障害者雇用を変えることで社会の意識を高めるメキシコの NPO
WHO と世界銀行は、先進国では知的障害を抱えている人の割合が総人口の 0.5-2.5% であるのに対して、開発途上国では 4.6% に上ると報告している。メキシコでは、その割合は 2.8-3.5% で、約 300 万人だ。
Inclúyeme Foundation の活動において、こうした人材は未活用の労働力だ。Inclúyeme は彼らに職業訓練を提供し、有力な雇用企業からの関心を高めようとしている。この NPO は、知的障害や自閉症スペクトラム障害 (ASD) を持つ低所得者層の子供や成人に教育とケアを提供するため、2008 年にメキシコで設立された。2012 年以来、Inclúyeme Foundation の Workplace Inclusion Program は計 145 名の障害者に 43 企業での雇用を提供してきた。
Inclúyeme Foundation でプログラム コーディネーターを務めるシェレザダ・マルチネス氏は「障害に対する見方を変えるには、不安や障壁、固定観念を打ち破る必要があります」と話す。
中南米では、ますます多くの企業がインクルージョン (社会的多様性の受け入れ) プログラムを支援するようになっている。チーム内の多様性の拡大が労働文化や生産性を向上させ、よりクリエイティブで優れた結果につながるためだ。
「家族に頼る生活が生涯続くと言われてきた人々に大きな可能性が開かれるのを目の当たりにすると、満たされた気持ちになります」と、マルチネス氏は言う。
ECLAC (国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会) によると、障害を持つ人々は社会や職場において、インクルージョンに対する巨大な障壁に直面している。米州開発銀行が公表した論文は、障害を持つ人々を職に就かせることの目的は「彼らを“助ける”ためでなく、社会に寄与する能力に価値を見出すことを可能にする、イノベーションと生産性という観点を採り入れるため」だと論じている。
Inclúyeme は、障害を持つ人々とのやりとりに不慣れな企業や同僚が感じるであろう、一般的な疑問への回答を用意している。「何をしたらよいのか? 話しかけるべきなのか、そうでないのか?」、「こちらの言っていることは理解してもらえるのか?」、あるいは「障害者がここでの仕事に問題を抱えた場合にはどうなる?」。マルチネス氏は「新入社員にどう接するべきか、初日から把握できるよう情報を提供しています」と話す。「障害を持つ社員を雇用することは、インクルージョン プロセスの第一歩に過ぎません」。
例えば 43 歳のヴェロニカ氏は、人事部でアシスタントとして働いている。まず、彼女が遂行可能なタスクへと職務に変更が加えられ、その仕事環境への配慮を奨励するためのプロセスが導入された。最初の 1 カ月間、雇用企業にファシリテーターがアサインされ、最大で週 4 日間のアテンドが行われた。 ヴェロニカ氏の経過や訓練の必要性は、毎月評価、判断された。
「ずっと同じ職に留まる必要はありません。企業は、彼らがさまざまな手段で視野を広げることができるよう、昇進や社交行事への参加の機会を与えるべきです」と、マルチネス氏。「これにより、彼らだけでなく、グループ全員の人生を変えることができるのです」。
今年 4 月、Inclúyeme Foundation は CAD プログラムを使用した職業訓練を開始した。「知的障害がある場合、学歴の取得は困難です。学歴がないことは直ちに職探しの障壁となります」と、マルチネス氏。「そこでオートデスクに支援を求めると、より良好な雇用の機会を提供するための訓練助成金が提供されました」。
このプログラムには、コンピューターの基礎技能を有する 16-29 歳の志願者 18 名が選ばれた。新入生がより一般的な学習環境に溶け込むことができるよう、建築家やデザイナー、エンジニア向け研修所であるメキシコシティの Darco で初のモジュールが開講された。11 名 (知的障害者 7 名、聴覚障害者 2 名、身体障害者 2 名) が、Autodesk 3ds Max を学ぶ 5 日間のコースに参加。オートデスクは聴覚障害者のために手話通訳者を準備し、財団は 2 名のファシリテーター (学生をよく知る心理学者) を派遣することで、知的障害を持つ参加者を支援した。
そうした部分以外の内容は、通常のコースと同じだった。このコースの指導は、コンピューターネットワーク工学の学士号を持ち、この分野で 10 年の職務経験を持つホセ・フアン・ゴンザレス氏が行った。「どう対処すべきか不安でしたが、障害を持つ子供たちを教える教師である、妻のリリアナの支援を受けました」と、氏は、このコースにやりがいを感じ、他の志願者に今後も職業訓練を提供し続けたいと考えている。
「生徒たちはソフトウェアの使用方法を学び、私も自己鍛錬と努力について多くを学びました」と、ゴンザレス氏は話す。.
授業中、見つけにくい影の部分に誤りのある画像の問題へ、ある生徒が的確に答えた。この生徒は、これまでファシリテーターや友達を介さなければ意思疎通をしていなかった。「この誤りを見つけたのは彼だけでした。彼は、このコースで学んだ用語を使用して解答を説明したのです」と、ゴンザレス氏。「話を聞いていないのではないかと感じていたのですが、彼は全てを理解していました。この問題は、実は建築家やエンジニアでも正しく回答できないことが多いのです」。
別の生徒、例えば知的障害を持つ 22 歳のエンリケ・バリオス・ベタンコート氏は、3D オブジェクトの作成やアニメーションビデオの制作を学んだ。「頭の中にあったものを作ることができたので最高です」と、ベタンコート氏は話す。
卒業証書の授受は、参加者に強い自己決定感をもたらし、自己評価を高める。「彼らは、自分たちの進歩を明確に理解するのが難しいことが多いのです」と話すマルチネス氏は、プラスの効果は両親や家族も感じていると付け加える。
「彼らに職業訓練を提供し、仕事を得ることができれば、それは家族の収入にもつながります」と、マルチネス氏。「本人の暮らしだけでなく、家族全員の暮らしも向上するのです。こうして、些細にも思えるようなことで生活が変わっていきます」。
「これは社会全体にとってのブレイクスルーです」と、マルチネス氏は続ける。「障害を持つ人々が労働力に加わることができると明らかになることで、より多くの企業が扉を開くようになってきています。これは雪だるま式の効果をもたらします。こうした機会はさらに拡大し、ますます多くの人々に影響を与えるようになっているのです」。