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設計と製造のデジタルコンバージェンスをジェネレーティブ デザインが実現

Autodesk Impact Residency Programの参加者がオートデスク テクノロジー センターで加工作業を実施中

少子化や人口の減少が進む日本では、それに伴う労働人口の減少が問題視されている。一方で世界に目を向けると人口増加が加速しており、2050年には世界人口が100億人を超えると予想されている。そのため、今後は国内の製造業も世界をマーケットとして見据えていかなければならないフェーズに入るが、実際のところ製造業においては、この10年間で生産性は3%しか向上できていないという。

生産性の向上は、人の努力だけでは実現できない。新たな技術を提供し、活用を促進することで製造業の現場を活性化することが重要だ。設計と製造、加工の分野を融合させ、人間だけでは確認できないこと、作業が難しいことにさまざまな新しいテクノロジーを使うことで、設計と製造の現場の連携をタイトにできる。

オートデスクが先端技術開発ラボとして2013年にサンフランシスコにオープンしたオートデスク テクノロジー センター(以前はPier 9と呼ばれていた)

オートデスク テクノロジー センターの3D print and Laser ShopにあるAutodesk Workshop

オートデスク テクノロジー センターでロボットを使ったものづくりの作業中

オートデスク テクノロジー センターでは製造業向けの新技術の開発、デザインと製造を融合する取り組みが行われている

その最も先端的な技術として注目を集めているのがジェネレーティブ デザインだ。デザイナーやエンジニアが1台のコンピューターを受動的なマシンとして活用していた旧来の方法では、限定的で少数のデザインしか試すことができなかった。だがデザイナーやエンジニアがコンピューターと共同作業をするという発想のジェネレーティブ デザインでは、AIとクラウド コンピューティングを活用することで、短時間で何百・何千通りもの案を導き出すことが可能となる。

例えばドローンの筐体を作る場合に、プロペラの位置やバッテリー、基板の位置、各所にかかる力などを数値として入力することで、3Dプリンターでの出力を前提に、従来の製造方法には縛られない形を導き出すことが可能だ。軽さや耐衝撃性を追求すると、モモンガのような曲線的なデザインが提案された。ジェネレーティブ デザインに特徴的なのは、こうした自然の中にあるような形状が現れることだ。自然界に存在するカタチは、人間が指定する簡単なカタチとは異なり、長い時間をかけて環境に適応するように最適化され、理にかなったデザインだと言える。こうした提案が、設計者のアイデアを広げることができる。

ジェネレーティブ デザインによるドローンのデザイン例

ジェネレーティブ デザインによるドローンのデザイン例

ジェネレーティブ デザインを使った設計・製造に取り組む企業

ゼネラルモーターズ (GM) は、これまで膨大なコストと時間を費やして車体重量の軽量化にチャレンジしてきた。1台におよそ3万点ものパーツが使われる自動車の設計において、個々のパーツのデザインソリューションを模索するのは、未来に向けた必然と言える。その取り組みのひとつが、ジェネレーティブ デザインを取り入れたシートベルトのブラケットの設計で、複数の部品をひとつにして、軽量で強いパーツをデザイン。コンセプトモデルは3Dプリンターで出力して切削を行なっているが、将来的な量産に際しては鋳造による生産を目標にしている。

株式会社デンソーの場合は、自動車のパーツであるECU (Engine Control Unit) の設計にジェネレーティブ デザインを活用し、軽量化して冷却効率を高めたコンセプトモデルを作成。またWHILL株式会社は、金属3Dプリントを活用して電動車椅子のフレームを軽量化し、ポータブルモデルのさらなる軽量化に取り組んでいる。いずれの場合も、量産を行う際にはダイキャストでの製造になるだろう。

人間の作るデザインは、どうしても従来のカタチから離れづらい。だが、さらなる軽量化を追求する際にジェネレーティブ デザインを活用することで、カタチにとらわらず安全率のギリギリを攻めることができる。デザインタイムも短くすることができ、また出力にもウォータージェットや切削など、利用できるオプションが増えてきた。最新の機械を導入することは難しい場合も、現在の設備を活用できるようにさまざまな加工法を比較できるようになるなど、そのテクノロジーは日々進化している。

従来の重量168kgのクリンカーフレーム (左) とジェネレーティブ デザインをもとに最終デザイン展開したエンジニアリング版 (52kg) [Image courtesy of Claudius Peters]

