在宅ワークからハイブリッドワークへ: アフターコロナの働き方
2020 年は働き方の地殻変動の年であったと、IDC Japan 株式会社の市川和子さんは言います。同社の調査による、国内と海外のデータに基づいて分析した、アフターコロナの働き方とはどのようなものなのかを語っていただきました。
新型コロナウイルス感染症が急速に広まったことで、日本でも在宅勤務がコミュニケーションや作業のデジタル化が加速し、いろいろな変動が起こって、企業の制度や文化に大きな変化がもたらされました。今後、世界は在宅ワークからハイブリッドワークへと変わっていくと言われています。このハイブリッドワークとは、オフィスを中心としながら、オフィス以外の場所で働くという選択肢も従業員に与えられる、ということです。
ワクチン普及後の働き方
企業で DX に関わっている方々に IDC がアンケートを取ったところ、今年 3 月の時点では約 63% の方が主に自宅で働いていることがわかりました。しかしワクチン普及後にはどういった状態になるかを聞いたところ、自宅で働く方は 30% 程度、毎日オフィスで働くという方が 60% 以上という回答になりました。建設や製造に関しては、週 3 回以上オフィスで働くという方が 50% 以上、毎日オフィスで働くという方は 70%以上でした。この職種だとフィールド寄りでややオフィスに偏った働き方になることが予想されますが、同じ調査を米国でも行った結果、日米での答えがそれほど変わりませんでしたので、日本でも米国と同レベルのハイブリッドワークが浸透していくと考えられます。ワクチン普及後にはオフィスが主体になることは確かですが、オフィス以外の場所である程度定期的に働く人が出てくる、ハイブリッドワークが定着していくだろうということがわかります。
Google、Microsoft、Salesforce、Facebook、Cisco といった世界のリーディングカンパニーは、ワクチンが普及した段階でハイブリッドワークに移っていくことを表明しています。こうした IT 企業はコロナ禍以前からフレキシブルな働き方を提言していましたが、現在ではソニー、Ford、LIXIL、トヨタ自動車、アサヒグループなどでも在宅勤務を正式に取り入れ、オフィスワーカーだけでなく、工場で働く方にも柔軟な対応をするための取り組みが既に始まっています。このように、既にハイブリッドワークへ舵を切っている企業があるという状況を踏まえ、皆さんの会社ではワクチン普及後の働き方がどうなっていくかを、一度立ち止まって考えてみてください。日本はワクチンの普及が遅れていますが、働き方まで遅れてしまっては困ったことになるでしょう。大切なのは事業継続です。コロナは収まるかもしれませんが、また他の感染症が流行する可能性はあります。そして自然災害はいつでも起こりうるのです。
3 つの領域での働き方
IDCでは「働き方の未来 (future of workstyle)」というフレームワークを作り、3 年前からカルチャー、スペース、オーギュメンテーションという 3 つの領域での働き方を分析しています。
カルチャーは、企業文化です。自律的な働き方、エンゲージメント力の高い働き方のできる人材を育てるために必要となるテクノロジーが、この領域に入ります。在宅勤務の際、上司が部下の働き具合を視認できないときに、どう勤務時間を測定していくのかという勤怠管理に関しては、PC のログを取るなど新しいツールも出てきました。また、身体的なことだけでなく、メンタルの健康も測る、健康管理のための新しいツールも出てきています。
スペースは、いつでもどこでも、好きな場所で働くということです。ハイブリッドワークもこの領域に入ります。また、物理的ワークスペースだけでなく、デジタルワークスペースも含まれます。近年では CRM やマーケティングオートメーションは AI がドライブしており、その精度はどんどん高くなっていますし、物理的にプロトタイプを作るのではなく、ある程度デジタルで目指す精度のものを作ってからプロトタイプを作る、AR/VRでプロトタイプを作るといったこともインテリジェントワークスペースに含まれます。また、バックトゥオフィスの際、例えば顔認証や体温の検知をワークスペースに入る前に自動的に測定するツールも取り入れられています。
オーギュメンテーションでは RPA が代表的なソリューションですが、企業内のチャットボットも、疑問に思った時にすぐに答えて欲しいというものが、自動化ツールと親和性が高いという特性により、ITサポートや総務などの分野で活用され始めています。
IDC では今年 1 月からデジタルレジリエンシーという言葉を頻繁に使うようになりました。これはデジタルを活用することで、コロナのようなディスラプションが起こったときに、状態を回復する、変化した状態の中でよりよく復元していくということです。「働き方の未来」を取り巻く IT 環境の今後において、デジタルレジリエンシーがキーワードとなることは間違いありません。カルチャー、スペース、オーギュメンテーションを総合的に俯瞰的に見て、海外も見据えた大きな視野で、働き方改革の先にあるものは DX だと言うことを踏まえて競争力をつけていくことが必須となるでしょう。