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歴史的建造物の優れたエネルギー効率: 劇団が (解体ではなく) 復元を選択した理由

ブルックリンにある南北戦争時代の倉庫跡の未来をクリエイティブに考えるには、アバンギャルドな劇団以上にふさわしい団体はなかったのかもしれない。

その 1860 年建造のタバコ倉庫は、ブルックリン橋のたもと、「ダンボ」と呼ばれる人気エリアにある。36 年の歴史を持ち、ブルックリンにある別の教会で活動をスタートさせた劇団 St. Ann’s が、この倉庫を初めての常設の活動拠点とするため改修に動き出した当時は、すっかり忘れられ、荒れ果てた状態だった。歴史的建造物の優れたエネルギー効率の実現は、それが可能なだけでなく、最もサステイナブルで景観にも配慮した選択肢になるかもしれない。

芸術監督のスーザン・フェルドマン氏が率いる St. Ann’s は、Marvel ArchitectsBuroHappold Engineering、劇場、照明、音響のコンサルタント業務を提供する Charcoalblue で構成された建築チームを採用した。2,322 平米の複合施設となった St. Ann’s Warehouse には、転換可能な 2 つの多目的劇場、ロビーとイベント エリア、三角形の庭 (ランドスケープ アーキテクトの Michael Van Valkenburgh Associates がデザイン) が含まれている。

歴史的建造物の優れたエネルギー効率 St. Ann's の倉庫の建設
St. Ann’s Warehouse の元となった歴史的建造物 [提供: Charcoalblue]

メインとなるパフォーマンス エリアは構成に応じて 300 ~ 700 人の観客を収容可能で、幅広い作品に対応可能。これまで、女性キャストのみで構成されたシェイクスピアの「ヘンリー四世」や (「X ファイル」で知られる) ジリアン・アンダーソン主演の『欲望という名の電車』などが上演されてきた。

だが、この改築は長い時間をかけてようやく実現したものであり、決して確実なものではなかった。ニューヨーク市歴史建造物保存委員会の承認を含めて、建物の改装には多数の認可を取得する必要があった。また設計上は、パフォーマーとオーディエンスにとって柔軟かつ快適で、エネルギー効率に優れた空間作りが主な問題だった。それを高さ 7.3 m のレンガ製外壁とアーチ型の窓、扉の開口部という、建造物の歴史上、建築学上で重要な要素を犠牲にすることなく実現する必要があった。これが アメリカ合衆国国家歴史登録材 の対象建造物となるための条件だった。

St. Ann’s のプロジェクト アーキテクトを務める Marvel アソシエートのザッカリー・グリフィン氏は「私たちが最初に合意したことに、あのレンガ壁を残すことがありました」と話している。「この壁には触らずに残して、建造物の内側と外側から見える状態にすることを決めました。さらに、劇場としての機能をしっかりしたものにするためには、St. Ann’s にはあと 2 m ほど高さが必要でした。既存の壁の上に何らかの策を施すことが当時から想定されていました」。

energy efficiency in historic buildings construction inside St. Ann's Warehouse
St. Ann’s Warehouse 建設風景 [提供: Charcoalblue and Pavel Antonov]

デザイナー陣は、実質的には建物の内部に建物を作り上げた。これは歴史的建造物である壁を保護する、鋼とガラス、ベニヤ板からなる構造体だ。新しい屋根は上方向にずらして設置されており、屋根と元の壁枠の間にはガラス製レンガによるクリアストリー (採光用高窓) が設けられている。これは、歴史的な建築資材を現代的な手法で用いたものだ。この要素は、この建造物へ数十年ぶりの屋根をもたらした。以前あった屋根は崩落して、建造物は雨風に曝されていたのだ。

暗い舞台裏の空間で作業することに慣れた劇団には、不慣れではあるが好意的に受け入れられたこのコンセプトについて、グリフィン氏は「クリアストリーは、自然光を取り入れる好機となりました」と話す。「立体ガラス製で、音響特性も非常に優れており、一定の 熱抵抗値 (R 値) も示します。上演時のための暗幕も用意しています」。

