よりスマートかつ安全に: 自動運転車の未来への道筋
テスラの CEO であるイーロン・マスク氏は、かつて無人車両を「昔は乗務員が必要だったが現在は自動運転されているエレベーター」にたとえ、自動運転車の問題は「解決済み」だと語っている。その約 1 年後、自動運転機能を搭載したテスラ モデル S を運転中だった 40 歳のジョシュア・ブラウン氏が亡くなった。
ブラウン氏が運転するテスラの対向車線を走っていたトラックが左折した際、テスラは停止せずに突っ込み、トラックが牽引していたトレーラーの下をくぐり抜けた。The Linley Group でシニア テクノロジー アナリストを務めるマイク・デムラー氏によると、モデル S が搭載するセンサーやレーダー、GPS、画像処理ソフトウェアで構成されたコンピューター ビジョン方式の検出システムは、ハンズフリー モードでの使用は想定されていない。「センサーは高速道路における走行のみを考慮しており、対面通行を計算に入れてはデザインされていませんでした」と、デムラー氏。「車の後部は判別できても、トラックのトレーラーの側面は判別できなかったのです」。
自動運転車の未来へ向け、この 10 年で大きな跳躍が実現したことは、業界の専門家の多くが同意するところだ。Google、ボルボ、Uber は公道上で車両テストを行っているし、政府が協力的で天候予測もしやすい都市国家、シンガポールの一部地域では、nuTonomy が一般向けに自動運転タクシー 6 台を運用。デムラー氏は、完全自動運転車の最初の配備は、大学構内や工業団地内など予め指定された経路の走行になると予測している。またフォードや BMW、GM が 5 年以内に無人運転車の販売開始を計画しているが、これは恐らく決められたルートでの商業使用に限定されるだろうと述べている。
最後の一線
とはいえ、テスラの事故は業界には強い逆風であり、ロボット ナビゲーション研究に取り組む MIT のジョン・レオナルド教授が 2015 年の講義で行った重要な指摘が強調されるところだ。約束された安全性と環境上の利点を実現するためにも、自動運転車を公道上で広範に展開するのに先立って、基本認識と意味論的な問題、つまり対面通行時の左折や警察官による交通整理時の手信号の解読、路面が雪に覆われている場合の対応などに取り組む必要がある。
自動運転車の多くは、路上の「目視確認」を LiDAR (光検出と測距) に依存している。これは回転する円筒で、通常は車の屋根部分に取り付けられる。LiDAR は対象物へ向けてレーザーを発光し、その反射光を受光するまでの時間を計測することで距離を測定、360 度の視界で周囲を「確認」できる。だがカリフォルニアを拠点とする企業、Civil Maps の CEO であるスラヴァン・プッタグンタ氏は、高解像度のレーザー スキャナーやカメラ、レーダー、その他の検知ツールが自動運転車の目となるならば、その認知能力は、この生データを参照マップからの情報に付き合わせて解釈する知的アルゴリズムと人工知能でもたらされるようになると話す。
プッタグンタ氏が説明するとおり、Civil Maps プラットフォームは自動運転車に対して、単なる 2D ナビゲーションマップではなく状況察知機能を提供する (Mobileye、Delphi、Bright Box といった競合サービスも同様)。車がその位置を正確に把握し、全方向に一時停止が要求される十字路やラウンドアバウト (環状交差点) でどう行動すべきかなどを含めて、より良好な判断決定を行なえるよう、高解像度 LiDAR 画像からの生データの処理に人工知能を使用している。
ひとたび車の位置が確認できたら、Civil Maps のソフトウェアは、意味マップ データを車のセンサーの視界へ投影することができる。これは、車の意思決定エンジンが環境を状況にあてはめ、交通標識や車線区分線、信号など関連する地物に対して選択的に注意を向けるよう支援する。これによって、コンピューターが解読可能な拡張現実 (AR) マップが作成される。こうして、車が取るべき行動、車が道路設備とどう関わるべきかの情報が車のコンピューターに対して提供される。
