スカンスカが 2023 年までにデジタル コンストラクションへ完全移行
大海原をゆっくりと進む巨大なタンカーが進路を変更するには、長い距離と時間が必要だ。それは大きな建設会社も同様であり、その規模だけを考えても、方向の変更は容易ではない。品質管理や安全性、コストの問題、そして変容のために必要なことを考えると、それだけで怖気付いてしまうだろう。デジタル化が最も遅れている業界 (英文資料) とされ、テクノロジーへの投資が売上のわずか 1.2% に過ぎない建設の世界で、そうしたトレンドに世界的な大企業はどう抗えばいいのだろう。
世界第 5 位の建設会社であるスカンスカ (Skanska) は、より高い競争力を持ったサステナブルな組織となるという、未来に備えた野心的な目標を設定。そのパイロット プログラムとして、Skanska Sweden で建設コストの 20% 削減と工期の 15% 短縮を行い、健康や安全、環境の履歴と社会的責任を 2023 年までに向上させるイニシアチブを開始している。そのために最先端のデジタル テクノロジーを活用し、またドミノ効果で他の国にも波及させたいという意図も持っている。
Skanska Sweden のデジタル イノベーション マネージャー、ヘンリク・ユングベリ氏によると、これは短距離走でなく今後 4 年にわたるマラソンとなり、将来的な未来を見据えたデジタル インフラにフォーカスすることになる。「迫り来る期限にも対応できるような、テクニカルな能力をセットアップしておくことが重要です。目標とするのは、現時点では特定のプロジェクトの納品ではなく、成功を収められるような準備をするということです」。
同じゴールを目指す 2 つのイニシアチブ
これほどの規模の組織を方向転換するには、文化とテクノロジーの根本的なシフトが必要になる。Skanska Sweden の場合、それは DigiHub、Digital Construction Platform (DCP) という、会社レベルでの 2 つのイニシアチブを立ち上げることだった。
DigiHub は、リサーチとイノベーションをプロモートする開発イニシアチブ。ある種のイノベーション センターを設立することにより、会社全体で新たな製品やサービスを採用する前に、まずは小規模でテストを行うことが可能になる。例えばストックホルムの複合コンプレックス、Sthlm New Creative Business Spaces のデザインでは、DigiHub のリードによって新たなテクノロジーを探求することができた。
だが、会社のデジタル化の大半は DCP によるもので、共同作業者やパートナー、協力会社や顧客をアップデートされたテクノロジーでコネクトし、施工プロジェクトで活用される大量のデータを調整する作業が、より優れた方法で行われる。スカンスカは、このプラットフォームに機械学習と IoT センサー、カーボンフットプリントの追跡や現場機器のリアルタイム追跡を組み込む計画だ。
DCP は、時間の節約やミスの削減、現場での変更を回避する「信頼できる唯一の情報源」だと言える。近い将来、過去のプロジェクトからデータを集めて分析を行い、その結果をベンチマークとして使って、プロジェックトのパフォーマンスを向上するために使われるようになる。
皆にパワーを
スカンスカの DigiHub マネージャー、ロッタ・ウィベック氏は「デジタル化を、全ての従業員にとって日常的なものとすることが重要です」と述べる。「テクノロジーによって仕事をサポートし、設計図や納品物、計画に関する情報がリアルタイムで得られるようにしたいのです」。
この転換を行うため、スカンスカはテクノロジーを会社全体に共通するものとはせず、各ビジネス ユニット (それぞれの国) へと分権している。「最大のチャレンジは、テクニカルな部分ではないと思います」と、ウィベック氏。「それは人と、デジタル化に対する考え方です。皆が何らかの影響を受けますが、それぞれ異なる短期的な目標を持つ上、習熟度も異なっていますから」。
より効率的にデジタルで仕事がサポートされるよう、この 2 年間、従業員と部署にデジタル コーチが用意されてきた。スカンスカでソリューション アーキテクト/デジタル リードを務めるパトリック・ヨハンソン氏は「このデジタル コーチは、仲間や協力会社とともに、従業員と現場の橋渡しをします」と述べる。「例えば、環境への影響を向上させるため、カーボンフットプリントのデータを集めています。オートデスクとの協力により、設計プロセスで最適な材料を選択し、異なる材料によるインパクトを確認することができます」。
基礎が大切
こうした会社のシフトは、強力な DCP の開発によって実現した。「Autodesk BIM 360 と Autodesk Forge、さらに Microsoft とBluebeam で形成されました。重要なのはコラボレーションです。過去のプロジェクト データのストアと分析を行い、内部ツールを使って、それを現在のプロジェクトに生かします」。
「エンドユーザーは、過去の 2D の設計図と 3D モデル、ドキュメントをどんなデバイスからもレビュー可能です。以前のように未更新かつ高価で間違った情報に頼る必要はありません」。
このゴールを達成するため、様々な統合とデータソース、API レイヤーが活用された。「現在のチャレンジは、関係性が構造化されていない構造化データの分析が難しいということです」と、ヨハンソン氏。「異なるシステムから集めたデータをロジカルに関連付けることで、AI と機械学習の可能性を解き放つことができると確信しています。それが、より多くの情報を活用し、自信を持った決断を迅速に行うのに役立つでしょう」。
AI と機械学習を活用することで、チームはより多くのデータの翻訳と分析を行い、安全性やサステナビリティ、効率に関する新たな洞察を作り出すことができる。「現場の仲間へ、リアルタイムで洞察を提供できます」と、ヨハンソン氏。「問題やプロジェクトの計画、リスク、コスト管理へ、より能動的な対応が可能となります」。
また、現場の安全性と効率を識別するため、スカンスカはオブジェクト認識を活用している。危険なエリアを移動している仲間や協力会社へ警告を出し、現場の作業員が適切な安全装備を装着していることを確認可能。それを BIM 360 など、使用されているツールで視覚化可能だ。
新たな働き方
このプラットフォームは継続的に進化している。「現時点で、機材やセンサー、カメラから多くのデータと情報が得られていますが、まだ分析は自動化できていません」と、ヨハンソン氏。
データは現在のプロジェクトにおいて、さらに有用で関連性の高いものになっているという。「機械学習の助けを得て、より多くのデータの翻訳と分析を行い、そこで得られた洞察をプロジェクト リードや協力会社と共有することで、最終的には安全性や環境、効率の向上につなげられればと考えています」。
では、スカンスカの目標に対して目立った変化を生み出すものとは? ユングベリ氏は、ここでも技術的なノウハウよりチームワークの重要性を強調する。「デジタル コンストラクションは、ひとりで実現できるものではありません。従業員とパートナー、基準の間での、コラボレーションがカギです」。
「最も多くのデジタル ツールやアプリ、センサー、スキャナーを手にしたものが勝利を収めるわけではありません」と、ユングベリ氏。「デジタルな設計や施工を、現在の作業方法のように会社全体で受け入れられたところが勝利します。それが目指すところであり、DigitalHub と DCP によって実現できると考えています」。