Rhizomatiks真鍋大度氏のクリエイティブの源となる探究心
2018 年 6 月、Redshift のトークイベント シリーズとして、世界に先駆け東京・永田町グリッドで開催された「Redshift Live」に、Rhizomatiks (ライゾマティクス) 設立者のひとりである真鍋大度氏と、氏が率いる Rhizomatiks Research 所属のエンジニアたちが登壇。ここでは第一部で行われた真鍋氏のプレゼンテーションから、そのクリエイティブの源を探ってみよう。
現在では、日本のメディアアート界のトップを独走するクリエイター集団として、つねに注目を集める存在となった Rhizomatiks が、真鍋大度、齋藤精一、千葉秀憲、堀井哲史の 4 氏によって設立されたのは 2006 年。設立当初は当時全盛だった Flash の作品や Web 制作がメインの仕事で、真鍋氏自身はサウンド デザインや ICC (NTT インターコミュニケーション・センター)、山口情報芸術センター (YCAM) での展示作品などの仕事を粛々と行っていたという。
その後、インタラクティブな Web 広告やライブで行うパフォーマンス的なプロジェクトが増え、近年では演出振付家 MIKIKO とともに手がける Perfume のライブ演出サポートや、リオデジャネイロオリンピック閉会での AR (拡張現実) を駆使したフラッグハンドオーバーセレモニー演出などでも広く知られている。設立 10 周年を迎えた 2016 年には R&D、メディアアートを手がける「リサーチ」、空間の在り方を創り変える「アーキテクチャー」、課題を発見し解決へと導く「デザイン」の 3 部門を設立。真鍋氏は、石橋素氏とともに「リサーチ」部門を率いている。
Rhizomatiks Research のチームは、4 つのフィールドに分かれている。真鍋氏が以前から追求し続けている身体系、モーション キャプチャーやバイオセンサーなどを用いた研究を手がけるチームと、カメラ・テクノロジー、機械学習を手がけるチーム、ハードウェア (主にドローンやロボット) を手がけるプロダクト デザインと、データのビジュアライゼーションなどを手がけるグラフィックデザインのチームだ。テクノロジーを駆使した彼らの作品づくりには、どのエリアも欠かせない複合的なチーム編成であることがわかる。
Rhizomatiks Research の強みのひとつに挙げられるのが、アート プロジェクトとコミッション ワーク (クライアントからの委託制作) の両方を日々行うことで、双方にプラスとなる結果を生み出していること。純粋な作品制作であるアート プロジェクトは、自分たちで課題を設定し、意思決定をして制作を行える。大きな予算は無いものの、ハードルの高いチャレンジを自由に設定できる。一方、コミッション ワークは予算があっても制作期間が非常にタイトであることが多く、限られた時間の中でスマートに課題を解決し、着実に実現することが求められる。それを支えるのは、日々の研究開発と、アート プロジェクトでの試行錯誤だ。
真鍋氏はアート プロジェクトの強みを「実験的なプロジェクトを行うことによって技術的な検証だけでなく、そのアイデアが面白いかどうか、表現として強度があるかどうかを検証出来る。一個のプロジェクトで完成しなくても同じテーマ、モチーフで続けていくことで徐々に面白さが出てくる場合もある」と語る。そこで特に大切にされているのが、アイデアの源だ。どこからインスピレーションを得て、どのように創作に活かしていくのか ーー 彼はとにかく「元ネタを掘る、ルーツを探る」ことを最重要視しているという。当日のプレゼンテーションでも、実際にどこまでルーツを探っていくのかを見せてくれたが、「そこまで探すのか」と感じさせるほどの、驚くべき探求ぶりが強く印象に残った。
例えば、近年注目を集めるドローンの活用について。2018 年の平昌オリンピックで披露されたインテルの光のショーを皮切りに、そのルーツが真鍋氏ならではの切り口で紐解かれた。2012 年のアルスエレクトロニカで披露されたトルコのメディア・アーティスト、メモ・アクテン (真鍋氏の友人でもある) による作品「Meet your Creator」は、室内にモーション キャプチャーを設置してドローンの位置を認識し、無線で制御するということが世界で初めて、観客の前で公開された作品だという。
さらに遡り、モーション キャプチャーを使ったドローンのプロジェクトとして「ドローンを使って建築物を建てる」ものや、世界で最初にモーション キャプチャーでドローンを制御することに成功した MIT のチームの研究成果も紹介。さらにドローンのルーツとして、もともとは軍事用として開発されたドローンが、現在ではエンターテイメントに多用されるようになった背景をも押さえながら、第一次世界大戦時に作られた無人飛行機までを早足で見せる。さらに、ディープ ラーニングなどのルーツの一端も垣間見せてくれた。
真鍋氏は DJ としてのキャリアも持ち、そこにはヒップホップなど音源のルーツ探しを競い合うような DJ カルチャーの影響もあるのかもしれない。また、特にアートの文脈ではヒストリーを踏まえての作品制作が強く求められる。メディアアートだけに目を配ると、その歴史は絵画や彫刻などに比べればかなり浅いが、真鍋氏はメディアアート誕生以前から脈々と続くアートの系譜のつながりも指摘。「テクニカルなルーツとともに、美学的なルーツを探ることがアート作品を作る上では必要となってくる」と語る。
テクニカルなルーツは、作品として世に出る前のものが多いため、実際に研究室を訪ねて見せてもらい、意見交換を行うことも多いという。たとえば、京都大学の神谷之康氏の研究室で行われている「脳情報デコーディング」について。脳情報デコーディングとは、脳の信号を人間が理解できる形に翻訳するというもので、会場では神谷氏の研究も紹介しアートプロジェクトに繋がる可能性を語ってくれた。
こうした幅広い分野における探究心が、アートとテクノロジーの最先端を極める Rhizomatiks Research の制作姿勢へと繋がっている、ということが理解できたプレゼンテーションだった。
2018 年 9 月、東京で Rhizomatiks Research x ELEVENPLAYの公演「discrete figures」が、また同公演コラボレーターのアーティスト、カイル・マクドナルドのトークイベントが行われる予定。イベントの詳細は 7 月中旬に発表される。