設計支援とプレキャスト コンクリートでかなえる建築の夢
古代ローマ人が石灰と火山岩を混ぜ合わせて生み出したモルタルは、現代の鉄筋コンクリートの先駆けとなった。それが建設後 2,000 年を経て現存するローマのコロッセオなど、エンジニアリングにおける偉業を可能にしたのだ。
この多用途な材料は、現在はさらに進化を続けている。現場へ設置する前に工場であらかじめ成型、硬化させたプレキャスト コンクリートは、建設プロセスを合理化しつつ大型で複雑なアイデアを実現する、建築の新たな波となっている。
米国プレキャスト製造業の最大手、Gate Precast でマーケティング ディレクターを務めるモー・ライト氏は「コンクリートは世界でも数少ない完全人工材料のひとつで、アイコニックな構造デザインを実現しながら歳月の試練に耐え、100 年を超えるライフサイクルで、維持の手間もかかりません」と話す。
そのアイコニックな構造を実現する上で重要な要素が、Gate Precast の設計支援への関与であり、プレキャストの協力会社がデザイン プロセスで積極的な役割を果たす。「設計支援は、コンクリートを使った最も革新的かつ最先端のアイデアを優れたコスト効率で実現する方法を、デザイン コミュニティへ示す手法になっています」。
独自の設計支援モデルを用いて、Gate Precast は、各プロジェクト デザインの開始時点でエンジニアリング チームのメンバーを参画させることを目指している。「デザイン プロセスのできるだけ初期の段階、できればコンセプト作成や作図の段階で関与できればと思っています」と、ライト氏。「それにより、エンジニアやモデラーは有意義な貢献を行うことができます。デザインを変更するのではなく、デザイナーが実現したいことをどう行えるかを、構造的に、かつ効率的に示すことができるのです」。
Gate Precast における設計支援の導入は、社内のエンジニアリング知識向上の取り組みへとつながった。Gate Precast は 18 名のエンジニアと 64 名のモデラー、デザイナーを直接雇用しており、Autodesk Revit を使ってサポートしている。「Revit のような優れたモデリングツール無しには設計支援は不可能で、十分な生産性を上げられないでしょう」と、ライト氏。
プレキャストの設計支援には、相当のメリットがある。まず、複雑さを減らし、コストも低下させる。初期のコンセプトにわずかな調整を行うことによりデザイナーはプレキャスト セグメントに必要な型枠の数を減らし、セグメントの成型と運搬を単純化して設置を合理化できる。設計支援は、変更命令や範囲変更の回数を減らし、建設時の干渉の低下にもつながる。「デザイン チームと早い段階で関与することで、私たち独自のモデルと建築家のモデルを併せて扱う機会が提供されます。それにより、弊社の BIM テクニシャンはコンクリートを流し込む前に干渉や不具合を検出できます」と、ライト氏。「これは本当に重要です」。
もうひとつの利点はスケジュールの短縮だ。「オーナーとともに積極的に関与し、設計支援方式で建築家やエンジニアと協力して取り組むと、プレキャスト セグメントのディテーリングなどの典型的なデザイン作業をプロセスの次段階へと進め、契約がまとまると同時に型枠の作成をスタートさせることができます」と、ライト氏。「この調整により、デザインと建設のスケジュールを最大で 24 週短縮できています」。
テキサス州ダラスのペロー自然科学博物館は、Gate Precast が開拓した初期の設計支援モデルの例だ。「業界にとってのターニング ポイントでした」と、ライト氏。「このプロジェクトで Morphosis Architects は並外れたプレッシャーに直面していましたが、それだけに早い段階から私たちと共同で取り組むことにも積極的でした」。博物館基金は新しい博物館がロス・ペローの価値観を反映したものとなることを望んでいた。それは、博物館の姿形よりもプログラムやコレクションに重点を置いた「人々のための博物館」を意味しており、デザインや建設コストを抑える必要があった。だが Morphosis と代表建築家のトム・メイン氏は、彫刻的で重層的なファサードを持つアイコニックな建造物で広く知られる人物だ。
Gate Precast の設計支援契約は、両者のニーズを満足させる効果的な方法であることが立証された。「私たちがプロジェクトに招かれた際、Morphosis はアイデアを探索中で、特定のコンセプトが固まっていたわけではありません」と、ライト氏は説明する。「これは、私たちの立場から見れば理想的な状態でした。プレキャスト技術で実現可能なことを Morphosis に説明したところ、彼らはプレキャスト技術の知識がなければ生まれてこなかったであろうアイデアで応えてくれました。それを受け、私たちは最終的なデザインを、よりコスト効率の高いものにするのに役立つ提案を行えたのです」。
Morphosis のデザイナーたちは最初のミーティングから数カ月のうちに、プレキャストの能力について学んだことに裏付けられたデザインを Gate Precast のエンジニアに送ってきた。「彼らがプレキャストの可能性を違和感なく活用するのに役立ったのは、凹凸のある球体や複雑な形状、切頂六面体などシンプルで遊び心のあるものでした。依頼に応じてモックアップを作成し、評価用に完成した幾つかのプレキャスト セグメントを送りました」。
この現場での取り組みはプロジェクト全体を通じて続き、Morphosis と Gate Precast の両チームは、プロジェクト現場と Gate Precast の製造工場で協調して取り組んだ。その重要なイノベーションに、Gate Precast が開発した「組み立てユニット式」コンセプトがある。この技術は、簡素な博物館のコンクリート外壁に、複雑に感じられる縞模様の外観を与えている。
「数百の型枠を用意して使う代わりに 12 の型枠を使い回すことで、それぞれが異なる 350 のパネル表面を作成する方法を見出しました」と、ライト氏。「これは大幅な節約につながりました」。コストダウンを実現したその他のイノベーションには、曲面パネル製造の新手法や、さまざまに異なる型枠に対して同一のコンクリート配合を使用するテクニックがある。これらは、一体感のある外観を生み出すのに役立っている。
Gate Precast の関与はコスト削減につながったが、それだけではなく、華麗でアイコニックな建造物を望む Morphosis の欲求も満たした。ペロー自然科学博物館は数々のアワードを獲得しており、特にそのプレキャスト製の外観はさまざまな業界誌に取り上げられた。
Gate Precast による最新のイノベーティブなプロジェクトは、COOKFOX Architects の設計による、ブルックリン・ウィリアムズバーグ地区ケント通り 260 番地の Two Trees Development だ。「これは現在取り組んでいる数々の素晴らしいプロジェクトのひとつに過ぎません」と、ライト氏。「現在、55 件目の設計支援契約案件に取り組んでいます。私たちには、米国が建築のルネッサンスの真っ只中にいるように思えます。そういった動きにおける不可欠な役割を果たしていることに、私たちはこの上ない喜びを感じています」。
テクノロジーとイノベーションが昨今の建設ブームに高い水準の生産性をもたらし、そこでプレキャスト コンクリートと設計支援が大きな役割を果たしている。古代ローマにおける設計者とは、形状と機能、建設可能性の組み合わせにより荘厳な建造物を生み出す棟梁だったが、現在のデザイナーやエンジニアはモダンかつアイコニックな構造物を、はるかに少ないストレスと苦労で生み出している。