわけではない。自動運転車が全てを解決するわけではないし、公共交通機関とのバランスの取れたアプローチも必要になる。だが、それはまた別の話だ。

残すはコストの問題
建築家として、私はよく「資金さえあれば、それを可能にするテクノロジーはある」と言っていた。それではインフラのこうした大きな変化のコストを、肩代わりしようと名乗り出る者はいるのだろうか? 交通渋滞は今後も私たちの効率や環境、忍耐を低下させていくのだろうか? それとも、誰かが変革のコストを引き受けてくれるのだろうか? 他の多くのインフラ課題同様、これは何よりも投資の問題だ。

私の通勤時間が 4 時間に達するようになる前に、この問題に答えが出されることを願っている。

著者プロフィール

フィル・バーンスタインは建築学士号と建築学修士号を取得したイェール大学建築学部で1988年から教鞭を取る建築家・テクノロジスト。以前はオートデスクのバイス プレジデントとして、BIMテクノロジーに関する同社の将来ビジョンと戦略の策定を担当していました。オートデスク入社前は、ペリ クラーク&パートナーズ・アーキテクツでプリンシパルを務め、メイヨークリニック、ゴールドマン・サックス、レーガン・ワシントン・ナショナル空港のプロジェクトなど、複雑な依頼を数多く管理。著作には『Machine Learning: Architecture in the Age of Artificial Intelligence』(2022年)、『Architecture | Design | Data - Practice Competency in the Era of Computation』(2018年)、『Building (In) The Future: Recasting Labor in Architecture』(2010年、Peggy Deamerとの共著) があり、技術、実務、プロジェクトデリバリーに関するコンサルティング、講演、執筆活動を幅広く行っています。アメリカ建築家協会フェロー。

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