ジェネレーティブ デザインを活用してコンクリートを冷却するクリンカー クーラーを軽量化 [Image courtesy of Claudius Peters]

独Claudius Petersのクリンカークーラーもユニークな事例だ。熱したセメントを流しながら温度を下げるこの装置では、168kgもあったベースプレートパーツのフレームを、ジェネレーティブ デザインにより52kgにまで軽量化。長い歴史を持つ企業による、こうした大型で重厚な装置の場合も、従来必要だと思われてきたカタチや製造方法からの脱却は難しい。だが、ジェネレーティブ デザインによる反復プロセスを経てデザイン展開をすることで必要な補強材の位置が把握でき、従来と全く同じ製法と設備を使いながら製造するパーツの軽量化に成功している。

先日、大きな話題を集めたのが、世界的に有名なデザイナーであるフィリップ・スタルク氏がジェネレーティブ デザインを使って椅子をデザインし、「A.I」と名付けて商品化・販売すると発表したことだ。AIがチェスで人間に勝利したことをきっかけに、自身のデザインの幅を広げるため、彼自らがオートデスクへ直接コンタクト。ジェネレーティブ デザインは、いわばフリースタイルのチェスのようなものだ。AIによって様々な手が提示されるが、最終的にどの案を採用するかは人間が決めることになる。

ジェネレーティブ デザインをコンフォーマル冷却に活用

製造業界では、さまざまなものの成形加工が行われている。そのプロセスの中で最も時間がかかるのが金型の冷却であり、冷却時間を短縮することで成型時の生産性を向上できる。冷却方法の中でコストと時間短縮の効果が実証されているのが、成形品の形状に沿った冷却管を配するコンフォーマル冷却と呼ばれる方式で、生産スピードを飛躍的に上昇させることが可能だ。

成形品形状に沿った冷却管を配した新たな冷却手法であるコンフォーマル冷却

直管の組み合わせによる従来の冷却方法

現在研究段階にあるのが、そのコンフォーマル冷却管にジェネレーティブ デザインを応用する手法で、従来のような直管の冷却管の組み合わせでなく、複雑な成形品の形状に沿わせるように、金属3Dプリントにより曲がった冷却管を配置する試みだ。そのために樹脂のフロート解析、冷却管のフロート解析のデータを使って3Dメッシュで冷却回路をシミュレーションし、温度、流速、圧力を正確に算出した上で、その複雑な構造の冷却管を金属3Dプリンターで出力する。だが樹脂と同様、金属の3Dプリンターも樹脂と同様に溶けた材料を固めているため、縮みが大きく不良が出やすい欠点がある。

とりわけ細い部分、薄い部分などは歪みが大きくなってうまく出力できないが、3Dプリンターのメーカー各社と協力して出力条件のデータを作り、熱による歪みを予測して、逆変形形状を出力できるよう3Dモデルで確認。その解析の結果、これが実現すれば冷却時間を大幅に縮めることができるという結果を得ることができた。こうしたコンフォーマル冷却のシミュレーションは、コスト削減はもちろん、部品と金型の設計から射出成形シミュレーション、積層造形、切削加工までを解析・管理することが製造業の現場にどのような利点をもたらすかを明確に示している。

今後はクラウドベースのシステムが使われることで、各工程で会社や国が違う場合にもコラボレーションが可能となり、加工機も繋げることができる。従来は製造業や建設の現場で使われるCGは専門家がレンダリングを行う必要があったが、今後は設計者がソフトウェア上で3Dモデルを作り、それを仕様書に落としたり解析を行ったりすることも広く利用されていくだろう。ジェネレーティブ デザインのような先端のテクノロジーとこうした連携が、設計・製造のワークフローに革新的な変化をもたらすに違いない。

著者プロフィール

加藤久喜はプラント企業で設計を担当した後、2001 年にオートデスク株式会社へ入社。技術営業エンジニアとして製造業向け 3D CAD/CAM/CAE ソリューションの提案業務に従事。現在は技術営業本部部長を務めるかたわら、米国本社の開発チームや戦略チームとの太いパイプを生かし、業界での豊富な経験と幅広い技術知識に基づいて、オートデスクが持つすべてのソリューションと新技術から、顧客へ最適な提案をするための戦略立案を担当。

Profile Photo of Hisayoshi Kato - JP