劇団とデザイナー陣は、プロジェクト開始時からサステイナブルでエネルギー効率に優れたスペースにしたいと考えており、同等のビルで 20% のエネルギー削減を目標とする LEED シルバー認証取得を目指した。だが劇場の空調のニーズは、オフィスのそれとは異なっている。これほど大きな空間を快適な状態に保つのは、ある種の挑戦だった。

歴史的建造物の優れたエネルギー効率 着席 St. Ann's Warehousenergy efficiency in historic buildings theater seating completed St. Ann's Warehouse
St. Ann’s Warehouse 内の座席配置 [提供: Charcoalblue and David Sundberg/Esto]

「パフォーマンス会場として、音響と音量は非常に重要です」と、グリフィン氏。「効率を上げ、騒音を低減できるよう、強制空気加熱システムと組み合わせたエロフィンチューブ放熱ペリメーター暖房システムの使用を選択しました」。冷却システム用の配管は頭上に巡らされ、冷たい空気が上部から下方向に流れるようになっている。デザイン チームは配管を、キャットウォークと共にむき出しのまま残した。これは、この建造物の持つ産業の歴史に敬意を払ってのことだ。

気候変動に対する弾力性を盛り込み、浸水から守ることも重要だった。これは、このプロジェクトのスタートが、ハリケーン「サンディ」が北東部の沿岸地域に壊滅的な被害を与えたわずか数週間後だったことも影響している。浸水による影響を緩和できるよう、チームは重要な電気設備と機械設備の一部を中 2 階と屋根裏へ移動させた。その他のサステイナブルな要素には断熱屋根やトリプルガラス窓、エネルギー回収空調システム、人感センサーがあり、不要なエネルギーの使用と電気系統への依存を低減している。

energy efficiency in historic buildings exterior St. Ann's Warehouse
Ann’s Warehouse 劇場の外観 [提供: Courtesy Charcoalblue]

この新デザインの構想に、チームは Autodesk AutoCAD を含む一連のソフトウェアを組み合わせて使用したが、それが行われたのは、かなりの量の図面が手書きで描画された後だった。「劇団の多くは、ハイテクを利用したビジュアライゼーションに慎重です。彼らは、作品を段階的に、また多くの場合自身の手で作り上げていく職人たちですから」と、Charcoalblue の共同設立者であるギャヴィン・グリーン氏は話す。「彼らにはコンピューター レンダリングが、たとえそれが完成からほど遠いものであったとしても、完成品に見えてしまうのです。だから、初期段階ではそれを強調しないようにしています。物理モデルやスケッチを多用してクライアント チームの関心を引き寄せ、デザイン プロセスに参加するよう働き掛けますが、これではある程度までしか説明できません。その後、作業を 3D モデリングで補完し、クライアントが室内の雰囲気を理解しやすいようにします」。

St. Ann’s (劇団) が劇場の新境地を開拓したように、その建物も、サステイナブルなデザイン、エネルギー効率、弾力性を含めることで文化財保存の新境地を開拓しようとしている。
このデザインは、既にAIA ニューヨーク支部、Municipal Art Society of New York (本プロジェクトに 最優秀アダプティブ リユース賞 を授与)、Urban Land Institute ニューヨーク支部の表彰を含めて幾つかの賞を受賞している。

ビルを解体するのか、修復するのかは重大な選択だが、歴史的建造物はその存在自体が保存理由として考慮されるべきだろう。「建築学上非常に重要な意味を持つため、この歴史的建造物の構造と複雑性には多大な配慮を行いました」と、グリーン氏。「この素晴らしいレンガ壁が、プロジェクト全体の特徴を確立させたといってよいでしょう」。

 

著者プロフィール

キム・オコネルは歴史や自然、建築、ライフを専門とするワシントン D.C.エリアのライター。自然、地方に関する幅広い著述をしており、以前は Virginia Center for the Creative Arts とシェナンドー国立公園のライター イン レジデンス・プログラムに参加していました。Web サイト (kimaoconnell.com) 経由でコンタクト可能。

Profile Photo of Kim O'Connell - JP