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GISとBIM/CIMのコラボレーションが生み出す新たなワークフロー

BIM GIS 概略設計
計画に基づいた新設道路を InfraWorks 上で概略設計

2010 年に正式版が公開された Google マップをはじめ、この 10 年ほどで地図検索サービスは生活に不可欠なものになった。無限にスクロールできる革新的な地図は、従来の紙地図の販売を激減させただけでなく、地図の画面上にさまざまな情報を重ねて表示、分析する機能によって、さまざまなサービスを提供する基盤ともなっている。

道路や交通機関のルート案内に加えて、交通状況の表示、飲食店や施設の混雑具合や評価も提供されるようになるなど、こうしたサービスの利便性は高まる一方だ。このように位置に関する情報を持ったデータ (空間データ) を総合的に管理・加工し、視覚的に表示することで高度な分析や迅速な判断を可能にする技術は GIS (Geographic Information System: 地理情報システム) と呼ばれている。

GIS により、さまざまな情報を地図上に可視化し、情報の関係性やパターン、傾向を解析することが可能だ。小売りや飲食サービス業では、新規出店時の市場調査に、周辺住民の世帯数や年齢分布、交通量や競合店舗との距離などの総合的な分析に活用。また、都市計画や道路計画から上下水道や河川の計画、ライフラインの管理など、建設業に関連する多くの分野でも使われている。このシステムと BIM/CIM がコネクトし、コラボレーションすることで、さらに新たなワークフローの実現が期待できる。

ArcGIS Online から InfraWorks へ直接取り組み
土砂災害危険区域を ArcGIS Online から Autodesk InfraWorks へ直接取り組むことが可能

GIS とのコラボレーションが設計にもたらすメリット

土木・インフラの設計の際には、既設道路や埋設管、用地情報から、断層や土砂災害危険地域などの環境情報まで、さまざまな要素を考慮する必要がある。だが従来は受注者が各部署で管理されている専門情報や台帳図を集めて回らなくてはならず、設計業務の初期段階はデータ収集と整理に大半の時間と労力が費やされてきた。有償・無償で提供されている各種の GIS データを活用できれば、大幅な効率向上が実現可能だ。

阪神淡路大震災以降、各機関の持つ情報をより効率的に利用すべく、政府は GIS の活用に取り組んでおり、国土数値情報や、街区や大字・町丁目レベルの位置参照情報は国土交通省の GIS ホームページ で、また各府省が実施する統計調査の情報は、総務省統計局が整備し、政府統計の総合窓口である e-Stat から利用可能。その多くが、GIS 間でのデータ相互運用におけるオープン標準である、シェープファイルと呼ばれるファイル形式で提供されている。

これらのデータは、断層など土地に関するデータや道路や鉄道の情報とともに、Autodesk Civil 3DInfraWorks のような土木・インフラ設計ソフトウェアなどで読み込むことで活用可能。だが、小さくても市の単位で提供され、TB オーダーの巨大なファイルから、例えば 1 km 四方など、実際の設計に必要な範囲を取り出す作業には、かなりの手間と時間が要求される。

ArcGIS Online により、活断層や土砂災害警戒地域などの情報を重ね合わせた地形図のデータの表示や利用が可能 (EsriⒸ)

建物エクスプローラーでは建物を 3 次元で表示できる (EsriⒸ)

GIS 分野で世界的なシェアを誇る Esri が運営する ArcGIS Online は、こうした問題へ容易に対応できる。ArcGIS Online は、GIS 業界で標準フォーマットに位置付けられるシェープファイルの提唱者でもある同社が、マップの作成、利用、管理を行えるポータル環境を提供するクラウド GIS。このサービスと連携可能な InfraWorks では、設計者が必要とする範囲のモデルを作ると、日本全国のデータからその範囲だけをクリップして持ってこられるなど、非常に便利な作業環境を構築できる。

さらに GIS 上で解析を行った新設道路の最適ルートを取り込んで、それをもとに設計をスタートすることも可能。これらの情報をもとに、設計基準に基づいた道路線形や縦断計画、橋梁やトンネル区間、横断形状を 3 次元上で検討することで、周辺環境を含めた適切な設計を行うことができる。

Autodesk Civil 3D による、ビジュアライゼーションを含めた土木設計の詳細な検討

Autodesk Revit による構造物の詳細な検討

GIS と BIM/CIM のコラボレーションで見える未来のワークフロー

他国に目を向けると、英国では国内で BIM を義務化し、将来的には 3 次元のモデルをデータベースとした、仮想の都市 (デジタルシティ) を持とうとしている。これは、GIS をそのプラットフォームとして、いろいろな施設をデータとして入れて管理し、そこから切り出したデータを次の事業に提供して、その設計・施工後には成果物であるデータを戻すという取り組みだ。これにより、GIS のデータ更新をどう行っていくかという、従来の課題も解決されることになる。それを標準化していこうというのが、世界的な潮流だと言えるだろう。

国内でも BIM/CIM の推進が進められると、CIM は必ず位置情報を持つため、将来的には構造物の位置がだんだん特定されるようになる。こうした情報を蓄積していくプラットフォームとして GIS が有望視されている。今後、国のデータや地方自治体のインフラの情報がデータベースで管理されるようになると、設計に必要な条件をワンストップで揃えられため、ユーザーにとっては非常に便利な環境が実現することになるだろう。

著者プロフィール

井上 修。大学卒業後、航空測量会社に入り、10 年ほどトータルステーションを使っての現地調査、図化機を使った写真測量や GIS データ作成などに従事。その間、カナダのカルガリー大学に GIS の勉強で 1 年滞在。現在はオートデスクで、土木分野の技術を統括するサブジェクトマターエキスパートとして BIM/CIM の普及推進のため活動している。Civil User Group 幹事。オープンCAD フォーマット評議会理事。Building Smart Japan 土木委員会委員。

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