「拡張現実の利点として、車両の位置を把握し、信号の上に情報を重ねられる点があります。このため、車は信号を読み取ることができなくても状況を予測できるのです」と、プッタグンタ氏。「これは車線区分線の検知が難しい、苛酷な天候条件の場合にも重要です」。
この企業の AR マップは、車両の意図や把握状況をドライバーと同乗者が理解できるビジュアル ディスプレイも提供する。プッタグンタ氏は、これはそのうち、ドライバーと同乗者が信頼と確信を築くのに役立つようになると話す。
極めて効率的なマップデータ圧縮テクノロジーにより、Civil Maps は、4G 移動体通信ネットワークを介してデータをリアルタイムで更新、共有できる。Civil Maps はシグネチャベースの位置確認を使用している。これは Shazam が音楽認識に音響特性 (シグネチャ) を使用する手法に似ているが、路上の指示に基づいて統合と精緻化をすることで安全性を向上させられると、プッタグンタ氏は話す。
Uber がピッツバーグで行っているように特定の都市をマッピングするために大量の車を市内に送り出す代わりに、Civil Maps ではデータのクラウドソース化と自動車メーカーとの連携を計画している、とプッタグンタ氏は話す。フォード・モーター・カンパニーからの投資を含む、シードファンディングで 660 万ドル以上を調達したこのスタートアップは、3 大陸にわたるパートナーおよび主要な自動車関連 OEM 企業と連携している。
レースは始まっている
Civil Maps は、スイスを拠点とする Bright Box を含む強力なライバルと競い合っている。Bright Box によるアフターマーケットの人工知能車両プラットフォーム Remoto は、既にインフィニティや起亜自動車、現代自動車、日産自動車など、幾つかの自動車メーカーでプロトタイプ検証に活用されている。「勝者となるのは、最小限の数のセンサーを使用して機能するシステムを実現し、多数の OEM メーカーにテクノロジーを提供する企業でしょう」と、Bright Box CTO のアレグザンダー・ディムチェンコ氏。「重要なのは、どこが最大の容量のデータを集めるのかということです」。
ディムチェンコ氏は、サプライヤーとソフトウェア メーカー、自動車メーカー間の競争が、自動運転車のコストを大幅に低下させていると指摘する。Google は 2012 年にデトロイトで開催された初の Driverless Car Summit (無人運転車サミット) で、自動運転車のテスト車両が、7 万ドルの LiDAR システムを含む全装備を含めて約 15 万ドルだと明かした。だがディムチェンコ氏は完全自動運転の SUV、ホンダ CR-V スポーツの 2018 年におけるコストを 2.9 – 3 万ドルと見積もっている。
だが、そのコストが配車サービス事業者や個人の運転手にとって導入可能なものとなっても、まとまった数の自動運転車が公道に配されるようになるには、まだ重大な課題が残っているとデムラー氏は話す。その課題とは、国や地方公共団体による規制への準拠、規格化された走行テストと保険会社からの受容獲得の必要性、スマート インフラの拡大、そして恐らく最も重要なのが、大衆の信頼を勝ち取るという骨の折れる仕事だ。
ビバリーヒルズ市自動運転車両特別委員会の共同議長を務めるグレイソン・ブルーテ氏のような強硬な自動運転車支持者には、メディアへの露出によって市民からの信頼確保を促進することが極めて重要だ。無人運転車は、不注意運転による死亡事故を撲滅し、都市部の渋滞や駐車の問題を解決できる潜在的な可能性を秘めているが、その活用を受け入れる人々の準備を整える必要があると、彼は話す。この春、ある非公表のメーカーがビバリーヒルズの公道で、実環境下で自動運転車のテスト走行を行う予定だ。ブルーテ氏が待ち望んでいた時がやってきた。「これから誕生する子供たちは、自分で運転することはないでしょう」と、ブルーテ氏。「それを理解すれば、世界は違って見えるのです」。